明けの明星が輝く空に 第89回 特撮俳優列伝3 桜井浩子
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半世紀以上にわたり、日本の子供たちに夢を与えてきた特撮番組。そこに登場するヒロインたちを演じた女優は数知れないが、草分け的存在といえば桜井浩子さんだ。彼女の功績は、「ウルトラシリーズ黎明期を支えた」という一言に集約されるだろう。
桜井さんは、1966年に始まったウルトラシリーズの1作目『ウルトラQ』と、2作目『ウルトラマン』に続けてレギュラー出演した。『ウルトラマン』の主人公ハヤタを演じた黒部進氏なども『ウルトラQ』に出演していたが、1話限りのゲスト出演だ。桜井氏以外に、両作品でレギュラー出演した俳優はいない。
『ウルトラQ』のオーディション当時、まだ17歳の新人だった桜井さんが演じたのは、主人公である新聞社のカメラマン・江戸川由利子。好奇心旺盛で快活、さらに物怖じしない性格の由利子は、桜井さんにはピッタリの役柄だ。いやむしろ、桜井さんあっての由利子だったのかもしれない。
『ウルトラQ』には主人公が三人いて、由利子のほか万城目淳と戸川一平という二人の男性が毎週奇怪な事件の数々に遭遇する。最年少の由利子は、どちらかといえばマスコット的存在だったが、第17話「1/8計画」は彼女を中心に物語が展開していく。このエピソードで特筆すべきは、体を1/8までに縮小され、元の生活には戻れないと知った由利子が、淳と一平に別れの手紙を書くシーンだ。撮影が行われたスタジオのセットには、小さくなった彼女の体に合わせ、大きな電話機や鉛筆、メモ用紙といった小道具(大道具?)が用意された。劇中、由利子は自分よりも大きな受話器を外して電話をかけるのだが、ご本人によると、本番前に落として一部を壊してしまい、美術スタッフを困らせたらしい。またジャンボサイズの鉛筆を持ち上げた時には、バランスを崩して転んでしまったそうである。
どちらも現場ではありがちな話とはいえ、若い女性にとっては体を張った懸命な演技だったに違いない。本番中、大きな鉛筆で「サヨナラ」と書いた時には本当に悲しくなって涙をこらえたというが、大きな小道具と格闘しながらも、しっかり役作りができていたということの証明だろう。
その桜井さんは『ウルトラマン』の33話「禁じられた言葉」の中で、今度は一転して巨大化し、ミニチュアセットのビルを破壊するシーンを演じることとなる。桜井さんが演じた科学特捜隊のフジ・アキコ隊員が、侵略星人によって怪獣サイズにされ操られてしまうのだ。実は、本物のアキコ隊員は円盤の中に幽閉されており、宇宙人が幻影を見せたにすぎないのだが、それは劇中の設定の話で、撮影では桜井さんが実際にビルの模型を殴って破壊する。黒い革素材らしき手袋はしているが、石こうで作られた模型は硬い。ビルの外壁が崩れず、殴った手が跳ね返されたりもしており、いかにも痛そうだ。
桜井さんにとって大変だったのは、体を張った演技だけではない。個性的な演出で知られる実相寺昭雄監督がメガホンを取った時(34話「空の贈り物」)には、魚眼レンズで顔のアップを撮られ、後日その後映像を見て憤慨したという有名なエピソードがある。ご本人はひどい顔に撮られたとお怒りだが、決してブサイクでも何でもない。もちろん顔は歪んで映っているが、きっとこの人は普通に見たら美人なんだろうなあと想像できるレベルの高さだ。桜井さんでなければ、実相寺監督も魚眼レンズなど思いつかなかったのではないだろうか。
そう、アキコ隊員はキレイだった。由利子はまだあどけない印象が強かったのに、ほんの半年後かそこらで、ずいぶんと印象が変わっている。やはり女性は、メディアの露出が増えると大きく変わるらしい。ひどい撮り方をした実相寺監督も、ほかのエピソードでは真珠をつけて幸せそうに微笑むアキコ隊員の姿を映像に残している。アキコ隊員がこんな女性らしい一面を見せる場面は、実相寺監督作品以外では見られないのだから、やはり監督は桜井さんの美しさを認めていたに違いない。その後『怪奇大作戦』(1968年~1969年)では、ゲスト出演した桜井さんを、さらにキレイに撮っているのを見ても間違いない。
桜井さんは現在、円谷プロダクション主催のトークショーなどにも出演し、ウルトラシリーズの発展に尽力されている。当時の出演者が今もシリーズに携わっている姿を見るのは、ファンとしてうれしいし、また心強く感じる。今後、ますますのご活躍を祈るとともに、ウルトラシリーズの発展を心から願う次第である。
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る