人気沸騰のあの作品の裏側に迫る! ~製作秘話編~
2月24日に発表されるアカデミー賞で、作品賞や主演男優賞など5部門にノミネートされている『ボヘミアン・ラプソディ』。日本でも昨年11月の公開から興行収入が100億円を超える大ヒットとなり、劇場での応援上映なども盛り上がっています。JVTAロサンゼルス校では、講師と留学生の皆さんが現地の特別上映イベントに参加。関係者から貴重な裏話を聞いています。今回は、サウンドの録音や撮影時の秘話、フレディ・マーキュリー役の主演俳優ラミ・マレックから聞いたいい話など、とっておきの情報をお届けします。映画を観た人もこれから観る人も注目です!
◆ サウンドについて
※主要キャストが勢ぞろい。左から、ラミ・マレック、ルーシー・ボイントン、グウィリム・リー、ベン・ハーディ、ジョセフ・マッゼロ
コンサートやレコーディングのシーン、そしてクライマックスのライブ・エイドと、臨場感迫る圧倒的なサウンドで観客を魅了するこの作品は、アカデミー賞録音賞と音響編集賞にもノミネートされています。中でも、録音賞候補のポール・マッシーは、今回で8度目のノミネーションというスゴイ人なのです。
※サウンド・ミキサーのポール・マッシーとJVTAロサンゼルス校留学生、松木倫代さん。ポールは、『ボヘミアン・ラプソディ』で8回目のオスカー候補に。
映画は、ロック風にアレンジされた20世紀フォックスのファンファーレで始まるので、いきなり盛り上がった人も多いと思います。これは、クイーンのギタリスト、ブライアン・メイの提案で実現し、ブライアンとドラムのロジャー・テイラーがこの映画のためにアレンジ・演奏をしたものです。ファンファーレは、なんとブライアンが64本のギターを使って録音したそうです。「これはブライアンにとって、とても大切なパッション・プロジェクトで、彼やロジャーがミキシングに立ち会って、合計20時間以上かけて完成させたんだ」とポールが話してくれました。あのファンファーレと、それに続くフレディの“Hey, hey, hey, hey, hey!”から映画が始まるので、一気に気持ちが高揚します!
映画の中のフレディ・マーキュリーの歌声は、98%はフレディ本人のもので、あとの2%は、ラミの声と、クイーンの公式トリビュート・バンド、クイーン・エクストラヴァガンザのボーカル、マーク・マーテルの声を使っているそうです。ブライアンは、ライブやスタジオ録音も含めて、クイーン初期からの膨大な量の録音アーカイブを持っているので、現存しているフレディの声をベースにして、足りない部分などにラミとマークの声を使い、ミキシングしたそうです。
※フレディ・マーキュリー役でオスカー候補になっているラミ・マレックとJVTAロサンゼルス校留学生、柏原 佑己子さん。ラミはとても優しかったです!
ライブ・エイドのシーンの撮影では、コンサート・レベルの音量でクイーンのライブ演奏を流し、その音に合わせてラミは本当に歌っていたそうです。そのラミの歌声もすべて録音し、必要な箇所でフレディの声とミックスしています。
※ブライアン・メイ役のグウィリム・リー
映画館で観る人が自分たちもライブ・エイドに参加していると感じられるように、サウンドにスタジアムのスケールや奥行き、ライブ感が出るように工夫が施されています。「昨年クイーンのコンサートがロンドンで開催された時に、クイーンの協力を得て、観客がいない2万人級のスタジアムのあちこちに合計22本のマイクを設置し、ライブ・エイドのクイーンの演奏をスピーカーで大音量で流して録音したんだ」とポールが語ります。
※ロジャー・テイラー役のベン・ハーディ
ただ、この映画のワールド・プレミアが、ライブ・エイドが開催されたウェンブリー・スタジアム(現在あるスタジアムは、ライブ・エイド当時のものを取り壊して同じ場所に建て替えたもの)で行われることになり、広い会場でこのサウンドの奥行きがあると逆に音がおかしくなることから、プレミアのためだけに、急きょサウンドのスケールや奥行きを取ってリミックスしたという苦労話をしてくれました。
同じく録音賞候補になっているジョン・カサーリは、映画の中で、クイーンが楽曲「ボヘミアン・ラプソディ」をレコーディングしている現場のプロセスを出すために、クイーンの膨大なアーカイブの中から実際の制作時の録音を探し出し、フレディやロジャーの歌声のアウトテイクなども見つけて利用したと説明してくれました。ブライアンのギター・ソロ録音場面には、新たにブライアンが、レコードに採用されたおなじみのサウンドとは違う、アウトテイク用の演奏をしてくれたものを使ったそうです。
