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明けの明星が輝く空に 第165回:怖い!ウルトラ名作探訪ハロウィン特別編

明けの明星が輝く空に 第165回:怖い!ウルトラ名作探訪ハロウィン特別編

思わず映画館の椅子から飛び上がったり、悲鳴をあげたりするシーン。映画の怖い場面にも、いろいろある。僕が好きなのは、例えば『エイリアン』(1979年)のクライマックスで、物陰に潜んでいたエイリアンが、ゆっくり出てくるところ。この後どうなるのか、というジワジワくる恐怖がたまらない。そして、その“ジワジワ感”は、ウルトラシリーズの怖かった場面にも共通している。
 

まず『ウルトラマン』から、ビル内に潜むバルタン星人と遭遇する場面。科学特捜隊のアラシ隊員が用心しながら階段を上っていくと、彼の背後、いま通り過ぎたばかりの場所に、バルタン星人が忽然と姿を現す。振り返って銃を向けると姿が消え、今度は反対側、階段の上の踊り場に現れる。いつ、どこに現れるか分からないというのは不安をかき立てるものだ。それが人間ではない何かであれば、不安は恐怖へと変わる。
 

違った形で恐怖を感じさせてくれたのは、『ウルトラQ』の海底原人ラゴンだ。主人公である淳と由利子が、林の中でラゴンと遭遇。茂みに隠れてやり過ごそうとする。2人の前を通り過ぎるラゴン。見つかるか、見つからないか。スリリングで緊張感溢れるシーンだ。
 

ラゴンの歩き方がゆっくりなのも、ジワジワ感があっていい。異形のモノは暴れたりせず、ただ立っているだけ、歩いているだけの方が怖い、というのが僕の持論だ。だから『エイリアン3』(1992年)の、軽快に動き回るエイリアンには失望させられた。同様に、『スピーシーズ 種の起源』(1995年)のシル(デザイナーはエイリアンと同じH.R.ギーガー!)にもガッカリした。声を大にして言いたい。あの姿で、ただ無言で立っていたら、もっと怖かったはずだ!
 

僕は、ジュラシックパーク・シリーズにありがちな肉食恐竜が人に向かって吠える演出も、虚勢を張る小物感が出て好きではない。『GODZILLA ゴジラ』(2014年)から始まった、モンスターバース版の“しかめっ面”ゴジラも同様だ。動きすぎという点では、ビルの間を忍者のようにすり抜けた、1998年のエメリッヒ版ゴジラなど論外。みな『シン・ゴジラ』を見習ってもらいたい。無表情で立っているだけの“シンゴジ”には、底知れぬ不気味さがあった。
 

ラゴンの話に戻そう。林の中での遭遇シーン以外では、夜、民家に侵入してくるところも怖い。屋内という半ば閉じられた空間は、不審者がいればそれだけで脅威だ。バルタン星人然り、“歩く吸血植物”ケロニア(『ウルトラマン』)やバド星人、ワイアール星人(いずれも『ウルトラセブン』)然り、である。ケロニアらは、それぞれ基地内の宿泊施設の一室、洋風の邸宅、走行中の小田急ロマンスカー車内と、いずれも閉ざされた空間に出没した。同一空間に潜んでいたり、入ってきたりする怪異。そこに僕は恐怖を感じる。
 

特に怖いのは、自宅のように本来なら安心できる場所に入ってこられたキュラソ星人のケースだ。その顔は、正面から見たマンボウを縦に引き延ばしたようで、怖くもなんともないのだが、一家団らんのリビングルームに入ってくる場面にはドキッとする。さらに、このシークエンスで秀逸なのは、2階にいた男の子が窓からロープを垂らして逃げる場面だ。物音に気づいたキュラソ星人が、カーテンを開けて外をうかがう。運良く、その子はまだリビングルームの窓より高い位置にいたため、見つからずに済んだ。ただ、上から見下ろすカメラアングルで、その子の足とキュラソ星人を同時に捉えたカットは、今にも彼が見つかってしまいそうで、観ているこっちの足までムズムズしてくる。
 

バルタン星人以下の数例は、不安や抑制の利いた動きが生む恐怖、という共通項でくくれるが、実はもう一つ共通した要素があることにお気づきだろうか。それは、いずれも相手が人間サイズだということだ。怪獣とは違い、目の前に迫って来られたり腕を捕まれたりしそうで、頭ではなく肌で感じる怖さがある。一方、巨大怪獣には、1人のちっぽけな人間なんて目に入ることはないだろう。だから“自分が襲われる”という恐怖心が湧かない。と言うより、そもそも怪獣はそんな視野の狭い、矮小な存在であってはいけないのだ。(だから『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019年)において、三つ首竜のギドラが人間を襲うシーンに、僕は興ざめしてしまった。)
 

例外的に、(巨大怪獣ほど大きくはないが)大魔神は怖かった。それは、シリーズ1作目の『大魔神』(1966年)で、人がいる櫓に向かってゆっくり歩いてくる場面だ。櫓と大魔神の顔はほぼ同じ高さ。つまり、これから襲われようとしている人間たちは、大魔神と目が合う位置にいるのだ。自分が狙われているという感覚。これは怖い!同じ理由で、『ウルトラQ』 のゴローも怖い。ロープウェーのゴンドラが進む先にぶら下がる、巨大な猿。その顔は、ゴンドラに乗る人々から見れば同じ高さにある。このまま進んだら・・・、と思うと背筋が寒くなる。
 
ただし、『ゴーストバスターズ』(1984年)に登場した、愛嬌たっぷりの巨大マシュマロマンに感じた怖さは、未だに説明がつかない。大魔神やゴローの時とは違い、人々は地上にいた。誰か特定の人間が狙われたわけでもない。でも、僕は(ちょっぴり)怖かった。謎である。
 

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】馬の走る姿が好きで、競馬中継をよく見ています。”ドンデンガエシ”や”イロゴトシ”、”オヌシナニモノ”など、ユニークな名前を見つけるのも楽しい。先日は、”エガオニナッテ”と”イツモニコニコ”が同じレースで走るという奇跡が!ちなみにイツモニコニコが勝ちました。

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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る 

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