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明けの明星が輝く空に 第149回:シン・ウルトラマン①:狭間から見えるもの

明けの明星が輝く空に  第149回:シン・ウルトラマン①:狭間から見えるもの

『シン・ウルトラマン』の物語中盤、主人公、神永新二(ウルトラマンの人間体)に対し、「あなたは人間なの?外星人なの?」と根源的な問いかけがなされる。それに対し「両方だ」と答えた神永は、さらに続けて言った。「あえて狭間にいるからこそ、見えるものがある。」
 

映画館で「狭間」という言葉を聞いた瞬間、僕はあっと思った。ちょうどブログ記事で取り上げようと思い、準備を進めていた人物のことを思い出したからだ。それは、特撮テレビ番組『ウルトラマン』(1966~67年)のメインライターにして、番組最大の功労者とも言われる金城哲夫さんだ。金城さんは東京生まれの沖縄育ちだが、“うちなーぐち”(沖縄の方言)は、あまりしゃべれなかったそうだ。そしてまだ人格形成の途上にある10代半ばで東京の高校に進学。そのころの沖縄はまだ本土復帰前で、東京に出るのにパスポートが必要な時代だった。また、沖縄の人々に対する差別もあったという。そんな中、金城さんは「沖縄と本土の架け橋」になりたいと願っていたそうだ。
 

『シン・ウルトラマン』の企画、脚本、さらに総監修を務めた庵野秀明さんは、アニメや特撮作品に関する知識において、およそ僕なんかの及ぶところではない。金城さんの経歴なども、当然知っているだろう。しかし「狭間」という本作の台詞が、金城さんに関係があるかどうかはわからない。ただその言葉に、ウルトラマンをはじめとするヒーローたちの共通点を見いだすことは可能だ。
 

異能の力を持つヒーローたちの多くは、人類とそれ以外の者の間に立つ、つまり狭間の存在だ。そしてそれゆえ、苦しむこともあった。例えば、ウルトラセブン(『ウルトラセブン』1967~68年)は、地球人と宇宙人の間で板挟みになったこともあれば、地球人の身勝手さに苦悩したこともある。デビルマン(漫画版『デビルマン』1972~73年)は、狭間の存在だからこそ人間を一歩引いた位置から眺めることができ、その醜さに気づく。
 

では、本作のウルトラマンは、果たして「狭間」から何が見えたのだろうか。彼は、禍威獣特設対策室専従班(禍特対)の一員である神永新二と融合し、人間を理解しようとした。それは、逃げ遅れた子供を守ろうとして命を落とした神永の、自己犠牲を厭わない姿を見て、人間を「興味深い生命体」だと感じたためだった。そして地球を守りたいという神永の心を理解し、その思いに応えるかのようにして戦い、最後は神永に自分の命を与えることを決意するまでになる。
 

ただし、彼の人間に対する理解は限定的だったようだ。物語終盤、母星から来た仲間、ゾーフィとの会話で「何もわからないのが人間だと思うようになった」と語っている。それでも彼は人間を拒絶することはなかった。わからないからこそ、「人間となり、人間をもっと知りたいと願う」とさえ言っている。
 

理解できなくても、他人という存在を認める。それは、庵野作品であるエヴァンゲリオンシリーズの根幹にある考え方だ。主人公、碇シンジは、群体としての人類が単体の生命体に成り果てる前に、他人の存在を望み、人々の魂を再び解き放つ(『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』1997年)。
 

ウルトラマンは神永として禍特対のメンバーと仕事をするうち、人間に愛着を抱くまでになる。「そんなに人間が好きになったのか、ウルトラマン。」これは本作のキャッチコピーであると同時に、劇中でゾーフィが発する台詞でもある。なぜ人間が好きになったのか、明確には語られない。ただ、そのヒントとなりそうなのが、ウルトラマンをはじめ、本作に登場する外星人たちが感情らしい感情を持ち合わせていないように描かれていることだ。人間との交流の中で、彼らの心に触れたウルトラマン。そこに何か感じ入るものがあったに違いない。そしてそれこそが、狭間にいるからこそ見えたものだったのではないだろうか。
 

最後に余談であるが、一つ付け加えておきたい。冒頭に挙げた、人間か外星人かという問いかけは、オリジナルの『ウルトラマン』33話「禁じられた言葉」(同ブログ第143話)の台詞、「きさまは宇宙人なのか?人間なのか?」へのオマージュだ。ただし、その問いを発するのは、メフィラス星人という宇宙人だった。これは少々おかしな話で、宇宙人だからと言って、みなメフィラス星人の仲間でなければいけないという道理はない。宇宙人か人間かという対立概念は、人間の側から見たものであるはずだ。かねがねそんなふうに思っていたが、今回の『シン・ウルトラマン』ではそれが修正された形となっていた。ちなみに、オリジナルの答えも「両方」である。
 

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】最近は、Twitterアカウント(@TAJIKA_H)から積極的に発信することにしています。『シン・ウルトラマン』に関して、記事に入れられないような小ネタを連発していますので、興味ある方はぜひ!よろしくお願いします。
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