第11回 恵比寿映像祭が2月8日開幕! 翻訳者が字幕に込めた想いとは…
JVTAが字幕でサポートするのは映画やドラマだけではありません。時にはアート作品に携わることもあります。恵比寿映像祭もその一つ。JVTAは、毎年このフェスティバルをサポートしており、今年は4作品の字幕を4人の修了生が手がけました。
恵比寿映像祭は、平成21年にスタートし、今年で11回目を迎えます。展示や上映だけでなくライヴ・パフォーマンス、トーク・セッションなどさまざまなジャンルの作品を集めた“映像とアートの国際フェスティバル”です。今年のテーマは「トランスポジション 変わる術」。ポジティヴに「変わる」ことを目指すテーマをかかげ、これまで培った地域とのつながりや国際的なネットワークを含め、さらなる充実と発展をはかっています。
開幕を前に今回は、2作品の見どころを翻訳者に取材。作品のみどころに加え、翻訳時に特に時間をかけたポイントなども聞いてみました。
修了生 加藤一恵さん
ルイーズ・ボツカイ『エフアナへの映画』の日本語字幕を担当
※この作品はルイーズ・ボツカイ展示室内で上映しています。
ルイーズ・ボツカイ《エフアナへの映画》2018
◆この作品の見どころ
価値観を大きく揺さぶられる作品だと感じました。この作品にはアマゾンの奥地で独自の文化と風習を1万年以上守り続けてきた部族が登場します。最近は激動の「平成」を振り返る特集を目にすることが多いですが、地球の別の場所では変わらない暮らしも存在しているという事実に衝撃を受けました。とはいえ、彼らの生活にまったく変化がなかったわけではありません。作品の中には、いわゆる「文明」の影響も確認できます。彼らが今後どのような道を歩むのかを含め、いろいろと考えさせられました。文明の恩恵を受けて生活している私たちの価値観を揺さぶるパワーを持った作品だと思います。
◆翻訳時に苦労したポイントはありましたか?
地球の裏側ではるか昔から変わらぬ暮らしを続ける女性に、どんな話し方がふさわしいのか悩みました。そのため通常よりも多くの時間を調べ物に費やし、文化や風習を理解するところから翻訳を始めています。表記とは異なり、字幕に直接反映できるような調べ物ではありませんが、言葉や話し方のトーンを選ぶ際に大きな助けになりました。例えば、この部族にとって産まれたばかりの子どもは精霊だと考えられています。子を人間として迎え入れるのか、殺して精霊のまま天にかえすのか決めるのは母親だけ。父親であっても口を挟めません。恐らく作品に出てくる女性たちも、子を天にかえす経験をしているでしょう。私たちの社会の善悪では測れぬ命の生々しさを感じました。森の一部としての人間を表現するため、「女ことば」を避け、端的な表現を心がけています。
修了生 小泉真理さん
ヘ・シャンユ(何翔宇)『ザ・スイム』の日本語字幕を担当
※この作品はヘ・シャンユの展示室内で上映しています。
へ・シャンユ《Evidence》2017
© He Xiangyu Courtesy of White Cube
Photo: © Ollie Hammick
◆作品のみどころを教えてください。
インタビューの合間に、作品の舞台となる村(ヘ・シャンユ氏の故郷である北朝鮮と中国の国境)の景色が映し出されるのですが、その詩的で美しい映像が一番のみどころです。中でも両岸で繰り広げられる人間たちの営みをよそ目に、時を越えて悠然と流れる鴨緑江の雄大な風景には畏敬の念さえ抱かされます。また脱北して中国人妻となった女性たちのインタビューも興味深く、核爆弾の製造工場で働いていた女性の貴重な証言も含まれています。そして朝鮮戦争の時、朝鮮に渡ってアメリカ軍と戦った中国軍の元兵士たちからは、緊迫する戦闘の様子や現地の少女との心温まるエピソードが語られるのですが、その内容もさることながら、話をする老人たちの誇りと慈愛に満ちた表情にも引き込まれます。
◆翻訳時に苦労したポイントはありましたか?
この作品は原音が中国語で英語の字幕を見ながら日本語字幕を作成したのですが、英語の字幕ではニュアンスが捉えづらい箇所が多々ありました。そこで中国語のスクリプトを送っていただき、意味が分かりづらい箇所は中国語の翻訳ツールを利用したり、中国に詳しい友人に問い合わせたり、漢字の熟語を拾って確認したりしながら作業を進めました。今回に限りませんが、中国語の作品に取り組む時は、中国語のスクリプトが大きな助けになると改めて痛感しました。
※下記の2作品もJVTAの修了生が手がけています。
サシャ・ライヒシュタイン《征服者の図案》2017
ミハイル・カリキス《とくべつな抗議活動》2018
第11回恵比寿映像祭は2月8日(金)にスタート。ぜひ、お出かけください!
第11回恵比寿映像祭 「トランスポジション 変わる術」
日程:平成31(2019)年 2月8日(金)~2月24日(日)
15日間 ※12日(火)、18日(月)休館
会場:東京都写真美術館、日仏会館、ザ・ガーデンルーム、恵比寿ガーデンプレイス センター広場、地域連携各所ほか
時間: 10:00 〜 20:00 (最終日は18:00まで)
料金:入場無料
※ 定員制のプログラム(上映、ライヴ、シンポジウムなど)は有料
公式サイト
https://www.yebizo.com/