“UNHCR難民映画祭”が「UNHCR WILL2LIVE映画祭2019」へ 難民の力強く生き抜く強さを伝えたい
JVTAは今年も「UNHCR WILL2LIVE映画祭2019」に協賛しています。
世界では今、7000万人を越える人々が迫害や紛争によって命を危険にさらされ、故郷を逃れることを余儀なくされています。こうした難民の現状を映画の上映という形で伝え、国内で支援の輪を広げてきた「UNHCR難民映画祭」が14回目を迎える今年、「UNHCR WILL2LIVE映画祭2019」に生まれ変わります。JVTAはこの映画祭の趣旨に賛同し、第3回から毎年字幕制作でこの映画祭をサポート、これまで多くの修了生がボランティアで協力してきました。8月21日(水)、東京の日本プレスセンタービルで記者会見と今年の上映作品『ミッドナイト・トラベラー』のプレ上映会が行われ、この作品の字幕を手がけた修了生、川下盛代さん、原茉未さん、増渕裕子さんとJVTAスタッフが参加させていただきました。
会見には、主催の国連UNHCR協会事務局長、星野守氏と、協力・監修の国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日代表のダーク・ヘベカー氏が登壇。今年から “WILL2LIVE”(ウィル・トゥー・リブ)というコンセプトのもと、逆境の中で生き抜く難民の力強さを伝えていくことが発表されました。故郷を強制的に追われた人々の数は増え続け、7080万人に達しています。これはUNHCRが創設された1950年以来、最多とのことです。そんな中、来年の東京オリンピックにはリオに続いて難民選手団が再び結成され、来日する予定。彼らの活躍も難民問題を広く知ってもらうきっかけになるはずです。会見の後半では、国連UNHCR協会の広報、鈴木夕子氏が今年の上映作品について解説。今年の上映作品は全7本。4本はすでに日本で劇場公開済みのため、JVTAでは3本の日本語字幕を担当し、23人の修了生が協力しています。
※国連UNHCR協会事務局長、星野守氏と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日代表のダーク・ヘベカー氏
この日先行上映された『ミッドナイト・トラベラー』は、今年のベルリン国際映画祭でパノラマ部門エキュメニカル審査員賞を受賞した話題作です。主人公は、アフガニスタンの平和をテーマにした作品を作ったことがタリバンの怒りを買い、その首に懸賞金をかけられた映画監督。母国を追われ、妻と2人の娘と共に安全な場所を求めてさまよう姿を追ったドキュメンタリーです。日本語字幕を手がけたのは、JVTA修了生8人(伊藤 淳子さん、川下 盛代さん、川嶋 のぞみさん、桐原 麻衣さん、清水 香さん、田島 佳子さん、原 茉未さん、増渕 裕子さん)。その中から記者会見に駆けつけた3人の修了生に、この映画祭との関わりや記者会見に参加して感じたこと、『ミッドナイト・トラベラー』の見どころと翻訳に込めた想いを聞きました。
※『ミッドナイト・トラベラー』 (原題:Midnight Traveler)
監督:ハッサン・ファジリ ©Hassan Fazili
川下 盛代さん
◆難民映画祭への関わり
2018年は『アイ・アム・ロヒンギャ』を担当させていただきました。ロヒンギャ難民の若者たちが演劇を通じて成長するストーリーで、非常にパワフルな作品でした。2回目となる今回は、国を逃れてからの道中が描かれているという点では同様ですが、作品の中に、家族の笑いや涙がたくさん散りばめられているので、難民をよりいっそう身近に感じることができました。
※『アイ・アム・ロヒンギャ』©Innerspeak Media
◆記者会見に参加して感じたこと
記者会見では、「難民の生き抜く意志。その強さを、伝えたい。」という主催者の方々の熱い思いが伝わってきました。また、国連UNHCR協会、UNHCR駐日事務所の方々にご挨拶させていただいたり、映画配給会社の方のお話を伺ったりするなど、貴重な体験をさせていただきました。ありがとうございました。
