【宮沢賢治×語り×手話×音声ガイド】修了生・彩木香里さんの挑戦がアーカイブで配信
「舞台から平和のエネルギーを感じた」
6月29日(水)に行われた舞台『手話と音楽と語りで綾なすライブセッション』の観客の言葉だ。
この公演は、当校バリアフリー講座修了生の彩木香里さんが企画し、語りと手話、音声ガイド、字幕、音楽の融合で宮沢賢治の世界を表現したもの。見える人も、見えづらい人も、聞こえる人も、聞こえづらい人も誰もが同じ会場で一緒に生の舞台を楽しんだ。バリアフリー講座の修了生も運営に参加、JVTAはこの活動に賛同し協力している。2022年9月11日までアーカイブ版が配信されているので、ぜひ、ご覧いただきたい。今回は、会場の様子を彩木さんの声と共に紹介する。
※修了生・彩木香里さん 今回の公演『よだかの星』より
「私たちは福祉公演という位置づけでは考えていません。作り手としてさまざまな人に寄り添い、作品を伝えるためにあらゆるツールを駆使したい。それが原点です。演者にも観客にもさまざまな人がいます。当日は、私も含めて演者はみな魂を吸い取られるかのように集中していました。この試みを通じて相手を知る、理解するという、ものをつくる上での基本を改めて学びました」(彩木さん)
開演前、まずオープン形式で舞台説明会が行われた。舞台上に鈴木橙輔さん(「バリアフリー演劇結社ばっかりばっかり」主宰)が登壇し、手を叩いたり、歩いて歩数で広さを伝えたりと見えない人にも舞台の空間やピアノの位置、舞台のつくりなどを解説。こうした舞台説明会は東京芸術劇場などの公演でも取り入れられており、彩木さんもそのサポートをしている。
開演中は出演者の衣装や立ち位置を説明する音声ガイドが付いていた。この公演では衣装担当スタッフがおり、登壇者が演目ごとに着替えて登場。衣装の色や形、照明の変化などもその都度言葉にして解説された。
舞台上では演者の語りと共に、全盲のバイオリニスト、白井崇陽さんの演奏、ろう者の河合祐三子さんの手話によって物語に深みを与えていた。VV(Visual Vernacular)というパントマイムのような河合さんの動きを見ていると、登場人物の姿をより明確にイメージすることができた。舞台上にも字幕も投影されている。こちらは観客として何の違和感もなく観ていたのだが、公演後の彩木さんたちのお話を聞いて、実は演者同志の意志の疎通も難しかったのだと気づかされた。これが映像のバリアフリー化と大きく違う点と言える。
「生の舞台ということもあり、語りと音楽、手話などのすべての尺をその場で合わせる必要があります。しかし、同じ舞台上に立っていても、河合さんには演者の語りや音楽は聴こえていないし、白井さんには河合さんの動きは見えません。そんな2人を繋いだのは河合さんの腕につけた鈴でした。河合さんの手話の様子を観客に伝えるために音の出るものをつけてみてはどうか?とモニターの方のアドバイスで試したものでしたが、白井さんと河合さんを繋ぐ重要なアイテムになるとは誰も想像していませんでした。河合さんの動きに合わせて鳴る繊細な音色と足音で、白井さんは彼女の存在と動き、全体の流れや熱量をより深く感じ取ることができたそうです。この鈴は今回初めての試みでした」(彩木さん)
※今回の公演 『永訣の朝』より 河合祐三子さん 右手に鈴をつけている
この公演で特筆すべきは「SOUND HUG(サウンドハグ)」の導入だ。これは、球体の音楽装置で、音楽に反応して振動し、音程に合わせて光を放つ。この日は15台が無料で貸し出され、それぞれが膝に抱きかかえながら、音楽を感じとっていた。実際に抱えてみると大きな音の時は球体の中が張り詰めたように感じたり、さまざまな色に光ったりして音を体感することができた。ちなみに、「SOUND HUG(サウンドハグ)」に信号として音を送りこむため、白井さんのバイオリンには専用のマイクが取り付けられていた。