※ジョン・ディーコン役のジョセフ・マッゼロ
ラミは、こうしたアーカイブが役作りにとても役立ったと語っていました。たとえば、アーカイブの中には、フレディとブライアンがNews of the Worldツアーで、”We Will Rock You”を、コンサートの最初に入れるか最後に入れるかで議論をしている録音も残っていたそう。「この曲を最後に入れたら、もうコンサート中、ずっとrockし続けた後なのに、今さら”We will”と言うのはおかしいじゃないか」などという、リアルなやり取りにバンド・メンバーの兄弟のような関係を実感したと言っていました。
今回、音響編集賞でオスカー候補になっているニーナ・ハートストンとジョン・ウォーハーストは、ライブ・エイドのシーンで出てくる観客の歌声について教えてくれました。
群衆の歌声は、セカンド・ユニットの撮影で、観客役600人に、最初にクイーンの演奏を聴かせ、次に音楽なしで反復して歌ってもらう形で収録。フレディがよくコンサートで、最初に自分が歌って、次に観客にマイクを向けて反復して歌ってもらうような要領で撮ったそうです。観客のクロースアップは、観客役40人に歌ってもらい、彼らの声が聞こえるように撮ったとのことでした。
※Bohemian Rhapsody: Put Me In Bohemian!(クイーンのオフィシャルサイトより)
もう一つは、「Put Me in Bohemian!」キャンペーンです。SNSで一般に呼びかけ、携帯アプリでBohemian Rhapsodyを歌って録音してもらい、この歌声を重ねて編集して使用。(実は、筆者も、昨年5月に呼びかけがあった時、少し歌を練習してから録音しようと思っているうちに、タイミングを逃してしまい、とても残念でした…。ジョンとニーナからは、「練習なんてしないで、そのまま録音してくれてよかったのにー!」と言われました。)ジョンに聞いたところ、ものすごい数の歌声が集まり、そのすべてを映画に使ったそうです。
こんな苦労のおかげで、ライブ・エイドのシーンは、とても迫力があり、映画館の観客もライブ・エイドに参加しているような感覚になるのですね。
◆ 撮影や編集について
主要撮影の初日は、いきなり、クライマックスのライブ・エイドのシーンと聞いてびっくり! 撮影にはブライアンもロジャーも来ていて、キャストは緊張したそうです。
※撮影監督のニュートン・トーマス(”トム”)・サイジェルとJVTAロサンゼルス校留学生、松木倫代さん。トムは、この作品で英国アカデミー賞候補に。
撮影監督のニュートン・トーマス(”トム”)・サイジェルは、ライブ・エイドのシーンについて、「当時テレビで放映された映像を再現しても意味がないから、この映画に合うやり方で撮影したんだよ」と教えてくれました。ラミやキャストの希望で、クイーンの21分のパフォーマンスを通しで撮影したテイクもあります。ラミは、「1日目はボヘミアン・ラプソディ、翌日はRADIO GA GA、と撮影し、曲の途中からまた撮影することもあったんだけど、ライブ・エイドのあのエネルギーは最初から最後まで通しでやらないと出せないと思ったんだ。だから(プロデューサーの)グレアムに頼んで、やらせてもらったんだ」と振り返ります。今週アメリカで発売になったDVD/Blu-rayには、ラミたちが演じるクイーンによるライブ・エイドのパフォーマンスの完全版が収録されています。
クイーンのマネージャー、ジム・ビーチのオフィスでフレディがほかのメンバーを待っているシーンでは、コーヒーテーブルの上に置かれたサングラスにナーバスな動きをしているフレディが鮮明に映っていますが、「これは合成なのか?」とトムに尋ねたところ、合成などはせずに、「フレディの姿がきれいに映るようにサングラスを置いて撮影したんだよ。結構大変だったけどね」とにっこり笑って答えてくれました。
※エディターのジョン・オットマン。この作品でオスカー候補に。
アカデミー賞で編集賞候補になっているジョン・オットマンは、 楽曲「ボヘミアン・ラプソディ」のレコーディングのシーンにとても思い入れがあると語りました。「クイーンを演じる俳優たちのケミストリーがとてもよく、自然なアドリブもリアルですばらしかった。脚本から外れると編集作業は悪夢になるんだけどね」と笑います。「このシーンは長いから、きっと短くしろと言われるだろうなと予想していたんだ。そうなったら、すべてが台無しになってしまう」と当時の心境を語りました。幸い、テスト・スクリーニングでとても評判がよく、「1フレームも変えなくて済んだ」と誇らしげに笑っていました。ちなみに「ボヘミアン・ラプソディ」の録音シーンで、クイーン役の4人が高音部分を録音しているときに、パーティションごと4人とも倒れる場面は、アドリブというか偶然のものだったとか。ジョンは、オープニング・シーンのライブ・エイド会場で、放送局の中継車に入っていくテレビ・ディレクター役でカメオ出演しています。
