やさしいHawai’i第60回【特別編】 『大統領選挙から見えたハワイ島の変化』
【最近の私】先日、JVTA20周年記念の集まりにうかがいました。私は映像翻訳からは離れてしまい、このブログだけの繋がりですが、久しぶりでスタッフの方々にお会いし、本当に楽しい時を過ごさせていただきました。また、私のネームタグをご覧になって「あ、ハワイの・・・」と言ってくださる方に何人かお会いして、正直とってもうれしかったです!ありがとうございました。励みになりました。
いよいよ11月8日が近づいてきた。
他国のことだが、日本にも大きな影響を与えかねないアメリカの大統領選挙。今回は候補者が“超個性的”ということもあり、いつも以上に世界中から注目を集めている。そこで「オバマ大統領の出身地であるハワイの大統領選の状況を原稿にしてほしい」というJVTAからの依頼で、この原稿を書くこととなった。
全米で538人いる選挙人のうち、ハワイに割り当てられた選挙人(※1)は4人。大統領選の行方を左右するとは言えるほどの数ではないだろう。しかし、ハワイの人々にとって選挙結果は、生活を一変させる可能性がある大きな関心事だ。
ハワイは歴史的に民主党が強い州だ。過去12回の大統領選挙のうち民主党が10回勝利を収めている(共和党が勝ったのは、ニクソンとレーガンが大統領になった2回)。いまアメリカで最も影響力のあるインターネット新聞であるThe Huffington Postの10/24付けの調査によると、両候補者のハワイ州での10月24日現在の支持率はヒラリー・クリントン氏(民主党)の57.5%に対して、ドナルド・トランプ氏(共和党)は29.3%。今回もどうやら民主党がリードしているようだ。
日本では現職の大統領、バラク・オバマ氏がハワイ生まれということはよく知られている。ケニア出身の父と米本土出身の母がハワイ大学での留学中に出会い、結婚。そしてオバマ氏が誕生した。しかし、両親共にハワイの出身ではないため、少なくともハワイ島のヒロの日系人の間ではあまり話題に上らない。ハワイの日系人の間で話題に上る政治家と言えば、何といっても「ハワイの英雄」と称される日系のダニエル・イノウエ氏だ。1963年から50年間という長きにわたって上院議員を務め、アメリカ合衆国上院仮議長も務めた民主党の重鎮の一人だった(2013年逝去)。かつてはサドルロードと呼ばれ、ツーリストは運転不可とされるほど危険な道だったヒロからコナサイドへ向かう道路が、今では立派に舗装され、“ダニエル・イノウエ・ハイウェイ”と名付けられていることからも(正式にはハワイ州道200号線)、彼がどれだけハワイの人々に親しまれていたかが分かる。私も前回ハワイに行った際に、このハイウェイを走ったが、実に気持ちのいいドライブだった。ダニエル・イノウエ氏についてはいつか別の機会にまとめたいと思っている。
話を本題に戻そう。私が親しくしている友人たちの多くはヒロに住んでいるのだが、彼らにとりあえずこんな質問メールを出してみた。
「今回の選挙でどちらの候補者に大統領になってほしいか? 2人の候補者についてどう思うか?」
ある日系の友人からの答えは実に明快だった。
「少なくとも、トランプには大統領になってほしくない。私たちが苦労して払っているフェデラルタックスを彼は20年近くも払っていないし(※2)、傲慢で、人に対し尊敬の念がない。“Me, Myself and I”というタイプの人よ」
さらにほかの友人にも連絡し、意見を求めたが、思いの外、本音を語ってくれる人がいない。
先の日系の友人とは、私がヨコヤマさんを知ったころからの40年以上の長い付き合いだし、私が土地の人間ではないことから、気さくに正直なところを語ってくれた。電話で大統領選の話をしていると、いつの間にか「最近はヒロの町が大分様変わりしてきている」という話になった。かつてはヒロのダウンタウンには日系の2世、3世がしょっちゅう集まるようなコーヒーショップがあり、そこでは毎朝、井戸端会議が行われ、政治の話も気楽に語られていたという。ところが、昨今はそんな井戸端会議のような光景は見られないどころか、本土や海外から多くの人が引っ越してきているためか、隣近所の人の顔もよく分からず、ほとんど挨拶もないという。こうしたある意味で都会的な変化は、外だけでなく家の中でも起きており、親子の間でさえも政治の話はしないという雰囲気だそうだ。
ネットの影響だろう、昨今、世の中は当たらず障らずの傾向が強くなってきている。SNSでは本音ベースの厳しい意見を吐けるが、生の人間を前にするとトラブルの原因になりかねないと、表面的な会話になる。もちろん、一般的なアメリカ人にとって「宗教と政治の話は公の場ではしない」「家庭内であっても自分の政治ポリシーは語らない」というのはあるかもしれない。そういう意味ではこれはヒロだけに限らない先進国的な傾向かもしれないが、人のぬくもりを感じた昔のヒロの町を知っている者としては、“寂しい”の一言だ。結局、友人との電話も「Those were good old days.」(昔は良かったね)という会話で終わった。
きっかけは大統領選挙に関する意見を聞くことだったが、ことは思わぬ方向に向かってしまった。今回の原稿は、私の心に一抹の寂しさを残した。
※1 米大統領選は、一般の有権者がいずれかの大統領候補と副大統領候補に投票するかを誓約している「大統領選挙人」を選び、その選挙人が候補者に投票する間接選挙となっている。各州には人口に応じて選挙人の数が割り振られており、大半の州では一般投票で1位になった候補がその州の選挙人を「総取り」する。選挙人の数は全米で538人おり、過半数270以上を得た候補が大統領に当選することとなる。
※2 トランプ氏が最大18年間に亘って連邦所得税を支払っていない可能性があるという。
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)の報道のこと。トランプ氏は通常、大統領候補が公開する確定申告書の提出を「当局の監査中」を理由に公開していない。クリントン氏は第1回のテレビ討論で「連邦税を払っていないことを国民に知られたくないためだろう」と批判していた。
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Written by 扇原篤子(おぎはら・あつこ)
1973年から夫の仕事の都合でハワイに転勤。現地で暮らすうちにある一家と家族のような付き合いが始まる。帰国後もその 一家との交流は続いており、ハワイの文化、歴史、言葉の美しさ、踊り、空気感に至るまで、ハワイに対する考察を日々深めている。
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やさしいHAWAI’I
70年代前半、夫の転勤でハワイへ。現地での生活を中心に“第二の故郷”を語りつくす。