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明けの明星が輝く空に 第156回:干支と特撮:ウサギ

明けの明星が輝く空に 第156回:干支と特撮:ウサギ

正直な話、ウサギをモチーフにしたヒーローや怪獣・怪人は思いつかなかった。しかし、調べてみると見つかった。それも主役が。その名はイエローバスター。スーパー戦隊シリーズの36作目、『特命戦隊ゴーバスターズ』(2012年~2013年)のヒロイン、宇佐見ヨーコの変身後の姿である。
 

ただし、イエローバスターはあまりウサギっぽくない。ヘルメットをよく見れば、ウサギの耳らしき意匠は施されている。ただしそれは、頭部の曲線に合わせ後方に向かって寝ている形で、ほんの数センチ出っ張っているに過ぎない。前頭部にシンプルな線で描かれたウサギの顔がなければ、それが耳を模しているとはわからないだろう。
 

デザインの面では、むしろ彼女を取り巻くメカの方がウサギっぽい。まず、ちょっと口うるさい相棒、ウサダ・レタスというロボットには、頭に2本の長い耳のようなものがある。それらはイエローバスターが乗り込む専用マシンの操縦桿で、ウサダはコックピットに収まるようにも作られているのだ。そのイエローバスター専用マシンも、通常はヘリコプターとして機能するが、攻撃時にはウサギ型のロボットに変形。後ろ向きに両足キックをお見舞いするなど、アクションにもウサギっぽさが取り入れられている。
 

イエローバスターのアクションはどうだろうか。超人的な跳躍力を身につけてはいるが、特にウサギっぽくもない。こうなると、「設定をウサギにした意味はある?」と思ってしまうが、『特命戦隊ゴーバスターズ』のテーマは「変革」だったというから、そういった“いかにもありがち”な演出は避けられたようなのだ。Vシネマ『帰ってきた特命戦隊ゴーバスターズvs動物戦隊ゴーバスターズ』(2013年)を観ると、そのあたりがよくわかる。「動物戦隊」とは、本編の特命戦隊とは異なる世界、パラレルワールドのヒーローたちで、意味なく背景で爆発が起こる登場シーンや、メンバー全員が力を合わせる決め技など、 “これぞスーパー戦隊!”といった演出がふんだんに見られる。いわばセルフパロディの類いで、動物戦隊は、特命戦隊とは左右逆に映る鏡像のようなものなのだ。
 

そんな動物戦隊のイエローの名前は、ずばりイエローラビット。さらに、両手を頭の上に乗せて“耳”を作って見せたり、戦闘中「ぴょーん」と言いながらジャンプしたりするなど、これでもかというほどウサギっぽさを装う。「ぴょーん」というセリフには、女の子キャラを強調する意図も見えるが、ほかにも敵を倒して可愛く「やった!」と言うなど、本家とは方向性が180度反対だ。イエローバスター/宇佐見ヨーコのアクションに女の子っぽさは皆無で、彼女は気合いが入った掛け声もキレがいい。実は、第1話を観てまず「お!」と思ったのが、この掛け声だった。板に付いていて、カッコいいのだ。
 

ヨーコを演じた小宮有紗さんは、撮影開始当初は現役の高校生。劇中では16歳の設定で、3人いる特命戦隊のメンバー中、最年少だ。レッドバスターこと桜田ヒロムが20歳、ブルーバスターこと岩崎リュウジが28歳なので、自然と“妹”的な立ち位置になる。しかし、イエローバスターはアクションシーンにおいて年齢差など感じさせず、戦闘力も見劣りしない。小宮さん自身、ヨーコの立ち回りを見事に演じていた。中でも驚いたのが、テコンドーの二段蹴りを見せたことだ。これは一度蹴った足を地面に下さず、そのままもう一回蹴る技で、体幹が弱いとバランスが取れないし、足も上がらない。小宮さんはクラシックバレエの経験があるというから、アクションに必要な基礎体力もしっかりしていたのだろう。
 

小宮さんはまた、目に力があり、表情だけで芝居ができる女優さんだ。眉に力を込めた表情も凛々しい。そんな彼女が演じたヨーコにグッとくるような場面が、第23話「意志を継ぐ者」にある。それは仲間の1人、陣マサトが危険を冒して自分を守ってくれようとした時のことだ。彼の実体は亜空間にあり、アバターとしてゴーバスターズと行動を共にするのだが、アバターであってもダメージが蓄積すれば本体の生死にかかわる。そうと知ったヨーコは、出ていこうとするマサトを制し、自分の身は自分で守れると告げる。そしてさらに、力強くこう言った。「それに、誰かのことを守ることだってできる。」
 

この一言に僕はシビれてしまったのだが、このあとマサトによって、かつて彼女の母親ケイも同様のことを言っていた過去が明かされる。実は、ケイは13年前、ヨーコがまだ幼い頃に亜空間へと消えてしまい、幼かったヨーコには母の記憶があまりない。それでも、彼女の中には母親に似た芯の強さがしっかりと育っていた。親子の結びつきを感じさせるエピソードを挿入するあたり、心憎い脚本だ。さらに言えば、この日はヨーコの17才の誕生日。彼女の成長が、自然と伝わるような仕掛けとなっている。
 

「干支」というテーマがなければ、初見の『特命戦隊ゴーバスターズ』を全話視聴することはなかったろう。とりあえずイエローバスターをチェックするため観始めたのだが、意外なほど楽しめたし、好きな作品の1つにもなった。昭和以外の特撮も、悪くない。
 

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】「新年の誓い」と言うほどじゃないけれど、今年はSF小説をたくさん読もうと思っている。実は、これまで単なるエンタメ系だと思って読んでいなかった。でも、常識にとらわれない発想の飛躍こそが、SF小説の魅力だと今さらながら気づいた。良質な作品から受ける刺激は、脳を活性化してくれる気もするし。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
 

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