◆ ヘア&メイクアップについて
※ヘア&メイクアップ・デザイナーのジャン・スウェル。『リリーのすべて』や『博士と彼女のセオリー』を手がけたアーティスト。英国アカデミー賞で7回候補になり、1回受賞。
撮影開始時、ラミの髪は、『MR. ROBOT / ミスター・ロボット』の役柄のために、両サイドの髪を刈り上げたスタイルで、長さが足りなかったため、ライブ・エイドのシーンの短髪スタイルにも、かつらを使用しています。フレディの特徴的な前歯は、義歯で再現。撮影の1年ほど前にラミは義歯を作ってくれるように依頼し、早い段階からこの義歯に慣れるようにしたそうです。鼻には特殊メイクを施し、プロステティックの鼻を付けていたとのこと。
※ラミ・マレック(フレディ役)、ルーシー・ボイントン(メアリー役)
「きょうの出来事なんだけどね…有名人の名前を出すのも気が引けるけど」とラミが遠慮がちに話し始め、「フレディと親しかったロッド・スチュワートから、フレディが前歯を気にして隠そうとする口の動きは、本人そのものだった、と言われたんだ」とうれしそうにしていました。ラミは、フレディ役をしたことで、ロック界の大御所たちにかわいがられているようです。ロンドンでポール・マッカートニーのコンサートに行った時には、リンゴ・スターとローリング・ストーンズのロン・ウッド、ザ・フーのロジャー・ダルトリーなどに囲まれて楽しんだ後に、バックステージに招かれて、ポールから一緒に写真を撮ろう!と言ってもらったり、ミック・ジャガーやマドンナから映画を観たと言ってもらったり、フレディ待遇を受けているそうです。
◆ 『ボヘミアン・ラプソディ』と『ウェインズ・ワールド』
『ボヘミアン・ラプソディ』に登場するレコード会社のエグゼクティブ、レイ・フォスターは、架空の人物で、いろいろな人を合わせた象徴的なキャラクター。これをマイク・マイヤーズが演じていて、アメリカでは、レイ・フォスターが出てくるシーンで笑いが起こります。若い世代の方々から、なぜここが面白いのか分からないと質問があったので、背景をご紹介します。
レコード会社や批評家から酷評された楽曲「ボヘミアン・ラプソディ」は、1975年のリリース後、アメリカのビルボード・チャートでは、1976年に最高9位にランクしてヒット。1992年には、マイク・マイヤーズの主演映画『ウェインズ・ワールド』で、主人公たちが車の中でこの曲をかけ、ノリノリで歌い、激しく首振りをしたシーンがウケて、再度ビルボード・チャート入りし、最高2位にランク。アメリカで2度目のヒットの立役者ともいえるマイク演じるレイが、映画『ボヘミアン・ラプソディ』では、この曲にとても否定的でクイーンに向かって、これは若者がヘッドバンギングするような曲じゃない、と言うので、背景を知っている人は爆笑するわけです。『ウェインズ・ワールド』の製作当時、マイク自身が、プロデューサーから、このシーンには別のロック・バンドの曲を使うように指示されていたところを、「“ボヘミアン・ラプソディ”でなければ、映画自体をやらない」とまで言って説得し死守したというエピソードもあるほど思い入れのある曲なのです。
『ウェインズ・ワールド』の「ボヘミアン・ラプソディ」のシーン
なんと、クイーンのオフィシャルYouTubeチャンネルにアップされています。(実際の映画のこのシーンはもっと長いです。)
ラミたちが演じるクイーンが、ヘッドバンギングする映像をグウィリム・リー(ブライアン役)が紹介しています。
https://www.instagram.com/p/Bpr_pqrBrFR/
当時マイクは、『ウェインズ・ワールド』のこのシーンのビデオをブライアンに送り、ブライアンが病床のフレディに見せたところ、ユーモアのセンスが似ている、と大笑いして喜んだそうです。『ウェインズ・ワールド』公開時には、フレディはすでに亡くなっていましたが、楽曲「ボヘミアン・ラプソディ」は、この年、大ヒットし、MTVビデオ・ミュージック・アワードでBEST VIDEO FROM A FILM賞を受賞。授賞式にはブライアンとロジャーが出席し、ブライアンは受賞スピーチで、フレディも喜んでいるでしょうと言い、映画の主人公ウェインとガース、そして監督に、この曲を映画に入れてもらって感謝します、と述べました。
