修了生7名が字幕を担当 UNHCR難民映画祭上映作品『アレッポ 最後の男たち』が劇場公開!
内戦が続くシリアの都市アレッポで撮影されたドキュメンタリー映画『アレッポ 最後の男たち』が4月13日(土)から劇場公開されます。この作品は2017年のUNHCR難民映画祭で上映され、JVTAの修了生7名が日本語字幕を手がけました(※JVTAは同映画祭の趣旨に賛同し、毎年字幕翻訳で協力)。チームで字幕制作を担当したのは、下記の皆さんです。
バゼミニエクス睦子さん
日下淑子さん
土肥英津子さん
大本仁美さん
増渕裕子さん
シェパードソンゆかりさん
先崎 進さん(現在はディレクターとしてMTCに所属)
爆撃を受けた瓦礫の中で救助活動を続ける民間救助隊の姿を追った同作は、第90回アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされたほか、世界中で23の映画賞受賞。その好評を受け、2018年のUNHCR難民映画祭でもアンコール上映された話題作です。翻訳者はどんな想いでこの翻訳に取り組み、視聴者に何を伝えようとしたのか…。翻訳チームで副リーダーを務めた大本仁美さんとチーム翻訳者の土肥英津子さんにお話を聞きました。
●大本 仁美さん
◆この作品のみどころ
絶望の中にかすかな希望。
希望を見いだした後にまた絶望。
シリアのアレッポ。爆撃があるたびに現場に向かい、救助活動を行うホワイト・ヘルメット(民間防衛隊)。常に死と隣り合わせの過酷な状況ですが、救助活動をしていないときは、皆で歌ったり、ボール遊びをしたり、喧嘩する姿も…。そこには友人や兄弟、親子のつながりがあり、ただ生まれた場所が違っただけで私たちと何も変わりません。
映像は、ただそこで起きていることを映しています。目の前に突きつけられる厳しい現実は彼らの日常なのです。
◆翻訳時に苦労、工夫したこと
7 人でチーム翻訳を行い、それぞれ作業できる時間帯もバラバラでしたが、分担し協力して訳を作りあげていきました。
本当に納品の直前まで、自分の担当以外のパートについても妥協せず訳文を出し合ったのを思い出します。
台本のないドキュメンタリーなので、監督が編集で入れたシーンには何か意味があり、訳出すべきワードが入っているはずです。ワードの選び方ひとつで、次に来るシーンの与えるインパクトが全然違うので、何度も通しで見て、慎重に探る作業をしました。
また、悲惨な状況も彼らの日常なので、なるべく大げさではなく淡々と表現することを心がけました。その方が、より見た人の心に訴えかけるのではと考えました。
◆この作品が劇場公開になったことへの想い
昨年、アカデミー賞にノミネートされ、劇場公開につながればと期待していたのでとても嬉しいです。より多くの人にこの映画を見てもらいたいと思います。この映画の翻訳に関わるチャンスをいただいて本当に感謝しております。
◆これから観る人たちへのメッセージ
ニュースで見るだけのシリアからは、なかなか生活者の顔が見えてきません。そこには、空爆の脅威にさらされながら生活する人たちがいます。少しでも多くの人を救助するために、瓦礫の中で働く人たちがいます。この映画を見て感じたことを、ぜひ周りの人にも伝えてください。まずは多くの人にシリアの現状を知ってもらう機会になればと思います。
●土肥英津子さん
◆この作品のみどころ
戦争がテーマですが、日常生活の場面も多く出てきます。だからこそ、自分の国や町が攻撃で破壊されていく恐怖や虚しさが、当事者の目線を通して感じられるのです。
また、人間にとって最後に残る大切なものは何かということも考えさせられます。ホワイト・ヘルメットのメンバーは、自分を顧みず淡々と作業に向かう一方で、この町に残ることで自分の家族を危険にさらすことには思わず取り乱してしまう場面もあります。生まれ育った町を見捨てられない。でも家族も守りたいという狭間で揺れ動く葛藤も伝えたいと思いました。
◆翻訳時に苦労、工夫したこと
翻訳はチームで分担し、他の翻訳者さんと相互チェックを行いました。自分では内容を理解して作ったつもりの字幕でも、読んだ人には違った解釈をされてしまい、はっとすることもありました。限られた文字数で表現するので、自分の字幕を客観的な目で読んで、誤解を招かないようにすることが、思いのほか難しく感じました。
◆この作品が劇場公開になったことへの想い
私の住んでいる広島では、70年以上前の原爆の実相を伝える努力が今も続いていますが、戦争を体験した世代が少なくなっている今、戦時下の生活を想像するのは難しいものです。普通の人々に焦点を当てたこの作品が劇場公開となることで、武力紛争の残酷さと愚かさについて考えるきっかけになればと思います。
◆これから観る人たちへのメッセージ
ドキュメンタリーということもあり、中には衝撃的な場面もありますが、普段は戦争映画を敬遠している皆さんにも、子煩悩な父親や結婚を考える年頃の若者たちの話として、観ていただきたいと思います。
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難民問題は決して遠い国の出来事ではありません。誰にも急に降りかかってくるかもしれないことなのです。私たちにできる支援の一歩は、まず現状を知ること。劇場公開されることは、多くの人に届けられる貴重な機会になるはずです。皆さんもぜひ、劇場に足を運んでください。JVTAはこれからもUNHCR難民映画祭をサポートしていきます。
『アレッポ 最後の男たち』予告編はこちら
『アレッポ 最後の男たち』
2019年4月13日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
(c)Larm Film
詳細は公式サイトをご覧ください。
http://unitedpeople.jp/aleppo/
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