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明けの明星が輝く空に 第160回:シン・仮面ライダー②:黙祷するヒーロー

明けの明星が輝く空に 第160回:シン・仮面ライダー②:黙祷するヒーロー

※今回の記事は、映画の設定に関するネタバレを含みます。ストーリーについては最小限に抑えてありますが、映画鑑賞を検討中の方はご注意ください。
 

『シン・仮面ライダー』の主人公、本郷猛は、敵を倒した後に黙祷する。これまで、そんなことをするヒーローがいただろうか。彼の敵は怪物やロボットではなく、人間だ。SHOCKERという非合法組織によってオーグメンテーション(身体の強化)を施され、異能の力を与えられてはいるが、そこは変わらない。本郷自身もオーグメンテーションを受けており、マスクを被ると生存本能が増幅されて暴力的な衝動が抑えられなくなる。バッタオーグ(仮面ライダー)としての初めての戦いでは、襲いかかる何人もの敵をいとも簡単に殴り殺し、あたりを鮮血で染めてしまった。
 

敵といえども人間の命を奪ったことに衝撃を受け、苦しむ本郷。人を簡単に殺すことができる「行きすぎた力」を拒否する意思を示すが、敵であるクモオーグに捕らえられたヒロイン、緑川ルリ子を助けるため、再び戦わざるを得なくなる。クモオーグの手下たちを文字通り瞬殺し、クモオーグとの1対1の戦いも制した後、マスクを脱いだ本郷は「思ったより辛い」とつぶやく。そして、悲しみに耐えるかのように震えながら、文字通り泡となって消滅したクモオーグの痕跡へ向かい、頭を垂れるのだ。
 

僕は、本郷の台詞の中の「思ったより」という言葉が引っかかった。まるで彼が、人の命を奪うことを軽く考えていたようにも聞こえるからだ。その台詞を理解するためのカギは、警察官である彼の父が殉職したことだろう。銃を使わず、刃物を持った男を説得しようとして刺された父。その事件現場に居合わせてしまった本郷が、たとえ犯人が死んだとしても父は銃を撃つべきだった、と考えていたとしても不思議ではない。悲劇を経験し、人を守れる強い力を望んだ本郷は、父とは違い力が使えるようになりたいと願った。しかし、自分が実際に人の命を奪ってみると、想像以上に精神的に堪えたということなのかもしれない。
 

話を本題に戻そう。黙祷する本郷を見たルリ子は、「優しすぎるかも」とつぶやく。実は、彼女にはSHOCKERを倒すという目的があった。SCHOCKERは元々、人々の幸福を実現するために設立された組織だったのだが、オーグメンテーションを受けた者たちがエゴに走るようになっていた。ルリ子は、父である緑川弘博士とともにSHOCKERの構成員だったが、2人して組織を裏切り、本郷猛を脱出させて自分たちの計画を手伝わせようと考えていたのだ。
 

本郷に対し同じような危惧を抱いたのは、ルリ子以外にもいる。SHOCKER対策のため、彼女たちに近づいてきた情報機関の男だ。彼が本郷の行動を見て「優しすぎる」と言ったのは、ルリ子にとって「友人に最も近い」関係だったヒロミ(ハチオーグ)と戦わずして撤退した時だった。本郷は、なるべくならヒロミと戦いたくないというルリ子の心の内を察していたのだ。
 

それでも再びヒロミのアジトに乗り込んだ際には、戦わざるを得なくなる。結果、本郷は勝った。しかし、ヒロミの命を奪うことはしなかった。どうやらこの時までに、強い精神力で自制心を働かせる術を見つけていたらしい。ところが、そこに現れた例の情報機関の男が、特殊な銃弾を使いヒロミを撃ち殺してしまう。涙を流すルリ子の横で、本郷は黙祷を捧げた。
 

彼のこうした行動は、もう1人の仮面ライダー、一文字隼人にも影響を与えている。飄々としてどこか浮世離れした感のある一文字だったが、“ダブルライダー”として力を合わせて戦った後、黙祷する本郷を見て、それに倣うのだ。
 

映画を観ていない方は「黙祷するヒーロー」という今回の記事のタイトルを見て、「黙祷」は「決め台詞」や「得意技」のようなキャラクターに個性を与えるためだけの、ある意味“格好つけ”のようなものと思われたかもしれない。しかし、本郷の黙祷する姿からは、彼の真摯な思いが感じられる。そう感じるのは、本郷を演じた池松壮亮さんの演技によるところも大きいが、本郷の人物設定も同じぐらい重要だ。
 

物語冒頭において、本郷は「いわゆるコミュ障。それが原因で現在無職。バイクが唯一の趣味」という説明がなされる。これはルリ子の言葉なのだが、単に彼女は父の緑川博士にそう聞かされていたらしい。しかし、「コミュ障」というのはオーバーな言い方だ。本郷と周囲の人間のコミュニケーションは、問題なく成立している。確かに感情が話し方や表情に出るタイプではないが、自分の心情や思いは隠さず言葉にし、上辺を取り繕ったり格好つけたりする人間ではない。だから、その言動に嘘は微塵も感じられないのだ。
 

倒した敵に向かい、黙祷するヒーロー。非常に希有な存在だが、考えてみれば命を奪った辛さに苦しむのは、人として当たり前のことだ。しかし、特撮作品に限らず時代劇などでも、ヒーローのそういった姿はほとんど描かれてこなかった。正直なところ、『シン・仮面ライダー』でも十分描き切れていたかどうか、議論の余地は残る。しかし、そこに目を向けたという点において、本作は肯定的に評価されるべきだろう。
 

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】最近、意味も無く「特撮浪曼主義」とか「特撮耽美派」という言葉を思いつきました。でも文字にしてみると、なんだかしっくりする。特撮に対する自分の信条が明確になったようで。ということで、これからは特撮浪漫主義を掲げ、特撮耽美派を標榜するのだ。

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改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る 

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