東京国際ろう映画祭が渋谷で開催! ろう文化を字幕で伝える工夫とは?
5月31日(金)から6月3日(月)、東京・渋谷で「東京国際ろう映画祭」が、開催されます。この映画祭では、国内外から集めた「ろう」に関連した作品を上映。ろう者の監督による作品や、聴者の監督がろう者を描いた作品などがあります。第2回を迎えた今年は、すべての作品に英語字幕と日本語字幕をつけて上映されます。その字幕作成をJVTA修了生の坂本晶子さんがサポート、嶋真希さん、鈴木純一さんと共に外国語作品の日本語字幕翻訳で協力しました。ろう文化を伝える作品の翻訳にどのように取り組んだのか…。3名に話を聞きました。
◆修了生・坂本晶子さん
『音のない世界で ーSound and Furyー』(日本語字幕)
© 1999Public Policy Productions, Inc.
『音のない世界で ー6年後ー』(日本語字幕)
© 2006 Josh Aronson
『彼について』(字幕のチェック)
© 2018 BSLBT
『事件の前触れ』(字幕のチェック)
© 2017 BSL
生まれつき聞こえない子どもは、人工内耳を移植したほうが幸せになれるのか。今回翻訳を担当した『音のない世界で』『音のない世界で-6年後-』では、聞こえる親、聞こえない親、聞こえる祖父母、聞こえない祖父母、皆が子どもたちの幸せを願って、それぞれの立場で悩み、葛藤し、対立します。聞こえない体に生まれてきたことに意味があるとすれば、それは守るべき誇りなのか。頑なに守った先に何があるのか。そもそも聞こえないことは障害なのか。原題『Sound and Fury』にあるように、さまざま価値観と向き合い、こみ上げてくる感情がぶつかり合う家族の物語といえます。
幸せの形は十人十色。コミュニケーションの手段が多いほうが、より多くの人とより多くの時間や思いを共有できるのだとすれば、私たちが言葉を学ぶ理由もそこにあるように思います。映像翻訳という形で、観る方々が作品と対話し、新たな価値観と出会うお手伝いができる機会をいただいたことに心から感謝しています。
◆修了生・嶋真希さん
『リバース・ポラリティ』(日本語字幕)
© 2019 DPAN.TV
少しだけ刺激的な大人向けLGBTラブコメディ。表情豊かな主人公のチェイスがとてもキュートで、引きつけられます。主演俳優、監督ともにろう者なので、聴者の私が「?」と思うセリフに遭遇。悩んだ末、東京国際ろう映画祭実行委員会代表の牧原さんに相談すると「ろう同士では、よくある会話」ということがありました。『ろう者あるある』がコミカルに描かれている作品です。
『キャラメルの言葉』(日本語字幕)
©2016 Making DOC
難民キャンプに住むろうの男の子と親友のラクダのストーリー。キャラメルの言葉を表現するために文字を覚えます。ろうの男の子が表現するラクダの言葉を限られた字数で字幕にするのに苦労しました。「ろう者の世界ってこんな感じかな?」と感じられる作品だと思います。
『渦巻』(日本語字幕)
©2017 FIVEFIFTYFIVE
「奇跡の人」として知られるヘレン・ケラー。彼女が熱心な公民権活動家だったことは日本では知られていないのではないかと思います(私は本作品で初めて知りました)。彼女と記者とのやり取りの再現ドラマのような作品。彼女の人間性が垣間見えます。
『インナー・ミー』(日本語字幕)
©2017 Antonio Spanò
舞台はコンゴ共和国、4人のろう女性が語る実話。豊かな日本で暮らしている私たちに、日常では知り得ない過酷な状況で生活をしている彼女たちを通し、人間の力強さを感じさせてくれる作品です。
◆修了生・鈴木純一さん
『彼について』(日本語字幕)
© 2018 BSLBT
『事件の前触れ』(日本語字幕)
© 2017 BSL
今回、字幕翻訳を担当して貴重な経験になったのは、手話の翻訳についてです。
例えば、ろうの登場人物に健常の話者が「I love you」と言いながら、手話で「I love you」を表現しようとする場面があります。実はその手話が間違っていて、「Eye love you」となっていたんです。自分は手話が分からないので、最初はそのまま「愛してる」と訳しました。しかしその後、手話の間違いをどう表現するか、映画祭スタッフの方の修正案を元にして字幕を作り直しました。最終的には、<誤手話:″アイ(目)″ラブ ユー>としました。<>は手話を表す記号です。
ちなみにこの人物は他にも「僕と結婚して」と言いながら、「性交する」と手話を誤る場面があります。そこではセリフは「僕と結婚して」と字幕を出し、同時に<誤手話:性交中>と手話の字幕を出しました。通常の映像翻訳とは違う表現方法で、勉強になりました。
この映画祭のように、ろうの人たちの視点や暮らしを描く作品に触れる機会はそう多くないと思います。興味を持たれた方は、足を運んでみてはいかがでしょうか。
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■東京国際ろう映画祭 代表 牧原 依里さんからJVTAにメッセージを頂きました。
今回は31作品を上映します。外国映画にはすべてに日本語字幕を付与することになりましたが、映画の中で展開される文化や背景を字幕で表現することがどんなに難しいかということを、とても考えさせてくれました。
外国映画を日本語に訳す場合もジョークの翻訳が難しいとよく聞きますが、今回もろう文化独特のジョークや言い回しが出てくるとともに視覚言語(手話)と音声言語に対するダジャレのようなジョークもあり、翻訳者は表現に苦労したのではないかと思います。
また実は「Deaf」という英語は、当事者のアイデンティティに関わっていて、頭文字の大きさによって意味が変わってきます。小文字だと医学的な意味の聴覚障害者、大文字だと文化的・アイデンティティな意味のろう者になるんです。一方日本では「ろう者」そのものに医学的、文化的、両方の意味があります。その意味を映像の文脈から汲み取り、「ろう者」「聴覚障害者」「耳が聞こえない人」など区別を分けて表記するなど、翻訳者とともに工夫をしていきました。ほかにも「声」という音声の中で育った人からみる字幕と、「目」という視覚の中で育った人からみる字幕に対しての感覚が異なるということがしばしばあり、どう表記すべきかという議論も交わされました。
最終的にはここだという着地点を見つけてどうにか着地しましたが、翻訳字幕を通して、思いがけない新しい発見がたくさんありました。字幕翻訳というのは、言葉だけでなく、その映画の文化を観客に届ける仕事でもあるのだな、と感銘を受けたとともに、その文化を一緒に届けるお手伝いをしてくださった字幕翻訳者の方々に感謝の気持ちでいっぱいです。ここでしか観られない作品ばかりなので、ぜひ観にきてください!
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映画を通じてろうの文化を知ることができ、工夫を凝らした字幕を見られる貴重な機会です。皆さんもどうぞお出かけください!
※2018年のポーランド映画祭の上映作品でもある『お願い、静かに』の字幕は修了生の福原里美さんが手がけています。福原さんのコメントを紹介した記事はこちら。
https://www.jvta.net/tyo/poland-film-fes2018/
第2回東京国際ろう映画祭 公式サイト
https://www.tdf.tokyo/
【関連記事】修了生・鈴木純一さんが映画の予告編や悪役について語る連載コラム「戦え!シネマッハ!!!!」はこちら
https://www.jvta.net/co/cinemach/
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