明けの明星が輝く空に 第180回:干支と特撮:ヘビ
興味深いことに、ヘビをモチーフにした特撮キャラクターを俯瞰してみると、怪獣系はほとんど見当たらないのに対して、怪人系はウジャウジャいる。確かに、ヘビ型の怪獣では体にボリュームがないので迫力が出ないし、人が入って演じる着ぐるみに向かないのも明らかだ。(今ならCGでいかようにもできるが、それでも角があって見栄えが良く、モチーフ自体も威厳のある龍の方が、より好まれるだろう。)
それに対して怪人の場合、マスクなどのデザインでそれらしく表現できさえすれば、ヘビどころか、クラゲでもトリカブトでもカビでも、何でもモチーフになる。実際、コミカルな作風で楽しませてくれた『秘密戦隊ゴレンジャー』(1975年~77年)などは、革靴や野球のボールすらモチーフになったぐらいだ。
マスクで表現できれば、と簡単に言ってしまったが、ヘビの特徴をどうデザインに落とし込むのか。バランスなども考えると簡単ではなさそうだが、その手法は大まかに2つのタイプに分類できるようだ。ひとつは、ヘビの顔をそのまま再現する。もうひとつは、ヘビの意匠をアレンジして取り入れる、というものである。
『仮面ライダー』(1971年~73年)の初期に登場したコブラ男は、後者だった。端的に言えば、怒って頸部を広げたコブラが、前頭部から後頭部にかけて張り付いているようなデザインだ。正面から見ると、ベレー帽をかぶっているような印象で、鱗に覆われたその“ベレー帽”がコブラの頭部にあたる。(ベレー帽に見えるのは、偶然ではないだろう。頭頂部には、「チョボ」と呼ばれるベレー帽特有の紐状の飾りのようなものがあるし、コブラ男を送り出した秘密組織ショッカーの戦闘員たちは当時、ベレー帽をかぶっていたからだ。)また、顔の横に張り出した部分に、頬から幾筋かの線が伸びているのだが、これは蛇腹を模したものだろう。
広げた頸部の意匠を取り入れたという点で、コブラ男はその後のライダーシリーズに登場したコブラ怪人たちの“始祖”と言える。ただ、このコブラ男、醜怪な姿のわりに間が抜けていた。金塊を盗みに入った先で、犬に吠えかけられただけで撤退。その時、脱着式の牙を落としてしまう。再び作るには半年もかかる特殊な武器だったため、首領から叱責を受けるなど、これが世界征服を企む秘密組織ショッカーの怪人か、というぐらい情けない。ただし、シリーズの歴史上、結果的に重要な役割を果たしたことを、彼の名誉のためにも付け加えておく必要があるだろう。なぜなら、死ぬ際に爆発した初めての怪人だったからだ。それまで怪人の最期といえば、ドロドロに溶けたりするような気味の悪いものだった。それが爆死という形のおかげで陰気さは消え、ちょっとしたカタルシスをも感じさせてくれるようになったのだ。
そしてコブラ男登場から30年後、ひとつの完成形とも言えそうな、洗練されたデザインのコブラ怪人が誕生した。映画『仮面ライダー THE FIRST』(2005年)に登場した、その名もずばり、コブラである。コブラを含むこの映画の怪人たちは人間の姿を失っておらず、フルフェイス型ヘルメットのような、頭部全体を覆うマスクをかぶるという設定だ。その外見は、メカニカルでスタイリッシュ。生々しくグロテスクな見た目が当たり前だった怪人とは、一線を画したものだった。
このマスクの顔面には目がない。装着者はバイザーを通して視界を確保しているようだ。そのすぐ下に牙を模した飾りがあるが、口のようなものは見当たらない。“ご先祖様”であるコブラ男のベレー帽にあたる部分は、少し平たいヘルメットのような形状で、堅い質感と相まってカメの甲羅のように見えないこともない。その先端には、コブラ男にはなかった小さな目の装飾。(赤外線カメラになっている、といった設定があれば面白いが、そのような機能はないようだ。)しかし、コブラ男同様、“ヘルメット”の裏側には蛇腹のような筋が入っている。
実はこのデザイン、『仮面ライダーアギト』(2001年~02年)に登場したスネークロードの1体、アングィス・マスクルスのものと、(有機的と無機的という質感の違いはあるが、)全体的な形状がよく似ている。実は、どちらもアニメ作品のメカやキャラクターのデザインで有名な、出渕裕氏が手がけたものだった。出渕氏は、スーパー戦隊シリーズなど特撮作品にも関わっており、おととし公開された映画、『シン・仮面ライダー』にも参加。生物をモチーフにメカニカルなデザインを施す手法は、そこでも生かされていた。(出渕氏の作品では、異世界を舞台にしたアニメ『聖戦士ダンバイン』(1983年~84年)に登場するロボットが印象深い。巨大生物の甲殻などを利用したという設定で、有機的なデザインはまさに唯一無二だ。)
ちなみに、コブラを演じたのは、これが映画初出演となったウエンツ瑛士さんである。映画公開当時は、20歳になったばかり。現在、それから20年近くたっているというのに、雰囲気は大きく変わっていない。そういえば、ヘビは脱皮するたび、新しい姿に生まれ変わる。もしや、彼は本当にコブラ怪人で、ショッカーの手で年を取らない体に・・・?もしそうだったとしたら、ぜひとも、その連絡先を教えてもらいたいものだ。
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】とりあえず今年の目標を「前後開脚180度」にしました。それができたからと言って、どうなるものでもないのですが・・・。まだ残りは12ヶ月近くあるし、気長に取り組み続けます。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る