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明けの明星が輝く空に 第154回:ハロウィーンには『仮面ライダー』?

明けの明星が輝く空に 第154回:ハロウィーンには『仮面ライダー』?

今年のハロウィーンは終わったが、来年は『仮面ライダー』(1971年~73年)を観て楽しむなんていうのはどうだろう。“痛快SF怪奇アクションドラマ”と銘打たれたそれには、ハロウィーン気分を高めてくれるクモやコウモリが、悪の組織ショッカーの怪人となって登場するのだから。
 

“怪奇”? 『仮面ライダー』が? 若い世代のファンには意外なことかもしれないが、初期の『仮面ライダー』はとにかく怖さが売りだった。それは各放送回のサブタイトルからも一目瞭然で、第1話が「怪奇蜘蛛男」、第2話が「恐怖蝙蝠男」である。クモとコウモリをあえて漢字で表記しているところにも、強いこだわりが感じられる。
 

一説によると、番組スタート時にクモとコウモリが敵役に選ばれた背景には、アメリカンヒーローへの対抗意識があったためという。そのヒーローとは、もちろんスパイダーマンとバットマン。つまり、両者よりも仮面ライダーの方が強いという隠喩なのである。クモ怪人とコウモリ怪人は、その後の仮面ライダーシリーズにも度々登場し、特に原点回帰を謳った『仮面ライダーアマゾン』(1974~75年)や『仮面ライダーBLACK』(1987~88年)では、やはり初回や2回目の放送で登場している。そして、来年公開予定の映画『シン・仮面ライダー』にも、両者は登場するようだ。
 

それにしても、「怪奇蜘蛛男」も「恐怖蝙蝠男」も怖い。観たあとに1人でトイレに行けなくなったという子も少なくなかっただろう。怪奇性の演出として効果的だったのが照明の使い方で、見せたいものを照らすというより、むしろ影を作るためのライティングのような印象だ。予算の関係上、照明の数を増やせなかったという事情があったそうだが、それを逆手に取った演出とも言える。薄暗い室内、顔に陰影のある人物といった映像は、それだけで不気味さが漂う。特に第2話の冒頭、蝙蝠男が登場する場面は、サスペンスの要素も加わって秀逸だ。簡単に振り返ってみよう。
 

ある晩、自宅のマンションへと向かう1人の女性。その背後で、薄気味悪い笑い声が響く。驚き振り向くが、暗い夜道には誰もいない。歩き出すと、再び聞こえてくる笑い声。その声が告げる。「お前は選ばれたのだ。ショッカーの名誉ある一員に、だ。」たまらず女性は走り出し、マンションへ逃げ込む。部屋にたどり着き薄暗いベッドルームに入ると、閉めたはずの窓のカーテンが揺れていた。窓を閉め振り向くと、不気味な人影が一瞬壁に映る。そして、何かの気配を察したか彼女が視線を上げると、天井から逆さまにぶら下がる蝙蝠男がいた。
 

このあと女性は蝙蝠男に血を吸われ、吸血鬼にされてしまうのだが、彼女が主人公の本郷猛を襲う場面がまた怖い。「ヒヒヒヒヒ・・・」と笑い声を上げながら迫ってくるのだ。どういうわけか、こういった笑い声は女性の方が怖い。第1話の「怪奇蜘蛛男」でもそれが生かされていて、気味の悪さではこちらの方が上だ。髪で顔が隠れた女性戦闘員たちが、同じように笑いながらゆっくり近づいてくるのである。どちらもシチュエーションは昼だったからまだしも、もし夜だったら・・・。子どもたちのトラウマになっていただろう。
 

番組初期の怪人たちは、その最期も気味が悪い。イメージの中の怪人は、ライダーキックを受けて爆死するのが常だ。戦闘シーンの終り方としてメリハリが利いているし、映像的なカタルシスも感じられる。番組が成功した1つの要因でもあるだろう。しかし、最初は違っていた。たとえば蜘蛛男の場合、うめき声とともに絶命したかと思うと、ブクブクと泡になって消えていくのだ!この場面はイメージ映像的な演出とでも言うのだろうか。白昼の屋外だったにもかかわらず、泡のカットだけ薄暗い中で赤紫色の照明が当てられ、しかも何のものだかわからない影がユラユラと揺れている。ライダーとしても、まったく後味の悪い勝利に違いない。
 

こういった怪奇テイストの『仮面ライダー』を観ていると、僕は『キイハンター』(1968年~1973年)を思い出す。千葉真一さんが、アクションスターとしてお茶の間の人気者になったドラマだ。番組のコンセプトは怪奇ものではないが、お盆の時期などの怖い話は、雰囲気が「恐怖蝙蝠男」などに近かった。ともに東映制作のドラマだったので、BGM、効果音、演出などが似通っていたのだろう。ちなみに『キイハンター』の主題歌は、僕が好きな昭和ドラマ音楽の1つで、作曲は『仮面ライダー』の音楽も担当していた菊池俊輔さん。暴れん坊将軍シリーズなどのほか、アニメ作品も数多く手がけている。特に1970年代前半に放映された『新造人間キャシャーン』や『ゲッターロボ』は、主題歌のイントロやアウトロが身震いするほどカッコイイ。
 

今回はもう1つ、個人的な思い入れのあるトリビアネタで終わろう。それは、ライダーが蜘蛛男と戦うのが、多摩川にある二ヶ領上河原堰という馴染みのある場所だということだ。そこは調布市と川崎市の間に掛かる施設で、子どもの頃はその辺りに川遊びに行ったし、サイクリングロードの起点にもなっているので、中学以降はランニングやサイクリングで慣れ親しんだ。半世紀前、運が良ければライダーに会えた可能性もあったと思うと、少し残念なのである。
 

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】窓の外から、季節外れのシジュウカラのさえずりが聞こえてきた。試しにネットで見つけたシジュウカラの音声を流してみたら、すぐ近くまで近寄ってきた。もっと頻繁に来てくれるといいなあ。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
 

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