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UNHCRからJVTAへメッセージ「日本語字幕は難民映画祭の重要な柱です」

UNHCRからJVTAへメッセージ「日本語字幕は難民映画祭の重要な柱です」

JVTAは毎年、UNHCR難民映画祭を字幕でサポートしています。
この映画祭は、国連難民高等弁務官(UNHCR)駐日事務所とUNHCRの日本での公式支援窓口である国連UNHCR協会が共催し、難民問題をより多くの人に広く知ってもらうことを目的に行っているもの。難民の人々にフォーカスした映画だけを集めて上映しており、今年で13回目を迎えます。JVTAはその趣旨に賛同し、第3回から字幕制作でサポートしており、毎年多くの修了生がボランティアとして協力。今年も約30名が参加しています。
1.UNHCR RFF2018_Main visual

JVTAで翻訳チームが一堂に会したキックオフ勉強会に、映画祭主催の皆さんをお招きし、難民の現状や過去の映画祭での反響、翻訳者へのメッセージなどについてお話を伺いました。

 
山崎玲子さん 守屋由紀さん
UNHCR 駐日事務所 広報官 守屋由紀さん(右)
国際UNHCR協会 ファンドレイジンググループマネージャー 山崎玲子さん(左)


 
◆世界の難民の数は日本の人口の約半数

 
JVTA まず、難民という定義を教えてください。

 
守屋由紀さん 難民の定義は国際条約に定められていて、紛争や迫害、激しい人権侵害によって命を脅かされている人たちです。彼らは国籍や信仰する宗教、国によっては女性が学校に行く、社会参加するだけでも差別を受けます。LGBTIというだけで投獄されたり、死刑になったりする人もいます。このような理由のもとに家を追われ、町を出て国境を越えて、他国で庇護を求める人たちを難民といいます。また、国境を越えなくても自分の国の中で逃げまどっている国内避難民もいます。

 
シリア難民の様子©UNHCRAndrew McConnell - コピー
※シリア難民の様子©UNHCRAndrew McConnell

 
JVTA 現在、世界にはどのくらいの数の難民がいるのでしょうか?

 
守屋由紀さん 2017年末時点で移動を強いられた難民、国内避難民と庇護申請者の数は6850万人。これは日本の人口の約半分という大きな数字です。現在、5年連続で増え続けていて、状況は悪化しています。

 
重点地域_©UNHCR - コピー
※支援の重点地域 ©UNHCR

 
現在、UNHCRが重点的に支援している地域は、シリアとその周辺国。アフリカでは南スーダン、ケニア、コンゴあたりで大きな紛争が続いており、アジアではロヒンギャの問題が発生しています。

 

◆シリアもかつてはイラクの庇護国だった

 
JVTA 現在は紛争により、多くの難民が出ているシリアも、かつては庇護国だったと伺って驚きました。

 
守屋由紀さん シリアは数年前までイラクから10万人以上の難民を受け入れていました。シリア出身でリオ五輪に難民選手団として出場したユスラ・マルディニさんもほんの数年前まで故郷シリアでごく普通の10代の女の子として青春を謳歌していたんです。しかし、内部の紛争により、すべてが奪われました。難民になるということは突然誰にも起こりうることなのです。彼女自身、「え? 私が難民? なんで?」という気持ちだったそうです。彼女は2015年にトルコからギリシャのレスボス島に向けてボートで避難中にエンジン故障のため漂流。その際、彼女と同じ競泳選手のお姉さんと2人でボートを引っ張りながら泳ぎ、20名の命を救いました。しかし、同じように逃げてきても、たどり着けずに命を落としてしまう人たちも数多くいます。

 
Switzerland. 10 refugees will compete at the 2016 Olympics in Rio
※リオの五輪難民選手団 © UNHCR

