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明けの明星が輝く空に 第141回:ウルトラマン:ヒーローのヌーヴェルバーグ

明けの明星が輝く空に  第141回:ウルトラマン:ヒーローのヌーヴェルバーグ

特撮好きでも知られるイラストレーターのみうらじゅん氏は、『シン・ウルトラマン』の樋口真嗣監督との対談の中で、ウルトラマンというヒーローは最初不気味だったと言っている。当時のみうら氏には、宇宙から来た銀色の巨人が怪獣の一種に見えたらしい。怪獣と同じぐらい巨大で、人間とはかけ離れた姿をしたウルトラマンは、月光仮面のようなそれまでのヒーローの概念とは、まったく異なっていた。今では日本のヒーローの一類型として確立しているが、当時はそれだけ新しくて奇異な存在だったのである。
 

ところで皆さんは、そもそも『ウルトラマン』(1966~67年)という作品、そしてウルトラマンというキャラクターについてどの程度ご存じだろうか。少々遠回りとなるが、まず番組誕生までの経緯を振り返っておこう。そのルーツは、『ウルトラマン』の前番組である『ウルトラQ』以前にまで遡る。“特撮の神様”円谷英二が設立した円谷特技プロダクション(のちの円谷プロダクション)に、フジテレビとTBSからテレビ映画制作の打診があり、それぞれ『WoO』と『UNBALANCE』という企画が立ち上がった。1963年のことだ。前者は立ち消えとなったものの、後者は『ウルトラQ』として結実する。
 

その『ウルトラQ』は、放送開始前から予算オーバーによる赤字が問題視された。対策としてキャラクターグッズの販売などの必要性が唱えられ、そのためには“ヒーロー”が必要だという結論に至る。
 

ヒーローが登場する新番組を打診された円谷特技プロでは、企画文芸部室長だった金城哲夫が『WoO』の焼き直しの検討に入った。これは、宇宙から来た生命体が人間と協力し、怪事件に立ち向かうというもので、いわゆる主人公が変身する設定はない。さらに、正義の怪獣ベムラーが登場する『ベムラー』を経て『科学特捜隊レッドマン』に至り、ついに『ウルトラマン』の原型ができあがる。宇宙人レッドマンが地球人の「肉体を借りる」という設定で、中身が人間のままだったそれまでのヒーローたちと比べると、いかに斬新なアイデアだったかわかるだろう。
 

ただし、レッドマンのデザインは半獣神、あるいは怪人風のイカツイもので、評判は芳しくなかった。デザイン担当は、『ウルトラQ』でケムール人(「2020年の挑戦」https://www.jvta.net/co/akenomyojo125/ に登場)などを手がけた成田亨。「ヒーローは鉄仮面のように無表情の方が謎を感じられて良い」との意見がTBSから出され、また金城氏からも「いまだかつてない」ような「美しい宇宙人」が欲しいとの要望があり、そういった声に成田氏が応える形で生まれたのが、かつて見たこともないような姿をした宇宙人、ウルトラマンだった。
 

芸術家でもあった成田氏は、ウルトラマンと怪獣の関係を、コスモス(秩序)とカオス(混沌)と捉え、ウルトラマン=コスモスからは余計なものを一切排除して単純化した。広隆寺の弥勒菩薩などを例に挙げ、最高の仏像はシンプルだと考える成田氏は、千手観音のような仏像は好みに合わず、著書の中で「顔をそむけちゃいます」と語っている。
 

ウルトラマンの口元には、アルカイックスマイルが取り入れられた。「本当に強い人間は戦うときにかすかに笑う」という考えからだ。鼻は「人間になってしまう」から付けていない。ちなみに寄り目のように見える原因となった目の中の黒い点は、スーツアクターのための覗き穴で、成田氏のデザインには存在しないものである。
 

体の赤い模様は、火星をイメージしたもの。胸部には筋肉の形を浮き立たせるかのように赤いラインが走り、その厚みを強調している。一方、肩は筋肉がいちばん盛り上がった部分を避けて赤いラインが通っており、すっぽりと穴が開いたかのようだ。「肩が張ったキャラクターは多く存在するので、強調するとありきたりのものになってしまう。そこを外したことで、美しい流麗な宇宙人になった。」成田氏はそう自己評価している。
 

成田氏のこだわりは、デザインに留まらなかった。理想のウルトラマン像を求め、スーツアクターも指名したのだ。選ばれたのは、前述のケムール人を演じた古谷敏。長身で八頭身の古谷さんがマスクを被れば七頭身になるが、ギリシャ哲学の時代から七頭身が一番美しいとされており、八頭身ではひ弱さが出てしまうのだそうだ。そこまで考慮した上での指名だった。
 

最後に、「ウルトラマンは服を着ているのか」という最大(?)の謎について触れておこう。個人的には、服を着ているのでも裸でもなく、そういった地球人の概念を超越した存在なのだと解釈していたが、成田氏も同じコンセプトでデザインしたことを最近になって知った。ウルトラマンは、「ウルトラ」という名が示す通り、あらゆる意味で人が持つ概念を超えた、まったく新しいヒーローだったのである。
 

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】MLBの記事に、”ode”という野球記事ではおよそ目にすることのない単語があった。調べてみると「頌歌」。恥ずかしながら読み方も意味も知らなかったが、”Ode to Joy”でベートーベンの第九の『歓喜の歌』となる。英語も日本語も、勉強には終わりがない。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
 
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