姿を見せない恐怖! トラック運転手 in 『激突!』
【最近の私】先月、JVTAの新年会に参加しました。久しぶりに会うスタッフの方たちと話ができ、また現在学んでいる方たちからエネルギーを頂きました。
映画の中には、悪役が最後まで姿を現さない作品がある。姿を見せないことで、どんな人物かを観客の想像力に委ねる演出だ。今回はその中から、スティーヴン・スピルバーグ監督の『激突!』(1971年)に登場した、タンクローリーの運転手を紹介したい。
物語の主人公はセールスマンのデヴィッド(デニス・ウィーバー)。彼が車を運転して自宅から郊外へ車を走らせる場面から始まる。デヴィッドの車は、人けのない高速道路を走る。その高速を1台の巨大なタンクローリーが走っていた。デヴィッドはそのタンクローリーを追い越そうとするが、前を塞がれていて追い抜けない。何度かの挑戦で、タンクローリーを抜くことができたデヴィッド。しかし、タンクローリーはデヴィッドの車を後ろから執拗に追いかけるようになる。デヴィッドの地獄が始まった…。
この恐怖のタンクローリーは、全体に錆びだらけで茶色のボディをしているが、かなりのスピードが出る。その汚れた外見からモンスターのようである。今回、久しぶりに本作を観直したのだが、このタンクローリーには、いろいろな州のナンバープレートが付いている。おそらく、この運転手は他の州でも同様に車を襲い、その車のナンバーを付けているのではと想像する。タンクローリーを運転する運転手は、足元や手がカメラに映るが、顔は最後まで見せない。どんな運転手なのだろうかとデヴィッドが顔を見ようとするが、見ることはできない。この演出によって、人間が運転するというより、トラック自体が襲ってくるような印象を持たせ、車に意思があり、主人公を執拗に追うホラー映画のような恐怖感が出ている。
『激突!』は、スピルバーグが初めて演出を担当した作品である。元々はTV映画として製作・放送されたが、日本を含む海外では劇場公開されている。また、フランスのアボリアッツ・ファンタスティック映画祭でグランプリを獲得。この作品の高評価によってスピルバーグは監督として注目されるようになった。ちなみにスピルバーグの監督作で『続・激突!/カージャック』(1974年)という邦題の作品があるが、本作とは関連がない。
タンクローリーはこの後もデヴィッドを執拗に追い続け、踏切ではデヴィッドの車を後ろから押し、踏切を横切る列車にぶつけようとする。またデヴィッドが電話ボックスで警察に通報しようとすると、タンクローリーが登場して、デヴィッドを電話ボックスごと潰そうとするなど、攻撃がどんどんエスカレートしていく。携帯電話が世に出る前、映画では電話ボックスを探すのも、“サスペンスの一つ”でした。現代では携帯電話があるから、公衆電話を探すことはなくなった(現代のサスペンス映画では携帯のバッテリーがなくなる、圏外になって使えないなどのパターンがある)。
果たしてデヴィッドは無事に逃げ切ることができるのか。それはぜひ本編を観てください。
スピルバーグは本作で使った、恐怖の正体をあえて見せない演出を、『JAWS/ジョーズ』(1975年)でも使い、巨大な人食い鮫の恐ろしさを見事に描いている。『JAWS/ジョーズ』については、改めて書きたいと思います。
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Written by 鈴木 純一(すずき・じゅんいち)
映画を心の糧にして生きている男。『バタリアン』や『ターミネーター』などホラーやアクションが好きだが、『ローマの休日』も好き。
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戦え!シネマッハ!!!!
ある時は予告編を一刀両断。またある時は悪役を熱く語る。大胆な切り口に注目せよ!
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