 
JVTA シリアが舞台となった『アレッポ 最後の男たち』がアンコール上映されるそうですね。

 
山崎玲子さん これは、2017年の難民映画祭の上映作品の中で最も反響が大きかった作品です。シリアの紛争で犠牲となっている一般市民を救う「ホワイト・ヘルメット」の活躍を描いたドキュメンタリーで、今年、アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされました。凄惨なシーンも多いのですが、戦時下で奮闘する人たちの姿をぜひ見てほしいですね。

 
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※『アレッポ 最後の男たち』 ©Aleppo Media Center

 
◆「世界難民の日」、渋谷に難民テントが出現

 
JVTA 6月20日の「世界難民の日」に先立ち、今年は渋谷で初めての試みが行われたそうですね。

 
山崎玲子さん 6月16日(土)に渋谷のハチ公前広場に難民キャンプに設営している最新型のテントを設置しました。5人用の大きさなので実際に中に入って避難生活を類似体験したり、難民キャンプを写したパネルの展示を見たり、ユニクロの「全商品リサイクル活動」で回収した衣類のその先を知ったりできるという企画です。これまでは、主にシンポジウムなどを行ってきましたが、今年はより幅広く、これまで難民問題に関心がなかった人たちにアピールしたいという思いから、新たな取り組みを始めました。

 
0620世界難民の日イベント@渋谷_©国連UNHCR協会 - コピー
※世界難民の日 渋谷イベントの様子 ©国連UNHCR協会

 
JVTA 当日はどんな様子でしたか?

 
守屋由紀さん 教育のためにとお子様連れのお母さん、お父さんが来てくれたほか、テント内の様子を体験しようと常に列ができるほどの人気でした。当日は9月に行われる国連総会への署名を集めるキャンペーンもしていたのですが、若い方が積極的に参加してくれて驚きました。お名前とメールアドレスを頂くのですが、1日で400名以上のご協力を得られました。実はバラエティ番組などでも難民問題を取り上げてもらっており、『世界一受けたい授業』(日本テレビ系)ではクイズ形式で紹介していただきました。今後も身近なところから、より幅広い人たちにアピールしていきたいですね。
世界一受けたい授業_©UNHCR
※『世界一受けたい授業』に国連難民高等弁務官(UNHCR)駐日代表 ダーク・ヘベカー氏が出演 ©UNHCR

 
JVTA 今年は企業や団体のパートナーズの募集も始まったそうですね。

 
山崎玲子さん 2015年から「学校パートナーズ」をスタートし、難民映画の上映イベントを主催してくださる学校の募集を始めました。昨年は25校まで拡大しており、大学などで上映会が行われています。今年はさらにその枠を企業や団体にも広げました。各企業は、上映会の開催の他にも、その企業ならでは支援の形を模索しています。そんな中で、JVTAさんが字幕で協力してくださっているというお話はその理想形であり、各企業の方々はとても共感してくださっています。今後は、本祭以外でも皆さんが字幕を付けてくださった作品を観ていただける機会が増えると思います。

 
◆日本語字幕付きで観るのは伝わり方が全く違う

 
JVTA 今年の映画祭のテーマは「観る、という支援」。まずは映画を通して多くの人に難民の現状について知ってもらうことが大切ですね。翻訳者も「この現状を伝えなければならない」という強い使命感を持って臨んでいます。


 
守屋由紀さん 翻訳者の皆さんの真剣なお顔を拝見しました。ありがとうございます。映画祭にとって字幕の力は本当に大きいです。私たちが会議室で英語字幕だけで見た時に比べ、日本語字幕付きで見るのは伝わり方が全く違います。あの言葉の力って何でしょう! 英語や多言語で聞いて「なんとなくこうかな」と思っていたことが「やっぱりそうだったんだ」ときちんと答えが出てくるんですね。「そういうことか、なるほど」という驚きがどの作品にも必ずあります。来場者のアンケートにも「『心までは奪われなかった』という発言が凄い」と言葉に関するお声を頂きました。字幕があることでメッセージがすっと入ってくるんですね。「字幕も映画のクオリティも高いのになぜ無料なのか」という声もあります。以前、私も上映会場で来日した監督に翻訳者さんをご紹介する機会があったのですが、監督がものすごく感激されていて…。私もおつなぎできたことが本当に嬉しかったですね。

