明けの明星が輝く空に 第132回:干支と特撮:ウシ
ウシがモチーフの特撮キャラクターで最初に頭に浮かんだのは、タイホウバッファローだ。1973年の東映まんがまつりで公開された映画、『仮面ライダーV3対デストロン怪人』に登場した怪人で、両肩に装着した2門の大砲から繰り出す砲撃の威力はすさまじかった。あまりに派手な爆発シーンの撮影となったためロケ先で問題となり、関係官庁からお叱りを受けたという。
それにしても、タイホウバッファローは、なぜバッファローでなければいけなかったのだろう。バッファローなら頭から突進するといった戦い方もできようものだが、そんな場面は皆無。うねるようにして先端が前方に向いた角は、ただの飾りでしかなかった。
しかし、飾りでいいのだ、と僕は思う。角は強さや脅威の象徴である。必ずしも、実際に使用する必要はないのだ。そのいい例が鬼で、角を武器に暴れる話は聞いたことがない。ついでに言えば、漫画『うる星やつら』のヒロインのラムも、そのいとこのテンも、角は生やしているが攻撃方法は電撃や火炎だった。残念ながら『鬼滅の刃』は漫画を読んだこともアニメを観たこともなく、ざっと調べただけだが、どうやら角を武器にする鬼はいないらしい。
象徴としての角が脅威を表す飾りであるなら、できるだけ立派な方がいい。その意味で、『人造人間キカイダー』(1972年~1973年)に登場したロボット、ブルーバッファローのデザインはギリギリまで攻めた感じがする。アフリカスイギュウをモチーフにしたと思われる、カイゼル髭のような形の角は、軽く広げた両腕と同じくらい大きく横に張り出し、太さも太腿並み。桁外れに立派なものだった。
角がそこまで巨大だと、破綻したプロポーションになりそうなものだが、手足にも異様なほどの重量感を与えることで、全体のバランスを取ることに成功している。もっとも、戦闘アクションには向かない漫画的な体型となってしまったが、それは“ご愛敬”というものだろう。ただ、ひとつ残念なのは、角らしい硬質感がゼロだという点だ。見るからにフニャフニャと柔らかそうで、いくら大きくても角としての威厳があまり感じられない。
その点、『帰ってきたウルトラマン』(1971年~1972年)の水牛怪獣オクスターの角は、「見事」のひと言に尽きる。まずサイズを理解してもらうために、その特異な体型を説明しておこう。二足歩行ではあるが、いわゆる腕はなく、全体的には四本足の後脚が退化したかのような不思議なフォルム。背中は大きく隆起し、それよりもかなり低い位置に頭部がある。アメリカバイソンやヤクなど、ウシの仲間に見られる特徴だが、オクスターの場合かなり極端だ。着ぐるみの構造でいえば、スーツアクターの頭の位置に背中のこぶ、お腹の辺りに顔、という位置関係となっている。
肝心の角は頭部にはなく、すぐ脇の胴体から伸びている。スーツアクターの腕が入る仕組みで、あまり自由は利かないが動かすこともでき、ウルトラマンを挟み込んだり、振り下ろしたりといった動作を見せる。上に振りかざせば、その先端が背中よりも高くなるほど長い。胴体との比率は、体長の半分近くが角というカブトムシ、ヘラクレスオオカブト並みだろう。
長大な角は緩く弧を描き、途中にいくつか竹の節のような意匠が施されている。かなりの長さがあるため、表面がツルンとしていては、間延びしたデザインになってしまうのかもしれない。それでいて飾り過ぎず、なめらかな面を多く残したことで表面の光沢が際立ち、硬質感のある仕上がりとなった。そして感嘆するのが、角を赤にしたセンスだ。白い体色との対比も見事だが、赤ほど主張が強く、妖しげで艶めいたイメージを喚起する色もない。オクスターの登場する30話のタイトルが「呪いの骨神オクスター」であり、物語のキーワードのひとつが「祟り」であるため、「禍々しい」といった言葉すら脳裏に浮かぶ。たとえ可動式でなく固定されたものだったとしても、「飾り」という言葉は似合わない強烈な存在感だ。
ここまで紹介した3体のほかにも、ウシをモチーフにした特撮キャラクターは多い。しかし、『秘密戦隊ゴレンジャー』(1975年~1977年)に登場した牛靴仮面ほど、“突き抜けた”デザインはないだろう。角自体は特に特徴的ではないが、頭部全体が革靴の形をしているのだ!足を入れる履き口から二本の角が飛び出し、そのすぐ下に目。靴底がつま先から土踏まずにかけてパックリと開き、ギザギザの歯が並んでいる。番組に登場するユニークな怪人たちのアイデアは、原作者である石ノ森章太郎氏が提示したそうだが、そういえば愉快なロボットたちが活躍する『がんばれ!!ロボコン』も氏の原作だった。『仮面ライダー』や『サイボーグ009』といった硬派な作品の一方で、ユーモラスで楽しい作品も手がける。なんと豊かなイメージの広がりを持つ作家だったのだろう。いまさらのように驚かされるのだった。
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】はいだしょうこさんが『すみれの花咲く頃』を歌う動画を知り合いに勧めたら、「宝塚を聞くとは意外」と言われた。実は子どもの頃、『ベルサイユのばら』がはやったので、『スミレの~』も当時聞いていた。それにしても、はいださんの歌声はスバラシイ。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
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