やさしいHAWAI‘I 第68回 生物の進化 東京とハワイ
【最近の私】ハワイとの付き合いも、すでに45年近くなる。親しくしていただいた日系二世の方々はすでに高齢で、ヨコヤマ一族の最後の二世の方も、先日亡くなられた。貴重な日系二世の証言、ドキュメンタリーを制作なさっている松元裕之監督の『Go for Broke! ハワイ日系二世の記憶』の上映会を2019年4月15日(月)19時~21時半JVTAにて行います。ご興味のある方はぜひお越しください。
※詳細はこのページの下部にリンクがあります。
先日NHKBS1プレミアムで『東京ロストワールド -秘島探検の全記録ー』を観た。
植物、動物、昆虫の進化に関わるさまざまな科学者とNHK調査隊が小笠原諸島の島々に上陸し、豊かな生態系とその進化の状況を5年にわたり研究調査してきた。番組ではその結果を詳しく紹介している。もちろん生態系を乱すことは許されないから、持ち物は可能な限り新品を、そして尿、便などの人間の排泄物は当然持ち帰る。新しい西之島や南硫黄島には、いまだ人間の影響は及んでいない。しかしこの島固有の生物、すでに進化を始めている生物などの発見、厳しい現況に立ち向かう科学者たちの素晴らしい根性、そして生物の進化の面白さに強く惹きつけられた。特にこれらが火山島であるという点で、ハワイに繋がるところが多々あり、大変興味深かった。
<番組では下記の場所を紹介していた>
【西之島】父島の西方約130キロにある西之島の南東沖に、新たな火山の噴火が始まり、溶岩流により既存の西之島と一体化した。2018年7月に再噴火し、現在も島は少しずつ成長を続けている。
※海上保安庁撮影 公式サイトより
【南硫黄島】およそ3万年前に誕生し、父島と比べると若い島のため、生態系形成の初期段階を調査するのに適切な環境を持つ。周囲は7.5キロ、標高は916メートル。平均斜度45度で、上陸するには大変困難な島だ。
※海上保安庁撮影 公式サイトより
【父島】東京の南方およそ1000キロにあり、人口はおよそ2000人。小笠原諸島は平成23年に世界自然遺産に登録された。
【そうふ岩】東京の南およそ660キロの海中に忽然と現れる黒色のカンラン石単斜輝石玄武岩からなる岩。この岩の南西2.6キロには火口があり、かつては火山としての活動があった。
※海上保安庁撮影 公式サイトより
ハワイは、もっとも近いアメリカ大陸西岸部からでさえおよそ4000キロメートル離れた位置にある、太平洋の孤島であり、これまで大陸と地続きになったことはない。(『ハワイ・ブック』近藤純夫著 P183 「カリフォルニア沿岸からでさえ4000キロメートルも離れた島、それはハワイ諸島だったのだ。」)当初は完全な固有種だけが棲息していたが、ハワイの先住民がさまざまな外来の物を運びこみ、またキャプテンクックのハワイ諸島発見による大きな時代の流れで、帰化植物が急激に増えた。
その中でオヒアは、ハワイ全島のおよそ20%という、もっとも広い地域に分布するハワイ固有の樹木だ。まるで立ち枯れしたようなゴツゴツと荒い木肌に、美しい刷毛のような真っ赤な花が咲く(中には、オレンジ色、クリーム色、黄色などもあるそうだが、私は真っ赤な花が一番好きだ)。そのゴツゴツした幹(オヒアと呼ぶ)と美しい真っ赤な花(レフアと呼ぶ)のアンバランスが多くの物語を作り出す。何ゆえに幹と花に別々の名がつけられているのか。それはまたの機会に紹介したい。
ハワイ諸島が噴火し溶岩が流れた直後、まだ生物が何も生存していないときに真っ先に根付くのは、まるでカビが生えたように見える地衣類やコケ類、シダ類だ。その次に、溶岩の割れ目から芽を出すのがこの、オヒアの木。溶岩など何の栄養もなさそうに見えるが、実は植物が成長するために必要なミネラルがたっぷり含まれている。もともとオヒアは陽樹といって、日光を好む樹だ。溶岩が流れ周囲に日光を遮るものが全くない環境は、オヒアにとって絶好の場所だ。風で飛ばされてきたオヒアの種は、溶岩の割れ目に留まり、そこから樹液を出してわずかな土壌を捕まえ、しっかりと根を下ろす。
おもしろいのは、このオヒアの木が環境によって、さまざまに姿を変えることだ。
オヒアは日光を好むので、最初は背の高い樹木に成長し、時には樹高10メートルもの森林を形成する。その葉は薄く大きく滑らかだ。しかし樹が混んできて日差しが当たらなくなると、新たなオヒアの芽は成長できず、寿命が来ると枯死し森は消滅する。その後日差しが戻ると、再びオヒアの森は復活する。また湿原地帯では、栄養素が不足しているためにオヒアの樹高は50センチにも満たなくて、その葉は小さく厚く、裏側には毛が密生している。
オヒアは大変生命力の強い樹木ではあるが、ここ数年ROD(Rapid Ohia Death)が大きな問題となっている。オヒアの木に病原菌(真菌)が付き、多くのオヒアが立ち枯れているのだ。その範囲はどんどん広がり、いったん菌がオヒアに付くとたちまち枯れてしまう。全島の20%に棲息するハワイ固有のオヒア。それが枯れてしまうと、オヒアに依存している様々な鳥類、例えばアパパネと呼ばれるアカハワイミツスイなどの鳥は、オヒアの赤い花の蜜を好むため、大きな影響を受けざるを得ない。現在ハワイではこの菌の感染の拡大を防ぐために、さまざまな方法が研究模索されている。
大好きなこのオヒアの木。何とかRODが収まってくれるように心から願わずにはいられない。
※画像出展 Webサイトanuhea「ハワイの花・植物・野鳥図鑑」より
◆『Go for Broke! ハワイ日系二世の記憶』特別上映会&監督トークショー
詳細とお申込みはこちら
https://goforbrokehawaii-jvta.peatix.com/
—————————————————————————————–
Written by 扇原篤子(おぎはら・あつこ)
1973年から夫の仕事の都合でハワイに転勤。現地で暮らすうちにある一家と家族のような付き合いが始まる。帰国後もその 一家との交流は続いており、ハワイの文化、歴史、言葉の美しさ、踊り、空気感に至るまで、ハワイに対する考察を日々深めている。
—————————————————————————————–
やさしいHAWAI’I
70年代前半、夫の転勤でハワイへ。現地での生活を中心に“第二の故郷”を語りつくす。
バックナンバーはこちら
https://www.jvta.net/blog/5724/