美食の殺人鬼 マッツ・ミケルセン in 『ハンニバル』
【最近の私】秋に日本公開の『悪魔と夜ふかし』。予告編を観ると、心霊番組が恐ろしいことになりそうで楽しみです。
トマス・ハリス原作の小説を映画化した『羊たちの沈黙』(1991年)は、猟奇的な犯罪を描きながら高い評価を得て、その年のアカデミー賞作品賞、監督賞、脚色賞、主演女優賞を獲得。そして殺人犯ハンニバル・レクターを演じたアンソニー・ホプキンスが主演男優賞を受賞した。その後、続編『ハンニバル』(2001年)が制作され、『ハンニバル・ライジング』(2007年)ではギャスパー・ウリエルが若きハンニバルに扮していた。今回はTVドラマシリーズ『ハンニバル』(2013年~2015年)でマッツ・ミケルセンが演じたハンニバルを紹介したい。
若い女性が犠牲になる連続殺人事件が発生し、特別捜査官ウィル・グレアム(ヒュー・ダンシー)が担当することになる。ウィルは殺人犯の精神を見ることができる才能を持っているが、同時にその能力に悩まされていた。FBIで働く優秀な精神科医ハンニバル・レクター(マッツ・ミケルセン)は、ウィルのセラピストとして、彼の精神状態を診ている。レクターは犯行現場に立ち合い、ウィルの捜査に協力しながら、殺人犯の本性を少しずつ見せていく…。
ドラマでは毎回、猟奇殺人事件が起きるのだが、どの事件もかなりグロテスクである。例えば、複数の死体を組み立てたトーテムポールとか、死体を縦に輪切りにして標本のようにするなど…ホラー映画顔負けのゴア描写があるので、残酷な場面が苦手な方には注意が必要です。さらにレクターが美食家で、自分で豪華な食事を作って、客人にふるまう場面もあるのだが、実はその料理の材料は人間の…という、かなり禁断の展開があります。
殺人犯であり精神科医のレクターが警察に助言をしながら事件を解決する。ドラマ版は『羊たちの沈黙』の前日譚となっている。つまり周りの人物たちはレクターが稀代の殺人鬼であるという正体をまだ知らない。その点が新機軸である。
ホプキンス主演の映画ハンニバル・シリーズは『レッド・ドラゴン』(2002年)⇒『羊たちの沈黙』⇒『ハンニバル』(映画版)となっており、ドラマ版は『レッド・ドラゴン』が下敷きとなっている。映画版『ハンニバル』に登場したキャラクターもドラマ版に再び出るなど、ドラマ版はシリーズ総集編の趣きがある。
マッツ・ミケルセンが分するレクターは、科学や芸術などに深い知識を持つ文化人、前述した料理の腕前、知性とエレガントなふるまいなど、スキのない紳士だ。しかし魂の奥には連続殺人鬼という闇が潜んでいる。そんな明と暗を持ち合わせる複雑なキャラクターを、ミケルセンは見事に演じており、アカデミー賞を受賞したアンソニー・ホプキンスに負けない魅力を放っている。
ミケルセンはデンマーク出身で、『プッシャー』(1996年)に出演し、母国で俳優のキャリアをスタートする。2006年のジェームズ・ボンド映画『007/カジノ・ロワイヤル』で悪役ル・シッフルを演じて世界的に注目を浴びる。その後は『誰がため』(2008年)や『ドクター・ストレンジ』(2016年)など、デンマークやハリウッドと国を超えた活躍を見せている。
ドラマ版は当初シーズン7まで制作される予定だったが、シーズン3で終了となっている。シーズン3は『レッド・ドラゴン』の事件が取り上げられていたので、次シーズンはいよいよ『羊たちの沈黙』かと思っていたので、続きが見られないのは残念である。色々な事情があるらしいのだが、マッツ・ミケルセンのレクター好きとしては、いつか新シーズンが見られる日を待っています!
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Written by 鈴木 純一(すずき・じゅんいち)
映画を心の糧にして生きている男。『バタリアン』や『ターミネーター』などホラーやアクションが好きだが、『ローマの休日』も好き。
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戦え!シネマッハ!!!!
ある時は予告編を一刀両断。またある時は悪役を熱く語る。大胆な切り口に注目せよ!
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