 
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※JVTAで行われた翻訳者勉強会の様子

 
JVTA ありがとうございます。JVTAの修了生の中にはライフワークのように何度もこの映画祭の字幕制作に取り組んでいる翻訳者がいます。凄惨なシーンや理不尽な迫害の場面に泣きながら翻訳したという声もよく聞きます。

 
山崎玲子さん 私たちは映像と言葉の力に想いを託しています。JVTAの修了生の皆さんにご協力いただいている字幕はものすごく重要な柱です。翻訳者の皆さんが私たちと同じ責任感とコミットメントを持って取り組むという思いに感謝しています。私たちは、映画を観ることが、多くの人の心を揺さぶったり、動かしたりすることにつながっていると強く感じています。昨年は本祭の来場者が7200名、学校パートナーズが3204名で、合計10404名と初めて1万人を突破しました。アンケート結果によると来場者の9割の方たちが満足しており、何かを持ち帰ってくれています。そのためになくてはならない「字幕」というご支援に、改めてお礼をお伝えしたいですね。

 
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※過去の映画祭会場の様子

 
JVTA ありがとうございます。難民映画祭の上映作品はドキュメンタリーが多く、さらに多言語ですから、翻訳者は調べものが大変です。事実確認はもちろんのこと、多言語の場合、名前や地名のカタカナ表記なども悩みの種。有名人なら表記の定訳がありますが、一般の人の場合、こういう表記が意外と難しいのです。何か調べものに役立つサイトがあれば教えてください。

 
守屋由紀さん UNHCRのWebサイトでは、難民の出身国情報を、国別に英語で発信しています。日本語にも訳されていますので、翻訳にもぜひ活用していただきたいですね。どこの州のどの町でこんなことがあったというような事実確認などにも有効だと思います。

 
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※過去の上映会場も展示より

 
Refworld(英語)
http://www.refworld.org/cgi-bin/texis/vtx/rwmain

 
難民保護・無国籍関連資料(日本語)
http://www.unhcr.org/jp/protection_material

 ◆今年の共通テーマは「尊厳」

 
JVTA 翻訳者は要チェックですね。最後に、今年の映画祭の上映作品について教えてください。

 
山崎玲子さん 今年の作品の共通テーマ、メッセージは「尊厳」だと思います。人が尊厳を持って生きていくとはどういうことなのか。それがどの作品にもコアなところにあります。

 
A. Soufra
『ソフラ ~夢をキッチンカーにのせて~』© Lisa Madison 

 
昨今、紛争の最中を描いている作品よりも、新しい国で難民の人たちが、新たな生活を始めるというものが割と多いと感じています。レバノンに暮らすパレスチナ難民の女性が料理で起業する姿を追った『ソフラ ~夢をキッチンカーにのせて~』は、難民の映画を見たことがない方にもおすすめです。

 
C. I am Rohingya_A Genocide in Four Acts
『アイ・アム・ロヒンギャ』©Innerspeak Media

 
最近報道でもよく取り上げられているロヒンギャ難民に関する作品もあります。2017年の8月に起きた衝突以降、新たに数か月で70万人というすごい数の人が住む場所を追われています。『アイ・アム・ロヒンギャ』はカナダへ逃れたロヒンギャ難民が、自分たちのトラウマを演劇で表現することで世の中に訴え、自らも癒やされていくドキュメンタリーです。人はトラウマを誰かに話せるようになるには長い時間がかかりますが、それを克服していく力強さを感じます。

 
JVTA 今年も映画を観ることでそれぞれの支援の形を考えていきたいと思います。ありがとうございました。

 
◆UNHCR難民映画祭2018 公式サイト
http://unhcr.refugeefilm.org/2018/