明けの明星が輝く空に 第129回:ウルトラ名作探訪4:「ガラダマ」&「ガラモンの逆襲」
怪獣にとって、死に様は見せ場の一つだ。それを“ひとり芝居”でじっくり見せてくれるのが、『ウルトラQ』の2作品、第13話「ガラダマ」と第16話「ガラモンの逆襲」に登場するロボット怪獣ガラモンである。
まずはストーリーを振り返っておこう。13話では、ある山間の村で怪電波を発する隕石が見つかる。実は、異星人の作った電子頭脳が内蔵されていたのだが、その秘密が明らかになるより早く、今度は巨大な隕石が湖に落下。中からガラモンが出現した。怪電波は、異星人がガラモンを操るためのものだったのだ。干上がった湖のダムを破壊し、ガラモンは東京を目指す。そのとき、研究所に運び込まれていた電子頭脳に、電波遮断装置がかぶせられた。ガラモンは活動を停止。東京は救われた。
続編となる16話は、謎の男が電子頭脳を盗み出すところから始まる。逃走する男の行方を追う万城目ら主人公たち。そのとき東京に数個の隕石が飛来し、中から現れたガラモンたちが街を破壊し始める。しかし、山中の湖畔で犯人を追い詰めた万城目たちが、電子頭脳を奪い返して電波を遮断したため、全てのガラモンが活動を停止した。一方、犯人は異星人の正体を現し、湖から現れた宇宙船に助けを求める。次の瞬間、宇宙船が怪光線を発射。任務に失敗した仲間を抹殺し、そのままどこかへと飛び去っていった。
よく考えると「ガラモンは活動を停止しただけで、危険は去っていないのでは?」という疑問は残るが、そこは両作品ともさほど気にはならない。なぜなら、ガラモン最期の様子が、「機能を停止した」というよりも「完全に壊れた(あるいは死んだ)」という印象を与えるからだ。冒頭で触れたガラモンの“ひとり芝居”である。
13話のクライマックスで、ガラモンは電波を遮断され動きが鈍くなる。ガクンと膝をつき、半開きの口からは謎の液体が流れ出す。そして、そのまま倒れ動かなくなった。まるで切腹した武士が、口から血を吐き事切れる場面のようだ。そんな映像に思わず見入ってしまい、「事件は解決したのか?」という疑問が湧いてくる余地はない。
16話には2体のガラモンが登場するが、やはり同じような最期を迎える。ただし、そのうち1体は、なぜか液体ではなく泡を吐き、猛獣の咆哮とげっぷの音の中間のような、なんとも不快な音を発する。特撮場面を担当した的場徹氏は元々大映のスタッフで、東宝特撮映画で一時代を築いた円谷英二氏をライバル視していたという。しかし円谷特技プロダクションに「好きに撮っていいから」と誘われ、どうせなら毛色の違う特撮をやろうと、『ウルトラQ』に参加したそうだ。たしかに、ガラモンの最期だけでなく、そのロボットとも生物とも異なる奇妙な動きなどは、他に例を見ないユニークさであった。
下品な音を立てて泡を吐くなど、一歩間違えれば悪趣味の類いだが、そう感じさせないだけの愛嬌がガラモンにはあった。びっしりとギザギザの突起物で覆われた体は、ダルマさんのようなプロポーション。大きな顔にぎょろりとした目。まぶたには長いまつげがあり、目を閉じると奇妙な愛らしさが漂う。また、魚をモチーフにしたという唇の厚い大きな口は「へ」の字形で、まるでしかめっ面のオジサンかオバサンのような表情だ。
ガラモンをデザインしたのは、以前紹介したカネゴン(https://www.jvta.net/co/akenomyojo126/)の時と同じ成田亨氏。脚本にあった「帯電体質」という特徴を、全身を覆う突起物で表現している点が興味深い。それらのひとつひとつは抽象化した針葉樹のようにも見える形状で、電気の「ビビビ」と痺れるイメージの視覚化に成功している。ありがちな稲妻マークの形状にしなかったあたりは、さすがシュルレアリスムの影響を受けた彫刻家、といったところであろうか。
またそのデザイン画を造形物として完成させた高山良策氏も、初期のウルトラシリーズを語る上で欠かせない存在だ。ガラモンの突起物はウレタンで、湾曲した刃のハサミを使って削り出したというのだから、まさに彫刻作品であるが、高山氏は実は絵画が専門だった。彫刻家の成田氏がデザイン画を描き、画家の高山氏が造形物を作る。このねじれ現象が、かえって面白いキャラクターを生み出す要因になったのかもしれない。
隕石の謎と異星人の狙いが明らかになる過程や、電子頭脳を奪い返した異星人の逃走劇はスリリングだが、ガラモンというシリーズ屈指のインパクトを持つ怪獣の前に、印象が薄れてしまった感がある。しかし、そのこと自体はあまり重要ではないだろう。ガラモンの存在自体が、「ガラダマ」と「ガラモンの逆襲」が名作たる由縁なのだから。少なくとも僕は、そう考えている。
「ガラダマ」(『ウルトラQ』13話)
監督:円谷一、脚本:金城哲夫、特殊技術:的場徹
「ガラモンの逆襲」(『ウルトラQ』16話)
監督:野長瀬三摩地、脚本:金城哲夫、特殊技術:的場徹
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】涼しくなって来たなと思ったら、あちこちで一斉にキンモクセイの香りが漂いだした。ヒガンバナも見かけるようになったが、先日初めて白いヒガンバナを見た。さて、今年の紅葉はどうだろうか。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
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