「実は河合さんも客席の『SOUND HUG(サウンドハグ)』の光が舞台上の進行を把握する指針になったそうです。楽器の音色はもちろん、語りの文節も光や色で見えるので、他の演者の様子が理解できたといいます。これは私たちにも新たな発見でした。」(彩木さん)
※今回の公演『まなづるとダァリヤ』より 左側の客席に「SOUND HUG(サウンドハグ)」が光っている
白井さんはこれまで自身の音楽を耳の聴こえない人にどのように伝えたらいいのかと考えてきたという。演奏中、「今日は『SOUND HUG(サウンドハグ)』によって僕の演奏を伝えられて胸がいっぱいです。これが拡がって多くの人が音楽を楽しめるようになってほしい」と話した。白井さんは視覚障碍者囲碁大会でも活躍しており、この日はブラインド囲碁の話題が出て、携帯型碁盤「どこでもGo」(詳細はこちらを参照)というグッズも紹介された。これは、立体的な碁盤に碁石をはめ込む方式になっており、見えなくても碁石をずらしてしまうことがない。また、黒の碁石に点がついており、手で触って区別ができる。こうしたツールがあれば見えない人も囲碁ができ、聞こえない人や晴眼者と共に対局できるのだという。ロビーにはその資料が置かれており、様々な分野でこうしたユニバーサルな取り組みが拡がっているのを知ることができた。
「今回の舞台は最初から完全バリアフリー化することを意識して企画したわけではありませんでした。まず3者で宮沢賢治作品を創り上げるという挑戦がありました。挑戦だけで終わりにせず、創り上げたものをさまざまなお客様に見ていただきたい!そのためのサポートを考えていく過程でたくさんのことに気付きました。舞台も映画もドラマも、はじめからバリアフリー化することを意識して作られるわけではありません。ですから、どんなにやっても全員にすべてが伝わることはないのです。全てを伝えようとしてサポートのバランスを間違えると軸がぶれてしまい、作品が崩れる危険性を孕んでいると感じました。それでもより多くのことを伝えるために努力を重ねる。今回はまさにその積み重ねでした」(彩木さん)
実は、彩木さんと白井さんは今年2月に2人で『よだかの星』の公演を行っていた。今回はそこに河合さんの手話が加わることで、全く新しいものに進化したと感じたという。
「9月4日(日)に宮沢賢治さんの地元、花巻の宮沢賢治イーハトーブ館で再演が決定しました。今後、全国公演、そしていずれは世界でもできたら…と思いを馳せています。これからも試行錯誤をしながら挑戦していきます。ぜひアーカイブ版で体験してみてください」(彩木さん)
アーカイブ版では、舞台上の河合さんの動きや照明などについてさらに詳細な音声ガイドや字幕も追加で収録されている。百聞は一見に如かず。あらゆる人が楽しめるための彩木さんの挑戦をぜひ、ご自身で体感していただきたい。本編後のアフタートークもどうぞお見逃しなく。
◆「手話と音楽と語りで綾なすライブセッション」
配信チケット販売中
チケット料金 2,500円
生配信・アーカイブ版+編集版すべてご視聴いただけます。
ご予約サイト
https://en-3-plaze.stores.jp/items/62a95f6cf405a16a2c5ec54a
■販売期間■ 2022/6/22日(水) 10:00 〜 7/30(土) 23:59
※延長→2022/09/10(土)23:59
■視聴期間■ 2022/6/29(水) 19:00 〜 2022/07/31(日) 23:59
※延長→2022/09/11(日)23:59
・編集版には音声ガイド、字幕が付いています。
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◆CINEMA Chupki TABATA YouTubeチャンネルで彩木さんと白井さんが登壇し、お話しています。併せてご覧ください。