明けの明星が輝く空に 第72回 特撮と干支:猿
【最近の私】去年12月に、「第4回 ひし美ゆり子とヒーローたち」というイベントに行ってきました。ひし美さんは、もちろんウルトラセブンのヒロイン、アンヌ隊員です。その時、配布されたのがこちら→http://jvtacademy.com/blog/co/star/2011/03/post-12.php参照)。
親しい先輩が毎年、干支にちなんだ年賀状を自作して送ってくれる。1年前は『ひつじのショーン』があしらってあり、2年前は坂本龍馬や天馬博士(『鉄腕アトム』)など、名前に「馬」が入る人物・キャラクターが並んでいた。
そして2016年は申年。あの先輩のことだから、『宇宙猿人ゴリ』や『SFドラマ 猿の軍団』など、マニアックなところを突いてくると期待し、僕からの年賀状にもそう書いておいた。だけど先輩から届いた年賀状は、キングコング。それも東宝映画『キングコング対ゴジラ』(1962年)のコングではなく、ハリウッド版のコングなのだ。ちょっとガッカリだった。
『宇宙猿人ゴリ』や『SFドラマ 猿の軍団』と聞いて分かった人は、かなりの特撮上級者に違いない。前者は1971年に始まった特撮番組で、スペクトルマンというヒーローが、地球制圧を目論む宇宙人のゴリから地球を守るという内容だ。つまり、悪役の名前が番組タイトルになったというとても珍しい番組だった。ただ、子どもたちへのアピールという点から見直されたのか、放送の途中でタイトルが『宇宙猿人ゴリ対スペクトルマン』となり、最終的には『スペクトルマン』に落ち着いた。
「ゴリ」というのは、バルタン星人のような種族の名前ではなく、個人に付けられた名前だ。真っ黒いゴリラ顔にセミロングの金髪という姿で、天才科学者という設定だった。彼にはラーという武闘派の手下がいて、こちらはゴリラそのもの。地上で暗躍する際には、地球人の服装を着用して変装するが、顔はそのままなので、何ともおかしなことになっていた。それにしても、名前が「ゴリ」と「ラー」である。僕は子ども心にも、単純なネーミングだなあと思ったものだ。
一方の『SFドラマ 猿の軍団』であるが、こちらは名前を見て、「日光?」と思った人も少なくないだろう。もちろん、まったく関係ない。1974年から75年にかけて放映されたSF番組で、猿が支配する未来にタイムスリップするという、映画『猿の惑星』(1968年)の基本設定を拝借したお話だ。とはいえ、原作にSF作家の巨匠小松左京氏、田中光二氏、豊田有恒氏の3人が名を連ね、生物学的考証もしっかりしていて、パクリの類などではない。もちろん、そんなことを知らない当時の僕は、悪気もなく「映画のマネじゃん」と思っていたのだが…。
残念ながら僕は、この『猿の軍団』の内容をほとんど覚えていない。記憶にあるのは、主人公を演じた俳優が、『快傑ライオン丸』(1972~73年)のライオン丸=獅子丸と同じ人だったとか、猿たちが軍人姿だったとか、それぐらいだ。主題歌については、「猿の軍団 何するものぞ」というフレーズだけ覚えているが、その部分のメロディーはかなり怪しい。今回、この記事を書くにあたっていろいろ調べてみて、「そうそう、人間の味方をしてくれる子ザルがいたなあ」とか、「主人公と一緒にいる女の子って、特撮番組でよく見た顔だな」とか、そんなことを少し思い出した程度だ。
実は、「猿と特撮」というテーマを考えた時、僕の頭に最初に浮かんだのは、『ウルトラQ』(1966年)のゴローだった。ゴローは、戦時中に軍部が開発した食材を大量に摂取し、甲状腺に異常をきたして巨大化した猿で、特に悪さをするわけではないのだが、あるシーンが妙に怖かった。それは、ゴローが初めて登場する場面。観光客を乗せたロープウェーが突然大きく揺れ、窓から前を見ると、前方でゴローがロープにぶら下がっている。逃げ場のない空間で、得体の知れない巨大猿に近づいて行ってしまう恐怖。ゴローの着ぐるみの出来があまり良くなく、顔が気味悪く見えていて余計に怖かった。
どちらかといえば、猿はカッコ悪いイメージが強い。子どもたちの間で動物の人気投票をしたら、ずっと下の方の順位だろう。だけど僕が子どもの頃に見た、『猿の惑星』のゴリラはカッコ良かった。馬に乗って登場した場面は、眼光鋭く迫力があった。ちまたでは今、シャバーニというイケメンゴリラが人気を集めていることだし、申年の今年は猿にとってチャンスかもしれない。ぜひ、特撮の世界での活躍も期待しよう。
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る