誰が許されざる者なのか ジーン・ハックマン in 『許されざる者』
【最近の私】9月公開予定の『エイリアン:ロムルス』の予告編を観ました。監督があの『ドント・ブリーズ』のフェデ・アルバレスなので、きっと怖い話になっているはずです。
『許されざる者』(1992年)は、クリント・イーストウッドが製作・監督・主演を務めた作品で、この年のアカデミー賞では、作品賞、監督賞、助演男優賞(ジーン・ハックマン)、編集賞を獲得している。本作は数々の西部劇に出演してきたイーストウッドが「最後の西部劇」としてメガフォンを取った。今回はこの作品でジーン・ハックマンが演じた保安官を紹介したい。
物語の舞台はワイオミング州にある小さな町ビッグウイスキー。この町で、カウボーイと娼婦の間で事件が起きる。カウボーイ2人が娼婦の態度に腹を立て、ナイフで彼女の顔を切ってしまう。カウボーイたちは保安官リトル・ビル(ジーン・ハックマン)に突き出されるが、ビルは2人に馬7頭を娼婦の雇い主に渡すことで、事件を終わらせてしまう。この結果に納得できない娼婦たちは、1000ドルの賞金をカウボーイの首にかける。
一方、カンザスの田舎で、マニー(クリント・イーストウッド)が娘と息子と暮らしていた。マニーはかつて列車強盗や殺人で悪名が高かったが、妻に先立たれ、今は農業を営んでいる。貧しい生活を送っていたマニーは、ビッグウイスキーで起こった事件の話を知る。マニーは賞金目当てで、旧友ローガン(モーガン・フリーマン)を誘い、一緒にカウボーイのいる町を目指す。
『許されざる者』でマニーと対立するのは、保安官ビルだ。ビルは自分の町を守るために、無法者や見知らぬ者には容赦しない。賞金稼ぎが町に来ても、銃を取り上げ、抵抗すれば立てなくなるまで叩きのめす。正義の名のもとで、暴力を楽しんでいる面も見られる。だが、ビルは暴力だけの男ではない。普段は気のいい性格で、人にも好かれる。休日には自分の家を建てているという、穏やかな面も持っている。映画では詳しく語られないが、西部の時代には、暴力で平和を収める必要があったのではないか。ビルを見るとそう感じる。マニーとビル、この2人の持つ二面性が、本作のテーマ「善人が必ずしも善人ではなく、悪い人間がそれほど悪くはない」であり、観る者に向けられたメッセージだと思われる。
ビルを演じたジーン・ハックマンは1930年生まれで、30歳すぎから俳優を志すようになる。『俺たちに明日はない』(1967年)でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされ、37歳で注目を浴びる。1971年に『フレンチ・コネクション』で麻薬組織を壊滅しようとする刑事を演じ、アカデミー賞主演男優賞を獲得する。以降は主演、脇役を問わず幅広い作品に出演している。
物語が進むにつれて、マニーは銃を手に取り、犯罪者として恐れられていた過去の自分に戻っていく。過去を消し去ろうとしても、本当に消すことができるのか。そして、ビルは、平和を守るために、暴力をふるうという自身をさらけ出していく。この映画は観客に問う。忘れたい過去がない人間はいないのか。そして、他人から理解できない欠点を持ちながら、それでも自分のルールに沿って生きていく人間はどこにでもいるのでないか。「孤独な正義のヒーローVS悪徳保安官」という単純な構図を避けた点が、この映画の大きなポイントだと思う。観るたびに、誰が許されざる者なのかと問われる作品である。
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Written by 鈴木 純一(すずき・じゅんいち)
映画を心の糧にして生きている男。『バタリアン』や『ターミネーター』などホラーやアクションが好きだが、『ローマの休日』も好き。
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戦え!シネマッハ!!!!
ある時は予告編を一刀両断。またある時は悪役を熱く語る。大胆な切り口に注目せよ!
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