◆ ラミ、最後のQ&A
※ラミ・マレック
ラミは、先日、映画スタジオで行われたQ&Aセッションをもって、映画賞投票者向けのプロモーションを終え、『MR. ROBOT / ミスター・ロボット』のファイナル・シーズンの撮影に入るということでした。そんな特別なイベントに参加できてよかったとロサンゼルス校留学生は大喜び! 最後のQ&Aの最後の質問で、映画の公開前からこれまで、プレミアやプロモーションで世界を回った中で、一番感銘を受けて心に残っていることは何かと聞かれたラミ。「1つは、この映画に共感した人たちが、自分自身をもっとよく理解できるようになったとか、自由を感じられるようになったと言ってくれること。これはすばらしいことだと思う」と静かに答えました。「もう1つは、この映画のプロモーションで東京に行ったときのこと。グウィリムとジョゼフ(ジョン・ディーコン役のジョセフ・マッゼロ)と一緒に公開初日のシングアロング(応援上映)にサプライズで登場しようと劇場に出向き、映画のラスト20分くらいの、ちょうどライブ・エイドのシーンから後ろで見ていたら、日本の観客が、全曲を一語一句歌っていたんだ。映画の後にQ&Aをしたんだけれど、ほとんどの人は通訳が必要だった。でも、“ボヘミアン・ラプソディ”には通訳なんていらなかったんだよ」と、フレディやクイーンが言葉を超えて世界で愛されていることに心を打たれた様子でした。こうして最後のQ&Aは日本の話題で幕を閉じました。
◆ネタバレにならないトリビア
映画を観た人から聞かれる質問の中で、ストーリーのネタバレにならないものにいくつかお答えします。
オープニング・シーンのライブ・エイドの会場で、メディアからインタビューを受けているスーツの男性とその横にいる帽子をかぶった男性は、テレビ・カメラにさえぎられてよく見えないですが、それぞれデヴィッド・ボウイとエルトン・ジョンです(本人の映像ではなく俳優が演じています)。後半でクイーンがいよいよステージに向かうときにもバックステージにいます。2人ともフレディと親しかったですね。
ライブ・エイドのステージに上がっていくフレディとすれ違いに、ステージ裏から下りてくるグループは、U2です。(本人の映像ではなく、俳優が演じています。)クイーンの直前に演奏したバンドはダイアー・ストレイツで(クイーンがトレーラーで出番待ちをしているあたりで彼らの演奏が聞こえます)、その前に演奏したのがU2でした。
オープニング・シーンで、中継車に設置されているモニターに、チャールズ皇太子とダイアナ妃が、ライブ・エイドの発起人ボブ・ゲルドフにエスコートされてロイヤル・ボックスに入ってくる様子(当時の実際の映像)が見えます。その彼らの後ろには本物のブライアンやロジャーが映っています。また、画面の右側にはジョージ・マイケルや帽子をかぶったエルトン・ジョンも見えますね。ブライアンの左のほうには一瞬だけデヴィッド・ボウイが映ります(ロジャーのすぐ右は、映画ではよく見えませんが、当時の写真を見ると、クイーンのマネージャーのジム・ビーチですね)。
劇中「I Was Born to Love You」はどこに入っていたかとよく聞かれます。フレディがミュンヘンでソロ・アルバムの準備をしているとき、ピアノで作曲しているのがこの曲です。ポール・プレンターがメアリー・オースティンと電話で話している背景でフレディが少しだけ弾いています。
トリビアやイースター・エッグは、まだまだたくさんありますので、みなさんも探してみてください!
◆ クイーン・ファンにおまけ
クイーンのツアーにボーカルとして参加しているアダム・ランバート(『ボヘミアン・ラプソディ』にもカメオ出演しています)に、人気トークショー・ホストがクイーンのボーカルの座をかけて挑戦し、2人でフロントマン・バトルをする映像です。ブライアンとロジャーが演奏しています!
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【関連記事】『ボヘミアン・ラプソディ』の撮影秘話が続々! ~留学生イベントレポート編~
https://www.jvta.net/la/bohemian-rhapsody/
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