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明けの明星が輝く空に 第168回:干支と特撮:タツ

明けの明星が輝く空に 第168回:<strong>干支と特撮:タツ</strong>

『ヨハネの黙示録』には、7本の頭を持つ赤いドラゴンが登場する。たとえば、14世紀にフランスで制作されたタペストリー(アンジェ城所蔵「黙示録のタピスリー」)にその姿が描かれているが、頭の数を除けば、「キングギドラ」そのものと言っていいほど、両者は似ている。

キングギドラとは、東宝特撮映画に登場する宇宙怪獣だ。『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964年)以降、数作品に渡ってゴジラと死闘を繰り広げた好敵手で、特撮ファンの間で人気も高い。2019年公開の『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(以下、『KOM』)にも、「ギドラ」という名で登場しているので、3本の首を持ち、全身金色という姿を目にした方も少なくないだろう。

ハリウッド映画の『KOM』では、黙示録的な世界観を印象づけるためか、ギドラと十字架が同時に映し出されるカットがある。画面手前に、シルエットで浮かぶ十字架。その奥、画面中央に映し出された火山の頂上で、力を誇示するかのように翼を広げるギドラ。火山からは溶岩が流れ出し、黒雲に覆われた空には稲妻が走る。いかにも世界の終末を感じさせる画作りだ。

黙示録のドラゴンは堕天使サタンの化身だというが、ギドラは登場のし方からして、それを想起させる。封印されていた底なしの深淵から復活するサタンのように、ギドラは南極の氷の下に眠っていた(封印されていた?)ところ、人間の手によって復活させられるのだ。(黙示録のドラゴンは、大天使ミカエルに退治された。ということは、『KOM』でギドラを倒したゴジラは、ミカエル=守護聖人という図式になる。ただし、ゴジラが守る対象は人類ではなく、自然環境だ。)

一方、東宝のキングギドラには、聖書との関連性は見られない。黙示録のドラゴンに姿が似ているのは単なる偶然だろう。というのも、元ネタの有力候補が、1959年日本公開のロシア映画、『豪勇イリヤ 巨竜と魔王征服』に登場するからだ。それは、ロシアや東欧に伝承される「ズメイ」というドラゴンで、キングギドラ同様3つの首を持っている。異なるのは、キングギドラは全身金色であることのほか、頭部に日本の龍の特徴が多く見られることだ。宇宙から飛来するという設定には、天翔る龍とイメージを重ね合わせる意図があったのかもしれない。

聖書の世界とは無縁な東宝版キングギドラだが、ある宗教的シンボルと絡む場面がある。それは、神社の鳥居を破壊するシーンだ。この鳥居はスタジオに作られたミニチュアなのだが、キングギドラはその間から見えている。つまり、鳥居の方が画面上は大きく映っている。そのためにはキングギドラの位置を、カメラ、そして鳥居からかなり離す必要があるが、そうすることで映像に奥行きが生まれ、空間的広がりを感じさせることに成功している。背景には雄大な富士山の裾野も広がり、観る者にスペクタクルを感じさせる名場面である。

ところで、キングギドラはなぜ、鳥居を破壊したのだろうか。破壊のカタルシスを感じさせるなら、もっとボリュームのある建造物の方がふさわしい。そういった観点からすると、鳥居は“貧相”だ。ただし、それは単なる門ではない。神域への入り口であり、外界との境界になっている。「神域=地球」、「鳥居の外=宇宙」と読み替えてみると、どうだろう?地球の外から来た脅威を表現する、象徴的な場面になっている、と言えるのではないだろうか。

ところで、宇宙怪獣であれば、地球在来の怪獣たちとの差別化が必要になるだろう。それを端的に表しているのが、鳴き声だ。わかりやすく言えば、「ガオォォー!」ではなく「カララララ」。例えるなら、電子音で再現されたカナリアのさえずり。清澄な高音を軽やかに響かせる。少しエコーがかかっていることもあり、あたかも天から降ってくるかのようだ。飛翔する龍のイメージと相まって、少々言い過かもしれないが、キングギドラが天空の神獣のように思えてくる。

そんなキングギドラであるが、『KOM』の後輩はゴジラに完敗。“やられ役”、“引き立て役”に終わった。この扱いには大いに不満が残る。そもそも、鳴き声が良くない。それはまるで、さびた鉄の門扉、わざと不快な音を出すバイオリン、目の前を通過するF1マシンのヒステリックなエンジン音。いずれにせよ、ストレスを感じさせるものだったのだ。キングギドラは絶対、澄んだ声で「カララララ」と鳴かなくては!「カララララ」と!

ただし、尺にしてほんの数秒だが、「おお!」と唸らされたカットが、『KOM』にはあった。ギドラが空に向かい放電する場面だ。暗雲に覆われた市街地で、広げた翼の数カ所から発せられる幾筋もの稲光。辺りは金色の光に包まれる。その姿はあたかもサンダーストームの化身、もしくは雷神。サタンのメタファーでありながら、ある種の神々しさすら感じてしまう映像だった。

最後にひとつ、私事を。何を隠そう、僕は辰年生まれである。(何回目の年男か、ご想像にお任せしよう!)干支とは関係なく、もともとキングギドラには特別な思い入れがあったが、改めて考えてみると、何か特別な繋がりがあるような気がしてくる。この際だ。僕の守護聖人ならぬ、守護聖獣、ということにしてしまおう。調べてみると、鳴き声の着メロがある。それも「カラララ」だ!かくして、僕のスマホの着信音は、キングギドラになったのである。

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】ものすごく久しぶりに、銭湯に行きました。電気風呂は相変わらず痛いなあ、水風呂は心臓に悪いんじゃ?、などと考えながら、たっぷり長風呂。そして上がった後は、もちろんコーヒー牛乳!

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明けの明星が輝く空に
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