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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第54回 “THE ORVILLE”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第54回 “THE ORVILLE”
    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

    “Viewer Discretion Advised!”
    これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
    Written by Shuichiro Dobashi 

    第54回“THE ORVILLE”
    “Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
     

    “Sci-Fi parodrama”って何だ?
    本作を「“Star Trek”のパロディ」、「SFコメディ」なんて書き流している記事やブログを信用してはいけない。
    “THE ORVILLE”は『テッド』を生んだ才人セス・マクファーレンが放つ、画期的な“Sci-Fi parodrama”(筆者の造語:SFパロディドラマ)。“Star Trek”を観ていなくても存分に楽しめるのだ!

     
    ついでに惑星連合の職位・役職の英語も覚えてしまおう。(本作および“Star Trek”シリーズの職位は基本的に米国海軍に準じている。役職は小文字表記。)

     
    “To boldly go where no one has gone before…with my ex-wife!”
    ―西暦2418年の地球
    エド・マーサー(セス・マクファーレン)は惑星連合士官学校を首席で卒業し、現在は気鋭の大佐(“Captain”)として将来を嘱望されている。エドはワーカホリックで、妻のケリー(エイドリアンヌ・パリッキ)と一緒に過ごす時間が取れない。

     
    ある日エドが予定より早く帰宅すると、ケリーは青い異星人と浮気をしていた。

     
    ―1年後
    エドはケリーと離婚したあと荒れた生活を送り、出世コースから外れていた。だが一発逆転のチャンスが訪れる。人手不足に悩むハルジー提督(“Admiral”)が、エドを中型探査艦オーヴィルの艦長(“commanding officer”)に任命したのだ!

     
    子供のころからの夢がかなったエドは感激し、新たな任務にすべてを捧げる決意をする。エドは親友のゴードン(スコット・グライムズ)を操舵手(“helmsman”)に抜擢した。ゴードンは超一流の操舵技術を持つ大尉(“Lieutenant”)だが、チャラ男ぶりが災いしてデスクワークに甘んじていた。
    あとは提督が、空席となっている副長(“first officer”)を指名してくれればクルーはすべて揃う。

     
    数日後、副長が決まった。ケリー・グレイソン中佐(“Commander”)、エドの元妻だ!
    エドの抵抗もむなしく、ケリーはオーヴィルに着任した。

     
    エドの新艦長としての初任務は、最新鋭の研究所がある惑星エプシロン2に供給物資を運ぶ簡単な仕事…のはずだった。
    おりしも研究所のグループは極秘で「時間加速機」を完成したばかり。この技術を虎視眈々と狙っていた戦闘種族クリルが、奇襲攻撃をかけてきた。クリルによって時間加速機が軍事転用されれば大変なことになる!

     
    孤立無援、戦力的にも圧倒的に不利な状況下で、エドとケリーは(元)夫婦喧嘩を始める。そのとき、起死回生のアイディアを思いついたのはケリーだった!

     
    才人セス・マクファーレン、エンジン全開!
    エド役のセス・マクファーレンは、アニメの老舗ハンナ・バーベラ(懐かしいね)のイラストレーターとしてキャリアをスタート、スタンダップコメディアンを経て、過激アニメ“Family Guy”で8キャラ(!)の声を演じ分けてブレークした。
    彼の名を不動のものにしたのはメガヒット・コメディ『テッド』(2012)で、製作、監督、主演(テッドの声)、脚本をつとめた。マクファーレンはグラミー賞に3度ノミネートされたジャズ・シンガーでもあり、ハリウッド屈指のマルチタレントだ。
    本作でも主演に加えて製作総指揮、共同監督&脚本をこなし、才人ぶりをいかんなく発揮している。

     
    ケリー役のエイドリアンヌ・パリッキは「一見気が強そうで嫌な女」を演じると絶品で、青春ドラマの傑作“Friday Night Lights”で頭角を現した。マーベルの“Agents of S.H.I.E.L.D.”では準主役のボビー役でタフなアクションをこなし、人気を決定づけた。

     
    コミカルな地球人パイロットのゴードン・マロイを演じたスコット・グライムズは、“ER”のアーチー・モリス医師が代表作。シンガーでもある。

     
    医療主任(“chief medical officer”)のクレア・フィン少佐(“Lieutenant Commander”)を演じたベニー・ジョンソン・ジェラルドは、“24”の大統領夫人シェリー・パーマー役で日本でも顔なじみだ。

