見えない無差別殺人犯 アンドリュー・ロビンソン in 『ダーティハリー』
【最近の私】休みの日は家で過ごすことが多いです。DVDやCSでの映画鑑賞、読書、たまにジョギングと、生活にリズムをつけるようにしています。
新型コロナウイルスの影響は広がる一方で、いつ終息するか不明な状態が続いている。目に見えないウイルスは、いつ感染するか分からない恐ろしさがある。映画にも、無差別に市民を狙う悪役が登場してきた。今回は『ダーティハリー』(1971年)でアンドリュー・ロビンソンが演じた犯人を紹介したい。
舞台はサンフランシスコ。ホテルの屋上のプールで泳いでいた女性が、何者かに射殺される場面から始まる。犯人(アンドリュー・ロビンソン)は自身を「スコルピオ(さそり)」と名乗り、警察に10万ドルを払わねば、さらに市民を殺すと脅迫する。事件を捜査するのはハリー・キャラハン刑事(クリント・イーストウッド)。少女を誘拐したスコルピオを追い詰めるハリー。スコルピオの自宅を探し当てて逮捕するが、ハリーには令状もなく、逮捕時に「ミランダ警告」を容疑者に伝えなかったため、スコルピオは釈放となる。犯人は野放しで、誘拐された少女は遺体で発見され、誘拐事件は最悪の結果を迎える。
ミランダ警告とは、警察が容疑者を逮捕する際に「あなたには黙秘権がある。供述は不利な証拠となる。弁護士を呼ぶ権利がある。もし自分で弁護士を雇えない場合は、国選弁護士がつく」と告知するもので、映画やドラマで耳にした人もいるだろう。検事に「犯人には人権がある」と言われたハリーは、「被害者の人権は誰が守るのか?」と怒りの声を上げる。犯罪者が守られ、正義が妨げられていいのか!と。
スコルピオはベトナム帰還兵だということは分かっているが、それ以外の過去や犯罪の動機も描かれない。金を要求するが、金が目的にも見えない。なぜ殺人をするのか?それが不明な点が、この犯人の恐ろしさだ。人権という壁に守られたスコルピオは、再び犯罪に手を染める。そしてハリーとスコルピオの最終対決が始まる…。
スコルピオを演じるアンドリュー・ロビンソンは、今作の前は主に舞台に出演しており、『ダーティハリー』で演じた残虐で狂気を漂わせる犯人役で注目を浴びる。だが、この役のイメージが強すぎ、一時は俳優を休業して大工をしていたこともある。俳優復帰後は、シルヴェスター・スタローン主演の『コブラ』(1986年)で、スタローン演じる刑事の上司役に扮した。その後は『ヘルレイザー』(1987年)や『チャイルド・プレイ3』(1991年)などに出演している。
スコルピオにはモデルがいる。1960年代から1970年代にかけて、サンフランシスコで起こった「ゾディアック事件」の犯人だ。少なくとも5人を殺害し、自身を「ゾディアック」と呼び、警察や新聞社に声明を送っている。犯人は逮捕されず、現在も未解決事件のままだ。この事件を描いた映画やドラマは多数あり、デヴィッド・フィンチャー監督の『ソディアック』(2006年)を観た人もいるだろう。
『ダーティハリー』はクリント・イウーストウッドを人気俳優に押し上げ、続編が4本作られる人気シリーズとなった。後の刑事映画に大きな影響を与えた1本でもある。もし未見の人がいたらオススメである。そしてスコルピオの恐怖を味わってほしいです。
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Written by 鈴木 純一(すずき・じゅんいち)
映画を心の糧にして生きている男。『バタリアン』や『ターミネーター』などホラーやアクションが好きだが、『ローマの休日』も好き。
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戦え!シネマッハ!!!!
ある時は予告編を一刀両断。またある時は悪役を熱く語る。大胆な切り口に注目せよ!
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