人狩りが趣味の富豪 ランス・ヘンリクセンin 『ハード・ターゲット』
【最近の私】ミシェル・ヨーとキー・ホイ・クァンがアカデミー賞を受賞しました。80年代から2人の映画を観ていたファンとしては、とてもうれしいです。
今年のアカデミー賞は『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』でミシェル・ヨーとキー・ホイ・クァンが主演女優賞と助演男優賞を獲得した。現在ではアジア系の俳優や監督がハリウッドで活躍しているが、90年代にはまだそれほど多くはなかった。今回はその90年代に、香港のジョン・ウー監督がハリウッドで撮った『ハード・ターゲット』(1993年)に登場した悪役を紹介したい。
本作の舞台はニューオリンズ。弁護士ナターシャ(ヤンシー・バトラー)が行方不明になった父親を捜していた。ナターシャは地元の警察に捜索願いを依頼するが、警察がストを起こしていて、あてにできない。街中でチンピラに襲われたナターシャは、武術を使う男チャンス(ジャン=クロード・ヴァン・ダム)に救われる。ナターシャはチャンスを用心棒として、父親を捜すことに。
やがて、ナターシャの父親が焼死体で発見される。しかも彼は生前ホームレスとして暮らしていた。父親の死体を見たチャンスは、彼の死は殺人ではと疑いを持つ。なぜ父親は殺されることになったのか。
2人の捜査が進む中で、フランス人の富豪エミール(ランス・ヘンリクセン)率いる組織が上流階級者を客として人狩りをしていると突き止める。エミールは警察がストで機能していない間に、ホームレスを標的にして、人を狩るビジネスを行っていたのだ。やがてエミールたちの手はチャンスたちにも伸びる。果たして2人はナターシャの父親の敵を打つことができるのか…。
エミールが異様なのは、富豪として何不自由していないが、人間狩りをビジネスとしている点だ。しかも標的となるホームレスは元警察官や軍人である。一般人より、軍人の方がサバイバルに長けているので、狩りをするにはもってこいだと考えている。ホームレスに大金を見せ、そして狩る。貧富の格差を利用する卑劣な悪党だ。しかも本人も銃を持って狩りに参加し、殺人に迷う参加者がいれば、その者を殺害するという残虐な男である。
エミールを演じたランス・ヘンリクセンは、1940年にアメリカで生まれた。海軍に所属していたが、俳優の道を目指すことになる。『ターミネーター』(1984年)でヘンリクセンは刑事に扮しており、もともとは殺人サイボーグのターミネーターを演じる予定だったが、アーノルドシュワルツェネッガーに交代する。『ターミネーター』のジェームズ・キャメロン監督が『エイリアン2』(1986年)でヘンリクセンをサイボーグ役として起用したのは有名な話だ。
『エイリアン2』で注目を浴びて、ヘンリクセンは数多くの映画に出演することになる。その独特の風貌から、『ニア・ダーク/月夜の出来事』(1987年)では吸血鬼を演じるなど、人間ではない役や悪役として現在も映画やドラマで活躍している。『ハード・ターゲット』でも非情なキャラクターを演じているが、フランス人に見えないのが難点か。アメリカ人という設定でもいいのではと思うが、アメリカで狩りをする異邦人というキャラクターもまた魅力的なのかもしれない。
本作では、ジョン・ウーが香港映画で描いてきた激しい銃撃戦と危険なスタント、派手な爆発(そしてウー監督のトレードマークの白い鳩も登場)をアメリカでも認めさせる快作となった。以降、ウー監督がハリウッドで活躍するきっかけとなる、この作品でランス・ヘンリクセンは、強烈な悪役として印象を残している。またいつか、彼にはウー監督作に登場してほしいです。
—————————————————————————————–
Written by 鈴木 純一(すずき・じゅんいち)
映画を心の糧にして生きている男。『バタリアン』や『ターミネーター』などホラーやアクションが好きだが、『ローマの休日』も好き。
—————————————————————————————–
戦え!シネマッハ!!!!
ある時は予告編を一刀両断。またある時は悪役を熱く語る。大胆な切り口に注目せよ!
バックナンバーはこちら
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
◆【2025年1月 英日映像翻訳 日曜集中クラス開講!】
ご興味をお持ちの方は「リモート・オープンスクール」または「リモート説明会」へ!
入学をご検討中の方を対象に、リモートでカリキュラムや入学手続きをご説明します。