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明けの明星が輝く空に 第125回:ウルトラ名作探訪1:「2020年の挑戦」

明けの明星が輝く空に 第125回:ウルトラ名作探訪1:「2020年の挑戦」

今年は2020年。改めてそう考えたとき、「あっ!」となった。ウルトラシリーズ第1作『ウルトラQ』(1966年)の傑作エピソード、「2020年の挑戦」を思い出したからだ。

 
「2020年の挑戦」のことを書く前に、『ウルトラQ』について簡単に触れておこう。この作品には、ウルトラマンのようなスーパーヒーローが登場しない。主人公は、万城目淳(小型機パイロット)、戸川一平(同助手)、江戸川由利子(報道カメラマン)の3人。彼ら一般市民が、不可思議で怪異な事件に立ち向かうというのが基本プロットだ。また、シリーズ唯一のモノクロ作品でもあり、そこでも異彩を放っている。

 
「2020年の挑戦」は、謎の飛行物体によって自衛隊機が消滅するところから物語が始まる。やがて、人間が公衆の面前で消える事件が連続。主人公のひとり、万城目まで飛行機の操縦中に消えてしまう。犯人は、2020年という未来の時間を持つ星から来たケムール人だった。彼らは医学の発達により500才という寿命を手に入れたが、肉体の衰えを止めることはできず、地球人の体に目を付けたのだ。

 
物語はサスペンス調に展開し、観る者を惹きつける。中盤のシーンを例に挙げよう。夜の電話ボックスで、由利子が一平と話している。一平によれば、神田という博士の著書、『2020年の挑戦』に書かれた通りに事件が起きているという。その本の表紙には、電話の受話器を持った女性の写真。表情は恐怖にゆがんでいる。一方、由利子のいる電話ボックスには、アメーバのようにうごめくゼリー状の液体が侵入し、天井へと移動していく。実は、この謎の液体に触れた者は皆、姿を消してしまうのだ。それに気づき驚く由利子。彼女めがけて液体が落ちてきた。異変を感じた一平が呼びかけるが、返事がない。電話ボックスの中では、垂れ下がった受話器が揺れているだけだ。「まさか、由利子も?」と思った直後、画面は彼女とその護衛に付いていた老刑事の宇田川を映し出す。宇田川がタバコを投げつけると、謎の液体は燃えて消滅してしまった。すると、どこからか奇妙な電子音が聞こえてくる。音のする方へ駆け出す宇田川。そこへ響く不気味な笑い声。目の前に、奇怪な姿のケムール人が立っていた。

 
このスリリングな一連のシーンは、由利子と一平のカットを交互につないでテンポ良く進むのだが、異変が起こる前後での緩急の付け方、そしてそこからの切り替えが実に巧みだ。まず、じわじわと迫る危機を見せることで緊張感を醸し出し、驚く由利子の表情で最高潮に持っていく。そこから一転、ひとまず視聴者を安心させておいてから、今度は謎の電子音で新たな展開の始まりを示し、一気にケムール人登場へとつなげる。見事な演出というほかない。

 
「2020年の挑戦」の監督は、飯島敏宏氏。この作品では千束北男という名義で共同脚本も執筆しているが、ケムール人が未来の人類の暗喩であることは明らかだろう。彼らは、地球人に対する反面教師だったのだ。ただ、飯島監督は悲観主義者ではなく、人間はそこまで愚かではないという思いを胸に、番組作りに携わっていたそうだ。

 
それにしても、ケムール人という異星人は謎めいている。宇田川の前に現れたあと何もせず、笑いながら走り去ってしまうのだ。この走り方がまた特徴的で、大股で跳ねるように走る。しかも速い。追跡するパトカーを余裕で振り切ってしまう。独特の走り方は、当初ローラースケートを履いて撮影する予定だったが、重い着ぐるみでは危険だと判断され、却下されたことから生まれたものだそうだ。ちなみに、スーツアクターはウルトラマンも演じた古谷敏さんである。古谷さんの長身で細身の体が、ケムール人の異形ぶり、さらにミステリアスなイメージの醸成に一役買っている。

 
このあと物語は、夜の遊園地を舞台としたクライマックスへと突き進む。闇にきらめくイルミネーションの輝きの中、巨大化したケムール人が立つ映像は、モノクロではあるが幻想的だ。いや、色という余計な情報を排除し、光と影をストレートに表現するモノクロだからこそ、そう感じられるのかもしれない。そして、遊園地に流れるどこか懐かしいメロディー。手回しオルガン風の優しい音色は、光の溢れる映像との相乗効果で、シーン全体にどこか夢物語のように幻想的なムードを漂わせている。

 
サスペンスタッチの怪奇ミステリーに、幻想譚の味わいを加味した「2020年の挑戦」。そのラストシーンも、忘れがたい。全てが終わったあと、ただの水たまりを踏んだ宇田川刑事が消えてしまうのだ。普通に考えれば、「事件は終わっていなかった!」となるが、果たしてどうだろう。踏んだのが例のゼリー状の液体ではなかっただけでなく、消えていく際のコミカルな効果音は、それまでの消滅シーンではなかったものだ。それに消え方も違う。他の被害者たちは動きが止まってから(映像はネガに反転)消えていくが、宇田川刑事は足の方から徐々に闇に飲み込まれ、自分のお腹の辺りに手をやって「ない!」と叫ぶ。僕が思うに、これは飯島監督の“遊び心”に違いない。物語の展開とは無関係の不条理なシーンを加え、スパイスを利かせた。そんなところじゃないだろうか。

 
「2020年の挑戦」(『ウルトラQ』19話)
監督:飯島敏宏、脚本:金城哲夫・千束北男、特殊技術:有川貞昌


  
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】先日打ち上げに成功した米国スペースX社のロケット。なんとそのブースターは切り離された後「垂直着陸」できる。サンダーバード3号やウルトラ警備隊のホーク2号が、もうすぐ現実のものに!?
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る

 
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