少林寺の名を汚した男、シー・キエン in 『燃えよドラゴン』
【最近の私】『ハドソン川の奇跡】を観ました。あの奇跡の裏にあった物語に驚きました。
当コラム『シネマッハ!!!!』の表紙絵のブルース・リーは、恥ずかしながら自分が描いたものである。好きなブルース・リーを描き、もしよければこの絵をタイトルバックにとアカデミーに持っていったら、採用されたという次第である。今回はそのブルース・リーが主演した作品の中から、『燃えよドラゴン』でシー・キエンが演じた悪役ハンを紹介したい。
少林寺拳法の達人リー(ブルース・リー)は、政府の情報局から、ハン(シー・キエン)が3年に一度開催する格闘技トーナメントに出場するよう要請を受ける。ハンはかつて少林寺で拳法を学んでいたが破門となり、今はとある島を所有して覚せい剤を密造している疑いがあるからだ。「銃があればすぐ済むだろ」とリーは言うが、ハンは銃で殺されかけた過去があり、それ以降、島には銃の持ち込みができない。さらに島へはトーナメント参加者以外は上陸できないという。銃の使用を封印することで、話を格闘技のみにする。うまい設定である。
映画の中盤でハンの自宅にある展示室が登場するシーンがある。ギロチンなどの世界の拷問道具と一緒に“鉄のツメ”などの義手も展示されているのだが、そこには人間の左手の骨もあった。ハンには左手がなく、義手を使用しているのだが、これはハン自身の骨なのかもしれない。ハンが銃で死にそうになった時、左腕を銃で撃たれて義手になったのではと考えることもできる。
トーナメントに参加しながらリーが島を調べるうちに、麻薬を精製し、女性をドラッグ漬けにして海外に売り飛ばす、ハンの悪事が明らかになる。秘密基地に忍び込んだリーは、“上半身裸”でハンの手下たちと戦う。リーが鍛え抜かれた上半身を露わにして戦う場面は、文句なしにかっこいいのである。だが、ブルース・リーが強すぎて、悪の手下はまったく歯が立たない。リーが「アチョー!」と拳や蹴り技を繰り出し、ヌンチャクを振れば、手下がバタバタと倒される。ちなみに当時、無名だったジャッキー・チェンが手下の1人を演じており、リーに首を折られて死ぬという悲惨な役どころだった。
最後は、ハンとリーの対決になる。ハンは左手に鉄のツメの義手を着けて、リーに立ち向かう。だが、リーの強さに圧倒され、ある部屋に逃げ込む。そこは鏡が張り巡らされた部屋だった。本作の見どころの1つは、このクライマックスの鏡の間での戦いだろう。このシーンでの撮影には約8000枚の鏡が使用されたという。リーは鏡に反射する何人ものハンの姿に翻弄され、攻撃を受ける。そこでリーは、映画の冒頭で師匠の言葉「本当の敵は人間の生み出した幻想だ。その幻想を打ち砕けば、敵の姿が見える」を思い出す。リーは壁の鏡を拳で砕いていく。鏡を壊すことで、本物のハンがどこにいるかを見破るためだ。リーとハンの戦いの結果は…。何枚もの鏡に無数に映るリーとハンの姿が幻想的な雰囲気を出している。また武術は肉体的な強さだけではなく、追いつめられた時の精神力の強さも重要だと諭し、映画を観た者に今でも強い印象を残したシーンだと思います。
シー・キエンは幼少時から様々な武術を習得しており、数多くの映画に出演しているベテラン俳優である。『燃えよドラゴン』出演時は60歳近い年齢もあり、リーの動きと比べると見劣りしてしまうが、リーの要望で共演が実現した。身体能力ではリーに劣るが、長い俳優歴で培った演技力と貫禄で、少林寺の名を汚した悪役を演じている。『燃えよドラゴン』は公開後、世界中でドラゴンブームに火を付けた。この作品で、“鉄のツメ”を観客の記憶に残したシー・キエンの存在は大きい。
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Written by 鈴木 純一(すずき・じゅんいち)
映画を心の糧にして生きている男。『バタリアン』や『ターミネーター』などホラーやアクションが好きだが、『ローマの休日』も好き。
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戦え!シネマッハ!!!!
ある時は予告編を一刀両断。またある時は悪役を熱く語る。大胆な切り口に注目せよ!