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明けの明星が輝く空に 第151回:シン・ウルトラマン②:融合する現実と虚構  

明けの明星が輝く空に 第151回:シン・ウルトラマン②:融合する現実と虚構  

最初に断っておくと、ここで言う「現実と虚構」とは、例えば『マトリックス』(1999年)など、多くの映画がモチーフとした現実世界と仮想現実空間のことではない。物語の舞台である現代の日本と、そこに現れた怪獣(劇中での表記は「禍威獣」)やウルトラマン、そしてそれらが登場する場面のことである。
 

『シン・ウルトラマン』では、ウルトラマンが自分のせいで命を落とした人間、神永新二と融合する。それ以降登場する神永は、ウルトラマンとして考え行動するので、姿は人間でも中身はウルトラマンだ。虚構が現実を取り込んだとも言える。
 

その神永が所属する「禍威獣対策特別対策室(禍特対)専従班」は架空の組織ではあるが、近未来的な武器を携帯した特殊部隊ではない。メンバーは普通のスーツ姿で、禍威獣の分析、被害の予測、対策の立案といった現実的な活動に従事。十分リアリティを感じさせる設定だ。だが、そのうちの一人が外星人の企みによって、禍威獣のように巨大化してしまう。この瞬間、現実と虚構の境界はあいまいになる。
 

正直に言えば、『シン・ウルトラマン』のCG映像の多くは、“いかにもCG”という印象が拭えない。禍威獣の表皮の質感、宇宙での戦闘シーンなど、僕には気になる点がいくつもあったが、それも製作費を考えれば仕方ないだろう。『ゴジラvs.コング』(2021年)と比べると、『シン・ウルトラマン』は20分の1以下なのだ。
 

ただ個人的には、本作で企画・脚本・総監修を務めた庵野秀明氏は、それらが虚構であると明示する意図があったのではないか、という気もしている。というのも、庵野氏は特撮の魅力について、現実と空想の融合した世界を描けるところだと公言しているからだ。2016年の『シン・ゴジラ』は、ゴジラ出現の事態に対し、日本政府や官僚らが対処する様を軸に物語が展開する。その構図は、『シン・ウルトラマン』も同じだ。
 

同じく庵野作品である『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』(1997年)はアニメ作品にもかかわらず、物語とは関係のない実写映像(街の風景や映画館内の様子)が物語終盤に挿入される。それは、救いのないラストの台詞とあいまって、夢という虚構に浸っていた観客を突き放す効果があった。その瞬間、虚構は否定されたのだ。
 

ところが『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』(2021年)の場合、印象はずいぶんと異なる。実写の街の中にアニメのキャラクターたちが飛び出していくラストシーンは、物語がハッピーエンドを迎えたこともあり、虚構を否定する意味合いは見受けられない。むしろ、現実に溶け込んでいく虚構を祝福しているかのようだった。
 

『シン・ウルトラマン』の場合、“虚構の祝祭”とでも言ったらいいのだろうか。大サービスとばかりに、全編に渡ってCGによるアクションシーンが映し出される。それは現実感には乏しいが、だからこそ僕には、半ば夢の世界で起きている出来事のようにも感じられた。
 

もちろん、映画に没入できなければ、夢見心地などということにはならない。その点、『シン・ウルトラマン』は巧みだった。映画冒頭、タイトルバックの直後、物語の前日譚として禍威獣たちがダイジェスト形式で登場。その存在を既成事実として示すことで、観客を早々と、そして無理なく、虚構に満ちた異世界に引き込んでしまう。
 

そういった観点からすると、このオープニングで使用されるBGMは示唆的だ。ウルトラシリーズの開祖、『ウルトラQ』(1966年)のテーマ曲が使用されているのだが、この選曲は単なるオマージュ以上の意味を持つと見ていいだろう。なぜなら、その曲に乗って流れる『ウルトラQ』冒頭のナレーションが、「これから30分、あなたの目はあなたの体を離れ、この不思議な時間の中に入っていくのです」というものだったからだ。
 

また、禍威獣という存在自体、現実と虚構の境界をあいまいにする力を持つ。今年放送されたNHKのドキュメンタリードラマ『ふたりのウルトラマン』に、「怪獣は山でも海でも宇宙でも、登場した瞬間、怪獣世界に変えてしまう。フィクションを不自然に感じさせない不思議な魔法の力がある」という台詞があった。僕などはこの言葉に思わず膝を打ったのだが、『シン・ウルトラマン』のオープニングはその意味で実に象徴的だ。
 

本作は、タイトルロゴで、「空想特撮映画」を謳っている。上記の庵野氏の言葉もそうだが、「空想」とは「虚構」をロマンチックに言い換えた言葉だ。それは、現実と組み合わさったとき、最もスリリングに感じられる。その典型が、特撮映画や特撮テレビ番組だろう。『シン・ウルトラマン』は、そんなことに改めて気づかせてくれる作品だった。
 

※参照:『シン・ウルトラマン』の予告映像

 

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】数十年に一度咲くというリュウゼツランが、近所のお宅で開花しました。60年前に植えて以来、初めてだそうです。昔のホラー映画(?)に、形の似た植物モンスターが出てきたなあと思っていたけれど、改めて調べてみると出てこない。あれは何だったのか・・・。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
 
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