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明けの明星が輝く空に 第135回:切り拓かれたデザインの地平

明けの明星が輝く空に 第135回:切り拓かれたデザインの地平

ここのところ、特撮キャラクター頭部の意匠に関する考察が続いたが、あと1回だけお付き合い願いたい。今回取り上げるのは、自由な発想がとどまることを知らない、仮面ライダーたちのデザインだ。
 
特に注目したいのは、頭部の角(あるいは角状の飾り)である。もともとバッタがモチーフの初代ライダー(『仮面ライダー』1971年~1973年)は、細い2本の触角(アンテナ)を持ち、その後のライダーたちも、いくつかの例外を除いて基本的に同じデザインを踏襲していた。シリーズが1980年代終盤にいったん中断したあと、復活初年のライダー、クウガ(『仮面ライダークウガ』2000年~2001年)は、モチーフとなったクワガタムシの顎を模した角を持って登場した。これ以降、実にさまざまな様式で、ライダーたちの頭部は飾り付けられていくこととなる。
 
西洋の騎士がモチーフの龍騎(『仮面ライダー龍騎』2002年~2003年)は触角も角もないが、正面から見れば角のように見える突起物がある。それは、顔を覆うフェイスシールド(騎士の鉄仮面のようなスリットが入っている)の角(かど)で、後方に向けて回り込みつつ伸びているので、頭部の輪郭線からはみ出し、角が生えているようなシルエットとなるのだ。タカがモチーフのオーズ(『仮面ライダーオーズ/OOO』2010年~2011年)にも、それと似た手法が使われている。顔に翼を広げた鳥をかたどった仮面を付けたようなデザインで、その翼の先端が左右斜め上に突き出している。
 
角は強さの象徴であり、いい意味でのケレンミを外見に加味する。ヒーローにはふさわしい装飾と言えるだろう。ただ、長く続くシリーズで、すべてのライダーが角を生やしていてはマンネリ化を引き起こす危険性がある。龍騎やオーズに見られるのは、それを避けるための工夫なのかもしれない。
 
龍騎からオーズに至る過程でも様々なデザインが登場したが、オーズ以降、その自由度が加速する。戦国武将のような出で立ちをした鎧武(『仮面ライダー鎧武/ガイム』2013年~2014年)は、前頭部に日本刀をイメージしたと思われる飾りがある。イメージとしては、有名な伊達政宗の兜に付けられた三日月型の前立に近い。また、車がモチーフのドライブ(『仮面ライダードライブ』2014年~2015年)の頭の上には、アルファベットのHを平たく横に伸ばしたような形状のものが付いている。これは車の空力性能を高めるためのリアスポイラーを模していて、支柱の間に水平のパーツがあるが、角に見立てることも可能だろう。
 
『仮面ライダージオウ』(2018年~2019年)のジオウは、時計がモチーフ。文字盤を模した顔面に短針と長針があり、それぞれ10時方向と2時方向に長く伸びている。奇抜なのは、真ん中に大きく「ライダー」という文字がデザインされ、「ラ」と「ダ」が目になっている点だが、角状の装飾との絡みで注目すべきは、ジオウのライバルであるゲイツだ。文字が「らいだー」と平仮名になって、「ら」と「だ」が大きくゆがんで斜め上に突き出し、角のように見せているのだ!
 
そして、個人的に一番突き抜けてしまったデザインだと感じるのが、ビルド(『仮面ライダービルド』(2017年~2018年)である。こちらも目の一部が伸びて角のようになっているのだが、それぞれ左右の目が異なるものを模していて、驚くほど意外なモチーフを採用している。まず、基本形態であるラビットタンクフォームは、左目がウサギ、右目が戦車で、長く伸びているのはウサギの耳と火を吹く戦車の砲身だ。そのほかのフォーム、例えばファイヤーヘッジホッジは、左目がハリネズミで右目が消防車。角にあたる部分は、ハリネズミの針と消防車のハシゴである。さらにスマホウルフの左目は狼の横顔で、角は長く伸びたたてがみ。右目はスマホを表す長方形に、なぜか古い電話の受話器を重ねたデザイン。その受話器が、台座のスマホから外側に突き出している。
 
ビルドのフォームは他にもたくさんあり、その自由奔放なデザインの世界はまるで迷宮のようだ。最後に、僕がいくら見てもモチーフを解明できなかったものを紹介しよう。その名はニンニンコミック。ニンニンは忍者のことで、左目のモチーフは十字手裏剣。これはわかりやすい。問題は右目だ。コミックは漫画のことだが、台形から尖った棒が飛び出しているそれは、僕にはカブトガニのようにしか見えなかった。ところが、かたどっているのは漫画の原稿とペンだったのだ。確かに、よく見れば先が割れたペン先もあるし、漫画のコマ割も確認できる・・・。こうなると、もはや“何でもあり”だ。およそ特撮ヒーローとは縁遠いものをモチーフにする発想。そしてそれをデザインとして成立させる手法。いや、もう何と言ったらいいか。言葉が出ません! 恐れ入りました!
 
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の余韻を噛みしめていると、突然『シン・仮面ライダー』制作発表のニュースが! もうこれは、「庵野秀明のシン撃」だ!!
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
 
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