明けの明星が輝く空に 第122回:サブタイトルの誘惑
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初期ウルトラシリーズ(1966年~1968年)のサブタイトルには、「言葉のロマンチシズム」を感じる。そう言ったら大げさであろうか。最近ネット上で取り上げられた話題を見て、それを改めて考えた。その話題というのは、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』のサブタイトルが、『ウルトラセブン』のサブタイトルに似ているというものだ。
例えば、初回「光秀、西へ」は「ウルトラ整備隊西へ」(14・15話)を想起させるし、第4回「尾張潜入指令」、第5回「伊平次を捜せ」、第6回「三好長慶襲撃計画」はそれぞれ、「アンドロイド0指令」(9話)、「明日を捜せ」(23話)、「セブン暗殺計画」(39・40話)に類似していると指摘されている。
大河ドラマの制作者が意図したものかどうかは別として、『ウルトラセブン』には味わい深いサブタイトルが多い。そしてそれは『ウルトラセブン』だけでなく、『ウルトラQ』と『ウルトラマン』を含む、初期ウルトラシリーズ全般に言えることなのだ。
それらを紹介する前に、比較として『仮面ライダー』の例を見ておこう。典型的なのが、「怪人エレキボタル 火の玉攻撃!!」(70話)や「怪人イノカブトン 発狂ガスでライダーを倒せ」(83話)のように、ひねりのないストレートなものだ。これは、同じ1971年に放送が開始された『帰ってきたウルトラマン』も同様で、要するに子どもの視聴者を惹きつけるには、わかりやすいサブタイトルが求められた時代だったのだろう。
それに比べ、初期ウルトラシリーズのサブタイトルは内容が予想しづらいが、何かしらの物語性は感じられる。上記の例で言えば、「ウルトラ警備隊西へ」や「アンドロイド0指令」がそうだ。言外にある意味を想像させるだけの情報は提示しつつ、ギリギリのところで踏みとどまっている、そんな感じがする。
言葉というのは面白いもので、より少ない語数でより奥行きのある世界を構築することができる。詩や俳句は、その最たる例だ。そして、そういった言葉に僕らはロマンを感じるのである。だから『ウルトラQ』の「東京氷河期」(14話)、「1/8計画」(17話)、「206便消滅す」(27話)、や、『ウルトラマン』の「ミイラの叫び」(12話)、「悪魔はふたたび」(19話)、「怪獣墓場」(35話)、さらに『ウルトラセブン』の「闇に光る目」(16話)、「人間牧場」(22話)、「月世界の戦慄」(35話)などは、謎めいた中にも物語性がにじみ出ていて、期待感で人をワクワクさせる力がある。
謎めいた言葉は、それだけで想像力を刺激することもある。「無限へのパスポート」(『ウルトラマン』17話)は、「無限」という言葉がSF的な異空間の広がりを感じさせるし、「散歩する惑星」(『ウルトラセブン』32話)は、「散歩」と「惑星」という奇妙な言葉の組み合わせが、不可思議な世界への扉を開いてくれているようだ。
初めて耳にする未知の言葉も、他の言葉との組み合わせが生む意味ありげな響きによって、魅力的に映る。たとえば「バラージの青い石」(『ウルトラマン』7話)は、ミステリアスな「バラージ」という言葉に「青い石」を組み合わせ、どこかロマンチックな空気を漂わせる。「ゴーガの像」(『ウルトラQ』(24話)や「ノンマルトの使者」(『ウルトラセブン』42話)なども、「ゴーガ」や「ノンマルト」が「像」や「使者」と結び付くことによって、何かしら特別な言葉に見えてくる。
僕が一番好きなサブタイトルは、『ウルトラセブン』12話(欠番)の「遊星より愛をこめて」だ。(“欠番”扱いとなった経緯については、当ブログの第77回『幻の一作』https://www.jvta.net/co/akenomyojo77/をご参照ください。)「遊星」という言葉に、僕はなぜだかわからないが、得も言われぬロマンを感じる。それに、ある種の“趣”、あるいは“古典SF文学的な香り”があるような気がするのだ。『ウルトラマン』の「遊星から来た兄弟」(18話)もその点では同じだけれど、「兄弟」で終わるのと、「こめて」で終わるのでは感じ方が違う。なぜなら、「こめて」は言葉が完結しておらず、“余情”とも言うべき味わいが感じられるからだ。この余情が、心に深く沁み入ってくる。
手前味噌になってしまうかもしれないが、当ブログのタイトルも言葉を完結させていない。大雑把に言えば、“『明けの明星が輝く空に』特撮作品を思い描く”という意味が込められているのだ。これを考えたとき、「遊星より愛をこめて」を意識したわけではないのだけれど、どこか心の奥の方から声が聞こえてきたのかもしれない。ちなみに「明けの明星」は、『ウルトラセブン』最終話の台詞の引用だ。主人公が最後の戦いに挑む前、「西の空に明けの明星が輝く頃、ひとつの光が宇宙へ飛んでいく。それが僕なんだよ」と、ヒロインに正体を明かした際の言葉である。ウルトラセブンは戦いを終えると、地球に別れを告げ、朝焼けの空へ消えていった。(第50回「ダンはきっと帰ってくる」https://jvtacademy.com/blog/co/star/2014/03/50.php)そして、僕にとって“明けの明星が輝く空”は、セブンのことを思い出すシンボル的な情景になったのだ。
『麒麟がくる』は、今後も『ウルトラセブン』のファンを喜ばせるようなサブタイトルを用意しているだろうか。今回紹介したものの中で使えそうなのは、「月世界の戦慄」と「ノンマルトの使者」だ。それぞれ、比叡山の焼き討ちの回で「延暦寺の戦慄」、足利義昭から信長誅殺の密書が来る回で「義昭の使者」としてはどうだろう。第六天魔王と名乗ったとの説もある信長の居城、安土城落成の回は「魔王の住む城」(31話「悪魔の住む花」)、本能寺の変の回は「史上最大の謀反」(48・49話「史上最大の侵略」)、直後の秀吉による中国大返しの回は「秀吉が来た」(45話「円盤が来た」)なんていうサブタイトルが、ひょっとすると見られるかもしれない。
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
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