お互いの顔を交換した2人の戦い ジョン・トラヴォルタ in『フェイス/オフ』
【最近の私】現在、冬季オリンピックが開催中。普段あまりスポーツを観ませんが、テレビを鑑賞しながら選手たちを応援しています。
前回の予告編コラムで取り上げた『マンハント』(https://www.jvta.net/co/cinemach-manhunt/)のジョン・ウー監督は、1990年代に香港からハリウッドに渡り、映画を製作している。1990年代には他にもジャッキー・チェン、チョウ・ユンファ、ジェット・リーなどが、香港や中国からハリウッドに進出していた。今回はジョン・ウーが1997年に監督を務めた『フェイス/オフ』で、ジョン・トラヴォルタが演じた悪役を紹介したい。
FBI捜査官アーチャー(ジョン・トラヴォルタ)は、テロリストのトロイ(ニコラス・ケイジ)に狙撃される。アーチャーは命を取り留めたが、一緒にいた息子は銃弾を受け、亡くなってしまう。アーチャーは執念の追跡の末にトロイを逮捕するが、トロイが細菌爆弾をどこかにしかけていることが判明。だがトロイは意識不明となり、爆弾がどこにあるか知っているのはトロイの弟だけだった。そこでアーチャーはトロイの顔の皮膚を自分の顔に移植する手術を行い、トロイになりすまして爆弾の行方を追う。一方、意識を取り戻したトロイは、アーチャーの顔を移植して、顔を入れ替えた2人の戦いが始まる。
お互いの顔の皮膚を取り換えて、その人物になりすますとは、まさにB級映画のアイディアで、かなり無理のある設定である。顔の皮膚をカパッとお面のように取って相手に付け替えるのは、「こんなに簡単にできないだろう!」とか「周りの人に絶対に気づかれる!」などツッコミを入れたくなる。元々は近未来のSF映画だった脚本が、ウー監督の意向で現代劇になったという。
この設定に説得力を与えているのが、アーチャー(中身はトロイ)を演じたジョン・トラヴォルタだ。映画の冒頭では息子を失う、正義感の強い父親、その後は極悪非道な悪役という、かなり難しいキャラクターをうまく演じ分けている。本来のアーチャーは仕事には熱心だが、妻や娘との関係はうまくいっていなかった。だが変身後のアーチャーは妻に優しくなり(中のトロイは女好きなので)、未成年と思われる娘にタバコをすすめ、身を守るためとナイフを渡す。トラヴォルタはウー監督の『ブロークン・アロー』(1996年)に続いての悪役だが、以降も『パニッシャー』(2004年)、『サブウエイ123 激突』(2009年)などでも悪役を演じている。
トラヴォルタに負けずと、ニコラス・ケイジも外見は悪党だが中は正義感の強いキャラクターを演じ、2人の戦いはヒートアップしていく。お互いに銃を向けあう場面もあり、自分に成り変わった人間に向けて撃ち合うというのは、普通ではありえない。だがこれを自分の存在を取り戻す男たちの熱いドラマにしてしまうのがウー監督の流儀といえる。
今作でも、ウー監督お約束の演出は健在だ。2丁拳銃と激しい銃撃戦にスローモーション。クライマックスには白い鳩が飛び交い、敵味方が至近距離で銃を向ける“メキシカン・スタンドオフ”なども登場する。激しい爆発の連続であるクライマックスのボートチェイスの場面など、ハリウッドの大作でも自分の作風を変えずに完成させた。本作は、ウー監督がハリウッドで撮りたいことをやり尽くしたのではと感じる。2人の戦いの結末がどうなったかは、ぜひ本編を観てほしいです。
—————————————————————————————–
Written by 鈴木 純一(すずき・じゅんいち)
映画を心の糧にして生きている男。『バタリアン』や『ターミネーター』などホラーやアクションが好きだが、『ローマの休日』も好き。
—————————————————————————————–
戦え!シネマッハ!!!!
ある時は予告編を一刀両断。またある時は悪役を熱く語る。大胆な切り口に注目せよ!
バックナンバーはこちら