明けの明星が輝く空に 第173回:特撮作品が描く女性像
初めて昭和の特撮作品を観た人たちからは、こんな感想が漏れるかもしれない。「ミニスカート姿のヒロインが多いな。」 もちろん、昭和40年代にはミニスカートブームというのがあり、町なかにはそんなファッションの女性が闊歩していた。また、昭和45年に開催された大阪万博でも、コンパニオンさんの制服が軒並みミニスカートだったことを考えれば、驚くようなことではないかもしれない。しかし、その衣装で派手な立ち回りやアクションをさせるのは…。今なら間違いなくやり玉に挙げられるだろう。
実を言えば、3月の記事で取り上げたマリ(『キカイダー01』)の衣装も、ミニスカートだった。その姿で空手技を繰り出したり、地面に転がったりするものだから、違った意味でハラハラしてしまう。推測に過ぎないが、制作したのが東映だったことと関係があるかもしれない。例えば、『プレイガール』(1969年~1974年)という、“お色気”が売りのアクション番組を制作したのも東映だ。ブラウン管が映し出すのは、ミニスカートでのアクションのほかヌードシーンなど、お茶の間が気まずくなってしまうような場面が多かった。
ただし、さすがに『キカイダー01』は子供向けの番組なので、番組制作者もそこはわきまえていた。アクションの見せ方にいやらしさはなく、節度は保っていたと言えるだろう。(中には、見せることが前提となっているとしか思えない特撮番組があったのも、また事実なのだが。)
円谷プロのウルトラシリーズの場合、そういった路線とは距離を置いていた。怪獣と戦う特殊チームの女性隊員はパンツスタイルで、肌の露出もほとんどなかった。制服がタイトなデザインのため、多少体の線が出るということはあるが、それは男性隊員も同じであった。
しかし、チーム内における彼女たちの立ち位置は、ステレオタイプに基づいたものだ。戦いの最前線に立つこともあるのだが、基地に残って通信などを任されることも少なくなかった。また、現場で負傷者が出れば、その保護を担当し、逃げ遅れた人たちを誘導するため、後方に引くこともあった。
隊員の男女比にも偏りが見られる。当初は、男性4~5人に対して女性は1人。その後、女性は増えたものの、男性優位は変わらない。もちろん、力関係でもそれは変わらず、隊長は決まって男性。『ウルトラマンティガ』(1996年~1997年)で初の女性隊長が登場したが、その後は副隊長止まり。『ウルトラマンタイガ』(2019年)のように、主人公が所属する民間警備会社の社長が女性という例もあるが、これはいわば“背広組”であって“制服組”ではないから、前線で指揮を執る戦闘部隊の隊長とは同列に論じることはできない。
スーパー戦隊シリーズの場合、女性だからといって後方支援のような形はとらない。男女そろって最前線で戦うのが基本だ。しかし、だからこそ、人数の偏りがより明確になる。シリーズ第1弾の『秘密戦隊ゴレンジャー』(1975年~1977年)における男女の比率は4:1。シリーズ5作目の『太陽戦隊サンバルカン』などは、メンバー3人すべて男性だった。その後、5人中2人が女性というパターンが増えたが、いまだに男女比は逆転していない。
スーパー戦隊シリーズに関して、もう1つ指摘したいのは、女性レッドの不在だ。ご存じのようにスーパー戦隊の各キャラクターは、ブルーやイエロー、ピンク、ブラックなど個別の色を持っており、センターを任されるのは常にレッド。必ずしもチームリーダーというわけではないのだが、物語の中心となるキャラクターだ。例外的に、『侍戦隊シンケンジャー』(2009年~2010年)に女性のレッドが登場したが、それは番組終盤の6話だけで、ほかに全49話を通して登場する男性主人公のレッドがいた。
仮面ライダーシリーズに目を転じれば、最近は女性ライダーも登場するのが番組の基本フォーマットとなっている。ただし、主人公は男性のまま。女性ライダーが主人公の作品は、いまだ実現していない。それでも、実力は男性ライダーと拮抗しており、戦闘において、“一歩下がって”といった立ち位置ではないところは、今後に期待を抱かせる点だろう。一方、数自体が少ない女性ウルトラマンのそれは、母親や幼馴染、元恋人、そして妹など。男性主人公の周縁的な位置にとどまり、女性ライダーに比べて壁は高いようだ。
女性が主人公では、男の子の視聴者を引き付けられない。そんな見方が番組制作サイドにあるのだろうか。しかし、僕自身の子供時代を振り返れば、『魔法使いサリー』や『リボンの騎士』など“女の子アニメ”を楽しく観ていた。『キャンディキャンディ』のエンディングソングは、今でもお気に入りの一曲だ。作品が面白ければ、主人公の性別は関係ない。まして、アクションも生き様もカッコいい女性のスーパーヒーローなら、男の子たちの目にも魅力的に映るだろう。近い将来、怪獣や怪人たちより手ごわそうな、特撮界に残るこの高い壁が崩れ去ることを期待しよう。
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】数十年ぶりに縄跳びをやってみたら、こんなにできなくなるものか!というぐらいできませんでした。タイミングが合わない合わない。二重跳びなんて1回跳んだら足に引っかかって…。ブランクをなめてはいけない。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
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