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明けの明星が輝く空に 第120回:干支と特撮:ネズミ

明けの明星が輝く空に 第120回:干支と特撮:ネズミ

【最近の私】オリンピックチケットは、何も申し込んでないけれど、とりあえずマラソンを見ようかと宿だけ確保。自転車ロードレースはどこで見るか。やっぱり山の上りだよなあ。

 
世界一有名なネズミは、もちろんミッキーマウスだろう。アメリカのアニメ界はミッキーの他にも、『トムとジェリー』のジェリーや、『マイティ・マウス』のマイティ・マウス(ネズミ版スーパーマン!)といった、愛されるネズミのキャラクターを生んだ。日本にも、ガンバ(『ガンバの冒険』)のような主人公キャラはいるけれど、ねずみ男(『ゲゲゲの鬼太郎』)なんて、人気者からは程遠い。さらに特撮界では、ネズミの扱いはもっとひどくなる。敵役ばかりなのだ。

 
強いイメージのないネズミだけれど、厄介なのは病原菌をばらまくことだ。ネズミをモチーフとした怪人は、当然その点を“強み”にしている。『仮面ライダー』のネズコンドル、『仮面ライダーV3』のスプレーネズミ、『人造人間キカイダー』のムラサキネズミ。みんな病原菌を使い、人類に恐怖を与えようとした連中だ。恐ろしいといえば恐ろしいが、手口が手口だけに狡猾な印象を拭えない。

 
しかし中には、愛すべきネズミの怪人がいた。いや、敬意を表すべきと言った方が良いかもしれない。特撮時代劇『快傑ライオン丸』の第14話に登場したネズガンダだ。彼は“敵”ではあるが、“悪”ではない。物語冒頭、追い剥ぎらしき男たちに襲われている旅人を助けたのは、主人公の獅子丸ではなく、三度笠に道中合羽姿という渡世人スタイルのネズガンダだった。指図されるのが大嫌いな彼は、上からの命令もどこ吹く風だったが、ライオン丸が強いと聞かされ、俄然やる気が出る。「俺の腕前を見せてやるか」とつぶやき、立ち上がって歩き出した。驚くのは、ネズガンダが歩くだけのカットが、40秒近く続くことだ。その間、全くセリフはない。そしてサックスだろうか、寂寥感漂う音色のBGMが流れている。おそらく、ネズガンダのテーマ曲だろう。レギュラー怪人ならともかく、1話限定の敵役に専用のBGMを用意するとは! 異例とも言える長さのワンショットも含め、怪人に対してなんと破格の待遇だろうか。

 
ネズガンダの武器は手裏剣が飛び出す二丁拳銃だが、強い相手との対決を望み、卑怯な手を嫌った。獅子丸が怪我を負っていると気づくと、「やめておこう。怪我人と勝負しても面白くないからな」と言って、去ってしまう。その後、クライマックスの対決シーンでは、死角から加勢しようとした味方を迷うことなく撃ち殺し、「邪魔をするな」と言い放つ。

 
悪に染まらないネズガンダ。獅子丸は対決に先立ち、「本当の敵は他にいるんだ」と、戦うことの無意味さを説いたが、ネズガンダには戦いを避けられない“ある事情”ができていた。仕方なくライオン丸に変身した獅子丸も、正々堂々とした戦いを望み、ネズガンダに弾を込める余裕すら与える。そして二人は無言のまま、決闘にふさわしい場所へ移動。ライオン丸が立ち止まると、ネズガンダはその背を横目に数歩進み、お互い背中を向けて“その時”を待った。ここに挿入される映像は、二人がそれぞれ思い描く勝利へのイメージだ。決闘の前に、十分タメを作る演出が憎い。現実の戦いで勝ったのは、もちろんライオン丸。しかし、勝利の高揚感はない。そういえば戦いの最中、普通ならライオン丸のテーマ曲が流れるはずなのだが、それもなかった。舞台は海岸の岩場。ただ岩に当たって砕ける波の音だけが、終始聞こえてきていた。

 
ネズガンダの魅力は、正々堂々とした戦い方以外にもある。例えば、その台詞。上で紹介したように、怪我人とは戦わないと言ったときも良かったが、それ以上にシビレルのが、獅子丸との初対決の際だ。いつの間にか獅子丸にヒゲを切られていたことに気づき、「味なことをやるじゃねえか。礼を言うぜ。」と、半ばうれしそうに言う。凡百の怪人が束になっても、そんなセリフは出てきやしない。

 
そうかと思えば、やさしい一面ものぞかせる。彼はペットを連れていた。かなり奇妙なことに、それはネズミなのだが、「チューチュー」と鳴き声が聞こえたりすると戦いの最中でも餌をやり始め、しまいには「どうも気分が乗らん」と言って去ってしまう。実は、ライオン丸と戦わざるを得なかった事情というのが、組織にそのネズミを“人質”にとられてしまったからだった。大切なペットを助けるためであっても、決して卑怯な手は使わなかったネズガンダ。ライオン丸に斬られ、海の中に消えていった後の波間には、彼が守ろうとしたネズミが、籠に入れられたまま漂っていた・・・。

 
獅子丸たちが海を見つめるエンディング。そこに流れるナレーション。「ネズガンダはきっと生きている。獅子丸たちはそう信じたかった。さようなら。さすらいの怪人ネズガンダ!」と、悲劇性を強調するのだった。これほど特別扱いされた怪人は、他にいないだろう。まさに、特撮界の“ワン・アンド・オンリー”だ。

 
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る

 
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