明けの明星が輝く空に 第73回 特撮映画の功労者:キングコング
【最近の私】今年もやって来た、JR東日本のウルトラマンスタンプラリー。ウォーキングを兼ね、駅から駅へと歩いとります。東京駅から神田駅に向かう途中、JVTAの前を通過。日曜の夜だったので真っ暗でした。スタンプラリーの模様は、コチラで →https://twitter.com/JEETAKA/status/691169862572310528
ゴジラ抜きに日本の怪獣映画は語れない。怪獣映画はこれまで、ゴジラシリーズを中心に数多く作られ、映画の一つのジャンルになっている。ここまでゴジラがメジャーになったのもキングコングのおかげといっていいだろうと僕は考えている。1933年のアメリカ映画『キング・コング』に初めて登場したこのモンスターは、(別設定・別個体であるが)『キングコング対ゴジラ』(1962年)などで、日本映画にも2回登場している。
(今回は主に東宝版コングを取り上げたい。「アメリカ生まれで、その後日本映画にも登場したモンスター」という意味合いを持たせる場合もあるので、作品名以外は「キング・コング」と「キングコング」を区別せずに、「コング」で統一)
『ゴジラ』(1954年)を撮った本田猪四朗監督も、その特撮シーンを担当した円谷英二特技監督も、『キング・コング』に大きな影響を受けたのは有名な話だ。そういった意味で、『キング・コング』がなかったら、日本に怪獣映画は生まれなかったかもしれない。しかし今回の論点は『ゴジラ』そのものではなく、その後に作られた作品群の傾向にある。まずはその特徴が分かりやすい作品名を、いくつか挙げてみよう。例えば、ゴジラシリーズであれば『モスラ対ゴジラ』(1964年)や『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』(1972年)、ガメラシリーズなら『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』(1967年)や『ガメラ対深海怪獣ジグラ』(1971年)だ。両シリーズ以外にも、『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』(1966年)などが挙げられる。
お気づきのように、これらは全て怪獣同士の「対決モノ」だ。他にも、『メカゴジラの逆襲』(1975年)など、作品名からは分からないが、中身は怪獣同士の対決がメインである場合も多い。数えてみると、ゴジラシリーズ全28作品のうち、実に26作品に怪獣同士の対決シーンがある。
このように、“怪獣映画イコール対決モノ”と言ってもいいほどだが、実は怪獣映画がこの路線に進むきっかけとなったのが、1962年の『キングコング対ゴジラ』(以下『キンゴジ』)だった。『キンゴジ』が興行的に大成功を収めたため、そのフォーマットを踏襲する映画が作られるようになったのだ。
『キンゴジ』が、どれだけ好評だったのか。初回興行時の観客動員は、1千百万人を超え、当時は日本の映画史上で2位という数字を叩きだしたという。その頃の日本の人口はまだ1億に届いていなかったので、日本人の10人に1人以上が見た計算だ。時代が違うので単純に比較はできないが、2015年の日本における興行収入1位だった『ジュラシック・ワールド』の観客動員数はというと、公開から2カ月たった時点で600万人。最終的にはもっと上積みされただろうが、それでも『キンゴジ』の記録は超えていないのではないだろうか。
『キンゴジ』の人気の秘密は、通常ならあり得ないマッチメイクにあったと考えられる。例えが古くて恐縮だが、コングとゴジラの顔合わせは、異種格闘技戦の「モハメド・アリ対アントニオ猪木」を思い出させる。ボクシングが生んだ世界最大のスター王者、アリと、日本のプロレス王、猪木。接点が全くないはずの2人の競技者が、同じリングに上がって戦ったように、コングとゴジラも、ハリウッド映画と日本映画の垣根を越えて相まみえた。これは僕の想像だが、この対決は映画の枠に収まらない、世紀の一大イベントとして受け止められていたのではないだろうか。
世紀のマッチメイクを得た『キンゴジ』は、内容もエンターテイメントに徹していて、それが大きなアピールとなったのだろう。中でも物語の中心となるコングとゴジラの決戦シーンは、観客へのサービス精神にあふれていた。「世紀の凡戦」と揶揄されてしまったアリ対猪木とは違い、両雄の戦いは見事にかみ合い、迫力満点。何といっても、コングの怪力無双の戦いぶりが、見ていて楽しい。ゴジラの尻尾をつかんで振り回したり、一本背負いで地面に叩きつけたりと、プロレスや柔道の大技を披露してくれた。これだけでも怪獣王ゴジラにとっては屈辱的な場面だが、さらにコングは、引っこ抜いた木をゴジラの口の中に押し込むという“反則技”まで見せた。苦しそうにもがくゴジラの姿が、妙にユーモラスでおかしい。
『キンゴジ』以降、対決モノを基本路線に据えたゴジラシリーズに対して、「怪獣プロレス」と揶揄する向きもあったという。しかし怪獣同士の激突が見られるのは、子どもたちには嬉しい限りだった。さらに言えば、1960年代から80年代にかけて、前述のアントニオ猪木に加え、ジャイアント馬場らも活躍した日本のプロレスが、人気絶頂期にあったことも考えると、「怪獣プロレス」路線は興行的には大正解だったと言えるのではないだろうか。
そして今、怪獣プロレスのフォーマットは、海を越えたハリウッドでも採用されるようになった。『GODZILLA ゴジラ』(2014年)にはゴジラの敵怪獣であるムートーが登場したし、続編の『GODZILLA2』(2018年公開予定)には、東宝怪獣のキングギドラが登場するという。さらにさらに、2020年には、なんと『GODZILLA vs. KONG(原題)』が公開予定なのだ!『キンゴジ』から半世紀を経て、アメリカが日本の怪獣映画をリメイクする。昭和の怪獣映画ファンにとっては、何とも言えず感慨深いものがある。
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る