※写真提供:国連UNHCR協会
◆『ミッドナイト・トラベラー』の翻訳で意識した点、これから観る人へのメッセージ
翻訳するにあたっては、密航業者からの脅迫を回想するシーンで、「怖かった」という思いが伝わるよう、言葉選びを工夫しました。一方で、子どもがダダっ子になったり、夫婦で痴話げんかをしたりするシーンでは、日常っぽさを出して親近感がわくように心がけました。
※写真提供:国連UNHCR協会
「難民が押し寄せてくる」という、難民を受け入れる側の報道ばかりを目にしますが、この映画は、「押し寄せざるを得ない」逆の立場から見た世界をリアルに映しています。全編スマホで撮影されているため、国境を越えるシーンなどはそのままの緊迫感が伝わってきますし、そんな状況下での小さな幸せを垣間見ることもできます。そして、難民申請が受理されるまでのもどかしさもよく分かります。同じような状況の人々が安心して暮らせる日がくるように願いながら、ぜひこの映画を見てほしいと思います。
原 茉未さん
◆難民映画祭への関わり
私は今回初めて参加いたしました。以前から難民映画祭のことは知っていたのですが、まさか自分が翻訳を通して関われるとは思っていませんでした。こうした社会的メッセージの強い作品を扱う映画祭に翻訳者として参加できたことを嬉しく思います。
※左から修了生・原 茉未さん、国連UNHCR協会事務局長の星野守さん、修了生・増渕裕子さん
◆記者会見に参加して感じたこと
国連UNHCR協会、UNHCR駐日事務所の方や難民問題に深く関わっている方とお会いすることができ、非常に貴重な機会となりました。国連UNHCR協会事務局長の星野様のお話で、「難民キャンプにいる子どもたちはとてもいい目をして輝いている」という言葉がとても印象的でした。『ミッドナイト・トラベラー』に出てくるナルギスとザフラも天真爛漫で強い意志を持っている子どもです。そんな子どもたちの未来が明るいものになってほしいと思いながら、お話を聞かせていただきました。祖国を追われて難民になる人の数は、世界中で年々増え続けているそうです。日本において難民問題は、遠い国で起こっていることとして考えてしまいがちですが、映画祭を通じて難民の現状を知ることが、この問題を考える上での大切な一歩になるのだと感じました。私もぜひ会場で、他の作品も鑑賞したいと思います。
※『ミッドナイト・トラベラー』より ©Hassan Fazili
◆『ミッドナイト・トラベラー』で苦労した点、これから観る方へのメッセージ
この『ミッドナイト・トラベラー』という作品は、映画監督自身が祖国を追われ、安住の地を求める3年に及ぶ日々を追ったドキュメンタリーです。難民を題材にした映画と聞くと、観るのが辛く、目を覆いたくなるようなシーンが多いことを想像してしまうと思います。この映画でも難民が直面する問題や苦境が描かれ、もし自分がこうした状況に置かれたら、と思うだけで辛い気持ちになり、明日が見えない苦しさを考えさせられました。しかしながら、全体的に絶望感が漂っている映画ではありません。家族の日常生活は、一見すると普通の家族そのもので、監督の奥さんは時々こちらが戸惑うほど笑っているシーンが多く、2人の娘もとても可愛らしいのです。翻訳する時には、こうした難民の苦境と家族の団らんという2つの面のメリハリがつくように気をつけました。また、英語からの重訳だったので声のトーンや表情もよく観察して日本語に訳すことを心がけました。本作を一緒に担当した他の翻訳者の方にたくさん助けていただいたことにこの場を借りて感謝するとともに、『ミッドナイト・トラベラー』を多くの方にご覧いただければと思っています。
※写真提供:国連UNHCR協会
増渕裕子さん
◆難民映画祭への関わり
2017年に『アレッポ 最後の男たち』、2018年に『ソフラ ~夢をキッチンカーにのせて~』を担当し、今年が3回目です。
※『アレッポ 最後の男たち』©Aleppo Media Center
※『ソフラ ~夢をキッチンカーにのせて~』© Lisa Madison
◆記者会見に参加して感じたこと
