明けの明星が輝く空に 第75回 『ウルトラマンタロウ』独自の世界
【最近の私】Nikonの超薄型デジカメを買いました。これでNikon製品は、フィルムカメラの古いレンジファインダーと、同じくフィルム式の一眼レフ、コンパクトデジカメと合わせて4台。Nikonの文字が並ぶさまを見て、ひとり悦に入っています。
僕はかねがね、特撮作品を楽しむためには「特撮リテラシー」(昭和特撮を愛する人が持つ「特殊能力」。それがあると、着ぐるみの怪獣が生き物に見え、ミニチュアのビルが本物に見えてくる)が必要だと思っている。『ウルトラマンタロウ』の場合は、さらに見る人を選ぶ「タロウリテラシー」が必要なようだ。残念ながら、いまの僕にはそれがあるとは言えない。
『ウルトラマンタロウ』は、1973年から74年にかけて放送されたウルトラマンシリーズの5作目だ。なかなか人気があったようだが、僕は好きではない。あの「おちゃらけた」雰囲気が、どうにも許せないのだ。作品を観たことない人でも、タロウの敵として登場するのが「酔っ払い怪獣 ベロン」「食いしん坊怪獣 モットクレロン」「うす怪獣 モチロン」などと聞けば、「おちゃらけ」という言葉を使った理由を分かっていただけるだろう。
ただ、実際に僕が内容を覚えているは、モチロンが登場する回(当ブログの第12回『餅を突かれた怪獣』→http://jvtacademy.com/blog/co/star/2011/01/ )だけだった。ベロンもモットクレロンも、どんな話だったか記憶にない。それどころか、見たかどうかさえも定かではない。もしや「食わず嫌い」? 今年のウルトラマンスタンプラリーで彼らのスタンプを押していくうちに、そんな思いに駆られ、個人的に“昭和特撮研究資料室”として利用させていただいている、地元駅前のTSUTAYAに駆け込んだ。
結論から言えば、モットクレロンが登場する第43話『怪獣を塩漬けにしろ!』も、ベロンが登場する第48話『日本の童謡から 怪獣ひなまつり』も、「ツッコミどころ満載」のエピソードだった。まずは、第43話から紹介しよう。
地球のビタミンCを狙う宇宙人が連れてきたモットクレロンは、最初は大型犬ぐらいの大きさだった。それが、地球の野菜を食べ続けて巨大化。タロウは、モットクレロンの吐く青汁のような液体に苦しめられ、ピンチに陥る。そんなとき彼が思いついたのは、モットクレロンを塩漬けにして小さくしてしまうこと。足元の商店から拝借した塩と、(いつの間にか出てきた)巨大な樽でモットクレロンを塩漬けにし、上からグイグイ踏んづける。そのたびに、樽から緑色の汁が勢いよく飛び出す。そして水分を抜かれて小さくなったモットクレロンは、白菜と大根のお土産を持たされ、宇宙に帰されたのであった…。
「モットー、モットー」と鳴くモットクレロンを見ていて、僕は伝説的(?)な5分番組、『クレクレタコラ』を思い出した。放映時期が、『ウルトラマンタロウ』の後半とかぶっていたその番組の内容は、主人公タコラ(タコの怪獣、といっても人間サイズ)が、毎回友だちの持ち物を欲しがって「クレクレ、クレクレ」と追いかけ回す。ただ、それだけというシュールな番組だった。もしかしたら、タコラからヒントを得て、モットクレロンが生まれたのかもしれない。
一方、第48話に登場するベロンは、赤い巨大なヒョウタンをぶら下げ、真っ昼間から酔っぱらって暴れ回る迷惑な怪獣だ。ベロンを地球まで追って来た宇宙人たちによると、さらに酔わせれば、ベロンは踊り出して寝てしまうという。タロウまでもがベロンと一緒に踊ってみたが、なかなか寝てくれない。そこでタロウが取り出したのは、巨大なポリバケツ。それでベロンに水を浴びせたところ、ベロンは酔いが醒めたりはせず、グーグー寝てしまった。そしてタロウによって、モットクレロン同様に宇宙へ帰された。
このエピソードがさらにバカバカしかった…、いや、シュールだったのは、当時の流行歌(懐かしい響きだ)に合わせ、登場人物たちがその曲の歌手と同じ振り付けで踊る場面だ。まずは冒頭で、太郎君(ウルトラマンタロウとは無関係)という少年が、なぜか姉二人に女装させられ、ひな祭りを祝っている。それをからかう友達を追いかけていた彼は、なぜか山本リンダの『狙いうち』をBGMに、唐突に躍り出す。彼はまた、ベロンを躍らせるために、ポケットから取り出したサングラスをかけ、フィンガー5の『恋のダイヤル6700』に合わせて踊ってみせた。サングラスはもちろん、フィンガー5のメインボーカル、晃が掛けていたものと同じトンボメガネスタイルだ。そこに主人公の光太郎(ウルトラマンタロウ)ら地球防衛組織ZATの隊員が駆け付けると、今度は金井克子の『他人の関係』が流れ始め、光太郎も含めみんなで踊り出す。ちなみに、タロウもベロンに付き合って踊る場面があり、そこでは番組オリジナルのBGMが流れていたが、タロウの振り付けは明らかに『狙いうち』のそれだ。
ここまで書いてきた自分の文章を読み返して、僕はふと思った。「『ウルトラマンタロウ』って、面白そうじゃん!」と。『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』と同じ線上にあると思うからいけないのだ。『ウルトラマンタロウ』は『ウルトラマンタロウ』独自の世界観がある。こういうものだと思えば、楽しめないことはない! どうやら僕にも、「タロウリテラシー」が身に付いてきたようである。
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る