明けの明星が輝く空に 第143回:ウルトラ名作探訪11「禁じられた言葉」
ウルトラシリーズに登場する宇宙からの侵略者たちは、たいてい「地球を征服する」とか「地球は我々のモノだ」などと、武力を用いた宣戦布告をする。しかし「禁じられた言葉」(『ウルトラマン』第33話)に登場するメフィラス星人は、好戦的な異星人たちとは一線を画し、「私は人間の心に挑戦するために来たのだ」と宣言した。
「禁じられた言葉」は、脚本家、金城哲夫の筆が冴え渡る作品だ。物語の始まりは、主人公のハヤタ(ウルトラマン)らが見物に訪れた航空ショーでの事件。突如、空飛ぶタンカーが出現し、そのまま空中で爆発してしまった。さらにハヤタと、彼が所属する科学特捜隊のフジ・アキコ隊員、そしてアキコの弟のサトルが行方不明になってしまう。その後、アキコ発見の急報を受け、科学特捜隊の面々が現場のオフィス街へ行くと、ビルの影から、怪獣のように巨大化したアキコが現れる。
人間が巨大化するという発想は、すでに1957年の『戦慄!プルトニウム人間』などハリウッド映画で見られるが、「禁じられた言葉」はアキコ発見の知らせで視聴者をいったん安心させたあとだけに、「まさか巨大化して現れるとは!」という予想外の展開が抜群に面白い。しかも彼女はまったくの無表情で焦点の合わない目をしており、意思疎通ができない。ハヤタも行方不明のままで、その先の展開が読めず目が離せなくなる。ちなみに金城氏は、すでに『ウルトラQ』第17話、「1/8計画」(https://www.jvta.net/co/akenomyojo131/)で、スタジオに設置したミニチュアセットに、怪獣ではなく普通の人間を立たせるというアイデアを脚本に取り入れていた。また、その作品で体を1/8に縮められてしまう江戸川由利子を演じた桜井浩子さんは、『ウルトラマン』にアキコ隊員として出演。今度は逆に、巨大化した人間を演じるという、俳優として何とも奇妙な巡り合わせとなった。
航空ショーでのタンカー爆発事件、巨大アキコ隊員出現。それらはもちろん、メフィラス星人の仕業だった。巨大化したアキコを前に為す術のない一同に対し、空から彼の声が響く。「人間の心に挑戦する」と告げるのはこの時だ。具体的には、ただの少年に過ぎないサトルに、「地球をあなたにあげましょう」と言わせようとするのである。
サトルには、地球の所有権について何の権限もない。普通に考えれば、仮に「あげましょう」と言ったところで、その言葉には何の効力もないのは明らかだ。ただし、何かが起こってしまいそうな気はする。金城氏の脚本には、視聴者をそんな気持ちにさせる仕掛けがあった。まずメフィラス星人に、「心に挑戦する」と言わせた点だ。僕らは多かれ少なかれ、「心から願えば思いは叶う」といった思いが胸のどこかにある。だからこそ、純粋な心から発せられる言葉にも、何かを起こす力があるように感じてしまう。そして、挑戦する相手として、思想や信念、打算といったものに考えを左右される大人は適切ではない。だからこそ、メフィラス星人はサトルを選んだのだ。
設定としてメフィラス星人に圧倒的な力を与えたことも、何かが起こりそうに感じさせる要因のひとつになっている。彼は巨大化したアキコを手品のように一瞬で消すと、バルタン星人など過去に地球へ来た侵略星人たちを、次々と出現させた。彼らは操られているのか、手先として使われているのか。いずれにしても、メフィラス星人が侵略星人たちの中でも、上位に位置する存在であることを暗示していた。
実際、ウルトラマンでもメフィラス星人を倒すことはできなかった。お互いに繰り出す技は互角で、ジリジリとした睨み合いが続く。ついにスペシウム光線の構えを見せたウルトラマンに対し、メフィラス星人も光線技の構え。そのまま動かない両者・・・。おもむろに腕を下ろしながら、メフィラス星人が静かに言った。「よそう、ウルトラマン。宇宙人同士が戦ってもしようがない。」そして、サトルの首を縦に振らせることはできなかったが、「いつか私に地球を売り渡す人間が必ずいるはずだ。必ず来るぞ」と語気を強めて言い放ち、豪快な笑いとともに目の前で姿を消した。
このメフィラス星人の台詞に対応するのが、エンディングナレーションだ。「地球を売り渡すような人間になってはいけない」という一節に続けて、「メフィラス星人は、今度はあなたの心に挑戦してくるかもしれないのです」と語りかけ、観ている者をハッとさせる。果たして自分は、サトルくんのように毅然と、悪魔のささやきをはねのけることができるだろうか。そんな思いが頭をよぎるのだ。視聴者を現実に立ち返らせるようなこの問いかけが、作品の質を一段高めているのは間違いない。
ちなみにメフィラス星人の声を担当したのは、昭和の大人気アニメ『巨人の星』の星一徹役で知られる加藤精三さん。少しダミ声ながら、よく響く低音が特徴で、メフィラス星人が消える間際の高笑いは、ウルトラシリーズ随一とも言えるほどの迫力があった。
「禁じられた言葉」(『ウルトラマン』第33話)
監督:鈴木俊継、脚本:金城哲夫、特殊技術:高野宏一
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】先日『庵野秀明展』に行ってきました。特に興味深かったのは、庵野監督が学生時代に作ったという半ば伝説化した特撮作品。カメラワーク、ライティング、編集など、高い完成度にビックリさせられました。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
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