事件の犯人は大統領 ジーン・ハックマンin『目撃』
【最近の私】
映画に登場する悪役は、必ずしも犯罪者とは限らない。刑事や医者など、本来なら人の安全を守る、命を救うべき人物が、犯罪に手を染める物語もある。今回は、『目撃』(1997年)でジーン・ハックマンが演じたアメリカ大統領を紹介したい。
本作の主人公はベテランの泥棒ルーサー(クリント・イーストウッド)。ある夜、ルーサーは大統領と親しい富豪サリバン(E・G・マーシャル)の豪邸に忍び込む。ルーサーが現金や貴金属を物色している時、誰かが帰宅してくる。それはサリバンの妻クリスティーと、もう1人は大統領アラン(ジーン・ハックマン)だった。2人はサリバンの目を盗み、逢瀬を重ねる関係だったのだ。とっさに隠れるルーサー。だが、酒に酔った勢いでアランはクリスティーに暴力をふるい始める。怒ったクリスティーは、ナイフでアランの腕を刺す。そこで別室にいたシークレットサービスがクリスティーを殺し屋と思い射殺してしまう。愛人の死に動揺するアラン。だが大統領補佐官のグローリア(ジュディ・デイヴィス)は、事件を隠ぺいしようとする。この一部始終を「目撃」してしまったルーサーは、凶器のナイフと、クリスティーのネックレスを手に、現場から立ち去る。
今まで数々の犯罪に手を染めてきたルーサーだが、今回は大統領の殺人事件に巻き込まれてしまう。ルーサーは国外に逃亡しようとするが、空港のテレビで大統領アランの記者会見を見る。会見では、アランがサリバンを「私の父親のようなもの。今回の事件の犯人を捕まえてみる」とスピーチする。それを聞いたルーサーは「こんなやつからは逃げない」と大統領に戦いを挑む。
ルーサーは泥棒だが、美術館に通って、絵画の模写を趣味としている。今までに何度か刑務所に入っており、1人娘で検察官のケイト(ローラ・リニー)は犯罪者の父親を嫌っている。親子の仲は疎遠になっているが、ルーサーは娘の人生を遠くから見守っている。ルーサーは犯罪者だが、完全な悪人ではない。一方、国のリーダーであるべき大統領のアランは友人の妻と不倫し、暴力をふるって命を奪ってしまった。主人公が完全な善人ではなく、善人であるべき人間が悪事を働くという構図は、イーストウッド監督作『許されざる者』(1992年)(本ブログ誰が許されざる者なのか ジーン・ハックマン in 『許されざる者』https://www.jvta.net/co/cinemach-gene-hackman/)にも通じるものがある。
ルーサーは大統領補佐官にクリスティーのネックレスを送り付け、大統領アランに「俺はすべて知っている」と動揺させる。だが、大統領もルーサーの存在をつきとめ、シークレットサービスのティム(デニス・ヘイスバード)に、娘のケイトの暗殺を命じる。父親が知っていることは、娘も知っているかもしれないと疑う大統領は、ティムに「愛国心をみせるんだ」と無茶な命令を下す。そしてティムは娘を殺害するために計画を実行する。ティムを演じたデニス・ヘイスバードは、TVドラマ『24 -TWENTY FOUR-』(2001~2006年)でアメリカ大統領に扮していた。大統領のシークレットサービスを演じた俳優が、その後に大統領を演じるというのも、面白い偶然だ。
ジーン・ハックマンは先述の『許されざる者』で悪役を演じ、その年のアカデミー賞助演男優賞を受賞している。本作でも再びイーストウッドと組み、暴力性を秘めた大統領という役を見事に演じている。さらに大統領補佐官のジュディ・デイヴィスも、事件を隠すためにはルーサーの命を取ることも辞さない非情さを見せている。ベテラン俳優たちの共演も本作のポイントだ。カーチェイスや銃撃戦など、派手なアクションはないが、面白いサスペンス映画が見たいと思っている人にはおすすめの1本である。
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Written by 鈴木 純一(すずき・じゅんいち)
映画を心の糧にして生きている男。『バタリアン』や『ターミネーター』などホラーやアクションが好きだが、『ローマの休日』も好き。
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戦え!シネマッハ!!!!
ある時は予告編を一刀両断。またある時は悪役を熱く語る。大胆な切り口に注目せよ!
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