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海外の映画が日本へ届く道のりを知る 知られざる映画ビジネスの裏側

海外の映画が日本へ届く道のりを知る 知られざる映画ビジネスの裏側

日本映像翻訳アカデミー(JVTA)の「JVTAリモートセミナーシリーズ Winter 2023 ~ もっと知りたい!メディア翻訳の世界~」では、ロサンゼルスからの特別ゲストを迎えたセミナーを開催。「『ラ・ラ・ランド』の敏腕バイヤーに学ぶ!買い付けから配給までの映画ビジネスの仕組み」と題して、海外の映画が日本で公開されるまでの舞台裏に迫った。

登壇者の附田斉子さんは日本の大手配給会社で洋画のバイヤーを務め、現在は映像コンサルティング会社を運営する映画のプロフェッショナルだ。セミナーでは附田さんに買い付けから配給までの流れ、日本ならではのマーケティングや宣伝方法、公開前の映像データの管理に関する現状まで幅広く解説していただいた。

◆知っトクポイント◆映画の「権利」とは?どこでどのように買うのか?

進行役 ゲイラー世羅(以下、「ゲイラー」):まず、映画の権利にはどんな種類があるのでしょうか。 
登壇者 附田斉子(以下、「附田」):映画の権利というものは、「ある映画を、あるテリトリーで何年間公開する権利を持つ」ということです。例えば私の場合は日本がテリトリーなので、作品を買って字幕をつけたとして、日本以外に持っていって公開することはできません。日本の権利しか買っていないからです。また「何年」ということで、一生その映画の権利を持てるわけではありません。
権利の種類は劇場公開の権利、ビデオの権利、最近強くなっているストリーミングの権利、テレビの権利などがあります。映画の権利の範囲も広がっていて、昔は権利として存在していなかったストリーミングが、今やメインになっていますね。権利も時代や技術の進歩によって変わっています。

ゲイラー:ありがとうございます。では、映画はどこでどのように買うのでしょうか。
附田:映画を買うのは、世界中の大きな映画祭が多いです。例えば1月にサンダンス映画祭、2月にベルリン国際映画祭、少し小さいものですが3月に香港フィルマートがあります。そして5月にはカンヌ国際映画祭、夏にベネチア国際映画祭、9月にトロント国際映画祭、イタリアのローマ国際映画祭がありますね。11月にはアメリカのサンタモニカでアメリカン・フィルム・マーケットがあります。映画祭というものは、普通の観客もチケットを買えば映画を見ることができる映画の祭典です。しかし、「マーケット」というものは、バイヤーやセラーなど、登録したビジネスにかかわる人しか参加できません。カンヌ国際映画祭やベルリン国際映画祭には、このマーケットが併設されています。つまり私たちが「映画祭に行く」というのは、「マーケットに行く」ということになります。そのマーケットで、セラーとバイヤーが丁々発止の交渉を行うのです。

ゲイラー:映画を買うと言っても、色々なプロセスがありいろいろな人が関わっていますね。

附田:アメリカン・フィルム・マーケットは、マーケットのみのイベントです。このマーケットでは近くのホテルにセラーが集まり、そこにバイヤーが出向いて交渉やミーティングを行います。またサンタモニカのシネコンでの映画上映もあり、そこで作品を見ることもあります。

ゲイラー:私もアメリカン・フィルム・マーケットに行かせていただいたことがありますが、セラーとバイヤーの真剣勝負という印象を受けました。



映画の権利を買い付けた後には、字幕をつけたり吹き替えを作ったり、日本向けの宣伝を行ったりと様々なプロセスが発生する。附田さんが語るその一つ一つは、普段は聞くことのできない、まさに「映画ビジネスの裏側」だった。日本ではおなじみの「映画の前売り券」が日本や台湾くらいでしか見られないこと、チラシやパンフレットも日本独特の宣伝方法であるというお話にも、参加者は非常に興味を抱いた様子だった。

終了後の参加者アンケートでは「普段、知ることができない映画配給の仕事の流れや、映画バイヤーの方の貴重なお話を聞くことができて楽しかった」「バイヤーや宣伝の方が苦労して映画を日本に輸入し宣伝しているお話を聞き、翻訳者としてその苦労を無駄にしてはいけないと思った」などの感想が届いた。翻訳者として映画や映像に関わっている、もしくは将来映画に関わる仕事をしたいと思っている参加者にとって、本セミナーはとても刺激になったようだ。


◆映像翻訳を学ぶ方や、語学力を生かして仕事をしたい方に向けて、附田さんからメッセージをいただきました!
セミナーの中でもお伝えしたのですが、「英語を話せる=英語で仕事をする人として優秀」とは限りません。ぜひそのことを肝に銘じていただきたいと思います。例えば英語の発音に自信がなくても、間違いのない、明確な英語で頑張ればいいのです。英語力がネイティブスピーカー並みだったとしても、企業で十分に英語を使って仕事ができるかというと、そうではない例もたくさんあります。「英語ができる」ということと「英語で仕事ができる」ということは別の話なのです。

大切なことは、必要な分野をしっかりと学ぶことです。映像翻訳であれば非常に多くのルールがあるということですので、そういうことをきちんと学ぶ。映画の解説をしたければ、映画をきちんと見る。映画の買い付けをしたいのであれば、買い付けもチームワークなので、自分の意見をきちんと通せるような交渉力や熱意を伝えられるコミュニケーション力を身につける。英語力以外の様々なスキルが必要です。「英語ができる」ことは基礎なのです。語学力だけでなく、しっかりしたビジネス感覚を養ってください。そして目標に適した勉強をして、謙虚に、いろいろな経験を積んでほしいと思います。


1本の映画が日本で公開されるまでの道のりには、大勢の人間が関わっている。そして映像翻訳者もその一部だ。本セミナーは、自分ひとりで翻訳作業をしていると忘れがちになってしまうこの事実を、改めて再認識するきっかけとなっただろう。映画が様々なプロセスを経てようやく日本にやってくることを知り、参加者たちの映画愛と映像翻訳へのモチベーションはさらに高まったに違いない。


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