実は初めてこの映画祭の翻訳に携わった時、私は病を患っておりつらい時期だったのですが、力強く生き抜こうとする難民の皆さんの姿に励まされ、私自身が沢山の勇気をもらいました。今年のコンセプト、WILL2LIVEという趣旨にとても共感しています。
※写真提供:国連UNHCR協会
◆『ミッドナイト・トラベラー』で苦労した点、これから観る方へのメッセージ
私がまず感じたのは、ハッサン・ファジリ監督の言葉に対するある思いです。通常、「難民」という言葉には「refugee」という少し難しい言葉が使われますが、この作品のタイトル『ミッドナイト・トラベラー』からも分かるように、この作品では誰もが知っている「traveler」という言葉が使われています。私はここに、監督のある思いが込められていると感じました。言葉には、本来の意味とは別に、その言葉が持つ特定のイメージが独り歩きすることがあります。「refugee」、そして日本語の「難民」という言葉にも、本来の意味とは別に、私たちの中に偏見や差別が生まれてしまっているように感じています。その原因の一つは、世間でこの問題に対してなかなか関心が向けられないことにあるのではないでしょうか。ニュースでたまに報じられる衝撃的なシーンを見て、何となく固定概念が生まれてしまっているからだと思います。ニュースで報じられるのは、難民と呼ばれる人たちの日々の生活の中でも、ぎりぎりに追い詰められた状況の中から抜き取られた一場面であり、本来その人たちが生きている姿そのものではありません。
※『ミッドナイト・トラベラー』より ©Hassan Fazili
本来「難民」という種類の人間はいなくて、彼らは私たちと同じ生身の人間です。作品の中でも、この一家には自国のアフガニスタンに、友達や親戚がいて、にぎやかに夕飯を囲むシーンもあります。それでも一家は、家族の安全を確保するために、自国外に庇護を求めることを余儀なくされます。作品の中では、過酷な状況下でも、子どもたちが思いっきりはしゃいだり、家族間でちょっとした小競り合いをしてみたり、YouTubeで好きな音楽を聴いたり、泣いたり笑ったりという、この一家の普段の暮らしぶりを垣間見ることができます。そして、そのシーンが私たちの暮らしととてもよく似ていて、思わずクスっと笑ってしまいます。このような彼らの普段の暮らしを垣間見ることで、私たちには共感が生まれるのです。また、この一家は、絶望的な状況に直面しても、必ず前に進みます。辿り着いた先では、当初の計画と違う展開ばかりが待っています。それでも一家は何が起こっても、家族の安全を第一に考え、必ず前に進みます。この一家の生き抜こうとする力強さに、私自身、前を向いて生きる力をもらいました。
※写真提供:国連UNHCR協会
日本人の私たちも、人それぞれ、色々な悩みを抱えて生きていると思いますが、これはシンプルに「生きる」ということが心に刺さる作品です。人の悩みは三者三様です。「難民を理解する」ということも、もちろん大切なテーマです。しかし私としてはぜひ、この作品から「前を向いて生き抜く力」を感じ取ってほしいと思います。作品を通して共感したり、何かを感じ取ったりすることが、本当の意味で、彼らを理解することにつながっていくのではないかと感じました。
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『ミッドナイト・トラベラー』の上映後、翻訳者の皆さんが、国連UNHCR協会広報委員の方から取材を受ける場面もありました。(その記事は
こちら)。製作者の目線に寄り添い、難民問題の現状を日本に伝えるために尽力した字幕をぜひ、映画祭の会場でご覧ください。
記者会見、会場の様子は同映画祭のFacebookでご覧ください。
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「UNHCR WILL2LIVE映画祭2019」公式サイト
https://unhcr.refugeefilm.org/2019/
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