     
    モクラン人のボータス少佐を演じたのは、舞台俳優のピーター・メイコン。モクラン人は男だけの単一性種族で、卵を産むと自分で温めて孵化させる。ポータスにはクライデンという名のパートナーがいる。

     
    他にも、警備主任(“chief of security”)で小柄だが強靭なセレア人女性アララ・キタン大尉、高いIQを隠してお気楽に生きる地球人航海士(“navigator”)のジョン・ラマー大尉、ケイロン星出身のアンドロイドのアイザック、スライム状エンジニアのヤフィットなど、楽しいクルーたちが登場する。

     
    こんなパロディ観たことない!
    SFパロディというと、『フレッシュゴードンSPACE WARS』(1974:ソフトポルノ)、『アタック・オブ・ザ・キラー・トマト』(1978:超低予算カルト映画)、『スペースボール』(1987)、『ギャラクシー・クエスト』(1999)、『宇宙人ポール』(2011)などの映画が頭に浮かぶ。ほとんどが全編スラップスティックのナンセンス系だ。

     
    “THE ORVILLE”が画期的なのは、ストーリーからコメディ部分を取り除くと、ほぼ“Star Trek”(本格SFドラマ)として成立してしまう点なのだ。つまりパロディ形式は単なるプラットフォーム。各エピソードは真面目に作られていて、脚本・演技・特撮のレベルも高い。そこへ笑いがピンポイントで落とし込まれるので、コメディとしての質も上がる。

     
    いかにも“Star Trek”っぽい勇壮なテーマソングも嬉しい。CMを増やすために数秒で終わらせる昨今の悪しき風潮に逆らって、フルバージョンで提供される。

     
    オーヴィルがエンタープライズのようなギャラクシー級の旗艦ではなく、中型探査艦という設定もユニーク。“Star Trek”とは一味違う、スピード感のある『スター・ウォーズ』的な戦闘シーンが展開される。

     
    ゲストも贅沢で、シーズン1ではロブ・ロウ(青い異星人!)、リーアム・ニーソン、シャーリーズ・セロンが登場する。

     
    “Trekkie”(“Star Trek”の狂信的ファン)で“Sci-Fi nerd”を自認するマクファーレンは、ドキュメンタリー『コスモス:時空と宇宙』(2014)を制作するほどの宇宙好き。昔から“Star Trek”と“The Twilight Zone”をモチーフにしたドラマを作りたかったという。
    本作で描かれるのは、シリーズ最高作“Star Trek: The Next Generation”(“TNG”)のテイストに近い「希望あるSF」だ。
    (因みに、“Ted”のナレーターは“TNG”のピカード艦長ことパトリック・スチュアート。)

     
    彩り豊かなエピソードは、「マンハッタンくらいある巨大宇宙船」 「すべてがオンライン投票で決まる地球に酷似した惑星」 「2次元の世界」などウィットに富んでいて、ワクワクさせる。
    圧巻なのは、モクラン人のポータスとクライデンに突然変異で女の子が生まれるエピソードだ。赤ん坊に対する強制的な性転換手術に反対するエドたちは、モクラン星の法廷に乗り込んで彼女の人権を争う!

     
    “THE ORVILLE”はパロディなのに本格SF、特撮もストーリーも一級品、セス・マクファーレンが放つ、渾身の“Sci-Fi parodrama”。こんなパロディ観たことない!

     
    本作は『宇宙探査艦オーヴィル』の邦題で、FOXスポーツ&エンターテインメントが昨年シーズン1(全12話)を放映した。米国では現在シーズン2を放映していて、日本での放送が待ち遠しい。

     
    【“Star Trek”ファンへ朗報】
    昨年、『自叙伝 ジャン=リュック・ピカード』(“The Autobiography of Jean-Luc Picard”, 2017)が竹書房から翻訳出版された。ピカード艦長の波乱の生涯が描かれる“TNG”ファンにとっては垂涎・必携の一冊で、筆者も一気読みした。著者のデイヴィッド・A・グッドマンは“THE ORVILLE”の製作総指揮の一人だ。

     
    また、タイトルは未定ながら2つの新シリーズの製作が決まっている(ひとつはパトリック・スチュアート主演!)。“Star Trek Universe”は今も進化・拡張し続けているのだ!

     
    <今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」㉝
    Title: “Everybody Needs A Best Friend”
    Artist: Norah Jones
    Movie: “Ted” (2012)

    歌詞を担当したのもセス・マクファーレン。

     
    写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
     
     

     
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