明けの明星が輝く空に 第157回:特撮俳優列伝28 松本寛也
今年の干支にちなんだ記事(https://www.jvta.net/co/akenomyojo156/)を書くために視聴したスーパー戦隊シリーズの36作目、『特命戦隊ゴーバスターズ』(2012年~2013年)は、思いのほか面白かった。その理由のひとつが、陣マサトという登場人物の魅力であったことは間違いない。そして、それを演じた俳優が、松本寛也さんだった。
実を言うと、僕はすでに松本さんの過去の出演作品を観ていた。同じスーパー戦隊シリーズの29作目、『魔法戦隊マジレンジャー』(2005年~2006年)だ。松本さんはその中で、マジレンジャーである5人兄弟の次男(兄1人、姉2人、弟1人)、小津翼を演じている。番組開始当初、松本さんは18歳。芸能界にデビューして、初めてのレギュラー作品だった。
小津翼はクールで、よく言えば繊細、悪く言えば神経質そうな若者だ。彼が主役となったエピソード、たとえば禁断の魔術に手を出してしまう第23話や、絶望的状況から兄弟を救う第38話で、松本さんの新人俳優らしく若さをぶつけるような演技を見ることができる。まだどこか垢抜けなさも残るが、時折見せる真剣な表情はなかなかハンサム。経歴を見ればそれも納得で、2003年の第16回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストで準グランプリに輝いているのだ。
その後キャリアを積んだ松本さんが、再びスーパー戦隊ものに出演したのが『特命戦隊ゴーバスターズ』だ。そこで演じた陣マサトは、松本さんにとっての“ハマリ役”と言っていいだろう。天才エンジニアであるマサトは13年前のある事件の際、亜空間に転送されてしまったが、アバターとしてゴーバスターズの前に現れる。ビートバスターに変身し、相棒のロボット(バディロイド)とともに、レッドバスター、ブルーバスター、イエローバスターの3人と共闘する。
第15話で初登場した陣マサトの印象は、単刀直入に言えば“軽くて、すかした男”。レッドバスターこと桜田ヒロムには、面と向かって「虫の好かない男」と言われてしまったぐらいだ。ビートバスターに変身しての戦闘シーンでも、ブルーバスター(岩崎リュウジ)の気合いが入った戦いぶりを見て、「お、いいよ、いいよ。熱いよ、リュウちゃん」と軽口を叩くなど緊張感もない。ただ、そんな軽いノリのまま、難なく敵を倒していく姿は頼りがいがあってカッコイイ。また、松本さんのしゃべりは多少舌足らずに聞こえるが、戦闘中はなぜか気にならない。むしろ飄々としている上に颯爽とした雰囲気もあって、聞いていて心地よいとさえ思った。
物語が進むにつれ、表面上は明るい陣マサトにも秘密があることが明らかになる。それは、アバターにダメージが蓄積すれば、本体も危険だということだ。そもそも亜空間にいる彼は、データの欠落が原因で、13年たっても転送が終了しておらず、下半身が実体化せぬまま昏睡状態にあった。それが現実世界における戦いの影響で、胸の近くまで消えかかっていたのだ。これには、さしものマサトも「さすがの天才もお手上げかもしんねえ」と、バディロイドとの会話で弱気な言葉を漏らしている(第40話)。それでも、「以上。報告、終わり!」なんて明るく締めくくるところが、彼らしいのだが。
物語がクライマックスにさしかかり、マサトは世界を救うため、自分の身を犠牲にすることを選択する。具体的には、ヒロムに埋め込まれた敵のバックアップデータを、自身の本体に転送することで取り除くのだ。しかし、大量のデータに耐えられなくなったマサト本体は、バラバラになって消滅してしまう。その計画を、同期である黒木(特命部司令官)に明かした際、「覚悟の決め時ってのがあるならよ、今だと思うぜ」と笑みを浮かべながら静かに告げる(第49話)。この時、彼が初めて見せた穏やかな笑顔が胸に突き刺さる。すべてを受け入れ、無我の境地に達した人間の表情を、松本さんは見事に表現してみせている。(その後、第50話でマサトの案に納得できないヒロムらと見せた、熱い魂のぶつかり合いにも胸が熱くなった。)
『特命戦隊ゴーバスターズ』出演後、松本さんは『手裏剣戦隊ニンニンジャー』(2015年~2016年)に、『魔法戦隊マジレンジャー』と同じ小津翼役でゲスト出演。2017年には「スーパー戦隊親善大使」に就任し、同年に始まった『宇宙戦隊キュウレンジャー』にもゲスト出演している。ホシ★ミナトという宇宙No.1アイドルの宇宙人役だったのだが、その姿には驚いた。もじゃもじゃのアフロヘアーの中から、漫画『DRAGON BALL』のピッコロのように2本の触覚が突き出し、皮膚は金色。見た目は完全な“キワモノ”キャラだった。仮にもヒーローを演じた人が、そんなメイクをするとは!ただし、中身は普通すぎるほど普通で、売れない頃に路上でひとりギターを弾きながら歌っている姿など、どこにでもいる若者といった雰囲気だ。その歌に勇気づけられたヒロインとの会話では、その表情から誠実な人柄も伝わってきた。
松本さんはさらに、『仮面ライダーリバイス』(2021年~2022年)にもゲスト出演している。そこでは、なんとチンピラ役だった。こうなったらもう怖いものなしだろう。スーパー戦隊、仮面ライダー、どちらのシリーズでもいいから、ぜひ悪の側のメインキャストとしてレギュラー出演して欲しい。特撮作品の悪役はキャラが濃く、役者として遊べる要素が多い。陣マサトで見せた時以上に、伸び伸びとした演技が見られるんじゃないだろうか。そうして特撮史に名を残す悪役を作り上げる、なんていうのも面白いではないか。
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』を観たら、『ボディーガード』が観たくなり…。どちらも、“エンッアーイアー♪”のところで(予想通り)泣けました。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
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