明けの明星が輝く空に 第174回:夢幻のヒロインたち4:如月瞳(キューティーハニー)
登場作品:映画『CUTIE HONEY -TEARS-』(2016年)
キャラクター設定:己の身を犠牲にし、人々を救った女性型アンドロイド
前回の記事では、特撮作品における女性主人公の不在について、個人的な思いを書いた。しかし、実を言えば、女性主人公が皆無というわけではない。特撮番組に分類される『コメットさん』(1967年~1968年、1978年~1979年)や、『好き!すき!!魔女先生』(1971年~1972年)の主人公は、どちらも(宇宙のどこかからやって来た)少女だ。
その『好き!すき!!魔女先生』放送終了の翌年、マンガとアニメによるメディアミックスという形で、女性ヒーローが活躍する『キューティーハニー』の連載/放映が始まった。その後、アニメのリメイク作品をいくつか経て、のちに『シン・ゴジラ』(2016年)を撮ることになる庵野秀明監督が、佐藤江梨子主演で映画化(2004年)。さらに原幹恵主演のテレビシリーズ(2007年~2008年)を挟み、2016年公開の劇場版『CUTIE HONEY -TEARS-』につながる。そして、その映画の主人公が、西内まりや演じる如月瞳である。
マンガ版の『キューティーハニー』は、今なら間違いなく問題視されるようなお色気場面が売りだった。なにせ作者が永井豪氏である。マンガ『ハレンチ学園』(1968年~1972年)で、教師やPTAから激しくバッシングを浴びせられたマンガ家だ。しかし、オリジナルと違ってシリアスな世界観を構築し、主人公の名前を「如月ハニー」から「如月瞳」に変更した『CUTIE~』は、お色気要素をほぼ排除している。ティーザービジュアルを見てもわかるように、キューティーハニー(瞳の戦闘形態)の衣装は地味で落ち着いたものになった。上下別れたボディスーツは、腰回りのラインを隠しており、少々野暮ったいぐらいだ。また、いったん全裸になるという“お馴染み”の変身場面は、マイルドな描写で回数も抑えられた。
しかし、「ほぼ排除」と書いたように、ゼロではない。その一つが、瞳がミニスカートのドレス姿で階段を上るカットだ。真後ろではないが、不必要にローアングルから捉えている。(『シン・ウルトラマン』(2022年)で、巨大化したスカート姿の女性登場人物をローアングルで捉えたカットに対し、セクハラだと批判の声が上がったことが思い出される。)それでも、『CUTIE~』を観た人のレビューの中にお色気不足を嘆く声が散見されるのだが、それは逆に、映画制作者が現代の基準に近づけようとして原作から距離をとった、ということの証左なのかもしれない。
しかし、映画が描く瞳には、もっと本質的な部分で残念な点があるように思う。それは、彼女の内面の描き込み方に、物足りなさを感じてしまうことだ。例えば、彼女はなぜ巨悪と戦うのか。人々を助けるために戦うレジスタンスのメンバーに請われて作戦行動に参加するのは、彼女を作った“父”、如月博士と再会できると思ったからだが、博士に対する彼女の強い想いがわかるシーンはほとんどない。そのため、少々とってつけたような動機づけのように感じてしまうのだ。それに、「人々を救う」という利他的な目的意識が強くなければ、ヒーロー性に乏しい気もする。
ただし、瞳はビジュアル面で非常に魅力的なキャラクターだった。単に美人だとか、そんなことではない。確かに、彼女は特撮史上もっとも美しいキャラクターだ(と個人的には思う)。特にキリっとした表情は魅力的で、思わず見とれてしまう。しかし、同様に彼女のアクションも美麗である。全身を躍動させたダイナミックな攻撃で、瞬時に敵を圧倒。戦闘中にほぼ無言な上、表情をゆがめたりしないのは、彼女がアンドロイドだからという演出意図からだろう。それが結果的には、“泥臭さ”や“汗臭さ”とは無縁の、スマートなアクションという印象につながっている。
瞳がまとう美のイメージは、アンドロイドとしての彼女の特性によっても強調される。彼女はボディにダメージを受けても、体内にある「空中元素固定装置」により、ナノミクロンのレベルで自己修復できるのだが、その際に“傷口”から無数のピンク色に光る粒子が立ち上る。劇中で説明はされないが、おそらく個々の光はボディを構成する元素だろう。なぜ光るのかという理屈はともかく、出血や流血の暗喩として、これほど美しい映像表現もない。もしかしたら、この光の粒子は『CUTIE~』一番の演出と言ってもいいかもしれない。(変身場面では、この光の粒子が全身を包み、瞳が全裸になったという印象は薄い。)極め付きは、彼女の最期だ。物語のクライマックス、身を挺して人々を救ったあと、力尽きてビルの高層階から落下していく間に、彼女は空中で“消滅”する。全身が光の粒子のかたまりとなり、一瞬強く光ったかと思うと、霧のように消えていくのだ。この時、光は瞳の命の輝きそのものの表現だったと言えるだろう。
個人的には、そのままエンドロールに入ってほしかったのだが、実際には“ありがちな”ラストカットが用意されていた。スクリーンに映し出されたのは、地面に転がる空中元素固定装置。それが起動し、ピンク色に輝き始める。瞳の復活を暗示しているのは明らかだろう。どうも“蛇の絵に描き加えられた足”という印象は否めない。尊く感じられた光の粒子も、結局は都合の良い仕掛けに過ぎなかったと思えてしまう。瞳というヒロインのためにも、このラストは避けてもらいたかった…。
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】LAWSONの盛りすぎチャレンジで売られるロールケーキがすごいけど、すぐなくなる、と仕事仲間が教えてくれたので、時間を見計らって買いに行きました。大量のクリームがのどを通過するときの幸福感!結局、4日間に3回も買って食べてしまった。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
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