【第17回難民映画祭 特別先行上映会に参加】 気候変動で荒廃した土地にグレート・グリーン・ウォールを!
10月27日、第17回難民映画祭の特別先行上映会がイタリア文化会館で行われ、長編ドキュメンタリー『グレート・グリーン・ウォール~アフリカの未来をつなぐ緑の長城』と短編映画『リスト:彼らが手にしていたもの』の2作品が上映された。
難民映画祭はUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の主催で2006年にスタート(現在は国連UNHCR協会が主催)。困難な状況で力強く生き抜く難民の姿を捉えた作品を上映し、映画を通じて一人ひとりの人生にフォーカスすることで、難民問題の現状を伝えてきた。今年で17回目を迎える。JVTAは2008年の第3回から字幕制作で協力し、多くの修了生が翻訳者ならではの支援を続けている。今年も『グレート・グリーン・ウォール~アフリカの未来をつなぐ緑の長城』の字幕を7人の翻訳チームが担当。日本初公開となった会場には、JVTAスタッフと翻訳者4人が駆けつけた。
『グレート・グリーン・ウォール~アフリカの未来をつなぐ緑の長城』
字幕翻訳チーム
石川 萌さん
我満 綾乃さん
川又 康平さん
原田 絵里さん
星加 菜保子さん
茂貫 牧子さん
◆気候変動によって故郷を追われる人たちが増加
アフリカのサヘル地域では、気温が世界平均の1.5倍の速さで上昇しており、干ばつや資源不足などの気候変動によって故郷を追われる人たちが増えている。「グレート・グリーン・ウォール」とは、荒廃した土地に植林し8000キロに及ぶ“グリーンウォール”を作る緑化プロジェクトだ。この作品は、マリのミュージシャン/活動家インナ・モジャが、セネガル、マリ、ナイジェリア、ニジェール、エチオピアを横断し、緑化に挑む人々や気候変動により紛争に巻き込まれた難民と出会い、リアルな姿を捉えていくドキュメンタリーとなっている。7人の翻訳チームはパートを分けて翻訳、相互チェックを繰り返し、約1カ月かけて字幕を仕上げた。日本初公開の上映を関係者と鑑賞した翻訳者は、作品に字幕がのって、大きなスクリーンに映し出された時、とても感動したという。会場に訪れた4人に字幕制作秘話や上映会の様子を聞いた。
◆歌詞の訳が字幕翻訳のキーポイント
メイン出演者のインナはミュージシャン。劇中には歌うシーンが多い。字幕を作る上で歌詞の訳が大きなポイントとなり、チーム内で何度も話し合ったという。
「この作品においては、やはり、劇中歌の歌詞の内容を詩的に訳すことが難しかったと思います。担当のパートにも、歌詞について語るシーンがあったので、単純ながらも、矛盾しないようにどのように表現すればいいのか悩みました。また、個人的には、翻訳にあたって指示があった言葉以外にも、国連で使われている用語と自然な日本語とどちらを使った文章にすべきなのか考えすぎてしまうこともあり、皆さんから助言をいただきました。」(翻訳者 茂貫牧子さん)
「この映画は、環境破壊がもたらす影響について警鐘を鳴らすだけではなく、未来への希望も同時に描き出しています。アフリカ各地でインナが紡ぐ音楽もまた、観る人に強い印象を残すのではないでしょうか。今回のチーム翻訳では、歌詞にもこだわりぬきました。メッセージ性の強い曲が多いので、言葉の一つひとつに対して、納得がいくまでアイデアを出し合いました。メンバー全員のこだわりが凝縮された、インナのミュージカル・ジャーニーを、ぜひ多くの方に見届けていただきたいです。」(翻訳者 星加菜保子さん)
「最後のパートを担当したので、他のパートにも何度か出てくる重要な言葉や、歌詞が多くありました。特にエンディングで流れる『インシャ・アッラー』という曲は最後の4ハコを除いた大部分が星加さんのパートでも歌われており、まずは被る部分のベース訳を作っていただきました。お互いのパートで尺が異なっており、それぞれの使える文字数の中で、伝えるべきメッセージは統一できるよう相談して訳を詰めていきました。他に『ライズ』の歌詞を訳したのですが、音楽が大切な要素の作品なので、“このシーンでこの曲が流れるのはなぜか”ということをまず考えました。音楽を聴きながら歌詞の意味にも集中してもらいたいと思ったので、曲のリズムを感じながら読みやすい字幕になるよう心がけました。(翻訳者 石川 萌さん)」
◆同じスクリーンで観客と映画祭関係者と鑑賞
※UNHCR駐日代表のカレン・ファルカス氏と、司会・国連難民サポーターの武村貴世子氏
映画祭や上映会は翻訳者が視聴者と共に作品を鑑賞できる貴重な場だ。この日は翻訳者がUNHCRの関係者の方々と直接お話をする機会にも恵まれた。
「字幕制作ソフト上で、映像は何度も繰り返し見てはいましたが、やはり大きな画面で作品を鑑賞すると、アフリカの広大な大地、登場人物の苦悩や未来へ向かう力強さが胸に迫り、思わず涙ぐんでしまいました。また、上映会に参加されている他の方々が作品に引き込まれていく様子が感じられ、字幕がちゃんと役割を果たしているようでうれしかったです。」(翻訳者 茂貫牧子さん)
「UNHCRの関係者の方から『素敵な字幕をつけてくださって、本当にありがとうございます。』というお言葉をいただき、胸がいっぱいになりました。作品の持つエネルギーやパワーを伝えることに少しでも貢献できたのなら、映像翻訳者としてこんなにも幸せなことはありません。JVTA代表の新楽さんからも『字幕に没入した。歌詞がリズムと合っていて、すごく良かった。』と言っていただき、とても嬉しかったです! チームメンバー全員で、必死に駆け抜けた1カ月が報われた思いでした。」(翻訳者 星加菜保子さん)
「このパートは〇さんの担当、ここはチームメンバーのフィードバックで改善できた箇所、ここは納品後に変更になったのだな…と、何度も皆で推敲してよく見知った字幕を不安交じりに見ていました。上映会のスクリーンで見る映画は、ノートPCで見ていた映像の何倍も色鮮やかで、フォントや字幕の配置も考え抜かれ、字幕制作ソフトを通して見ていたものとは異次元の素晴らしさでした。難民問題もグレート・グリーン・ウォールの活動も、広く知ってもらうことに意味があるということで、この映画を日本でも大勢の人に見てもらうための手伝いが少しでもできたことを光栄に思います。」(翻訳者 原田絵里さん)
◆この映画祭に携わり、翻訳者自身も難民問題に対する意識が変わった
※『グレート・グリーン・ウォール~アフリカの未来をつなぐ緑の長城』より
難民映画祭の上映作品の字幕に取り組む際、翻訳者はまず自らが作品を理解するために多くのリサーチを重ねる。そして、正しい情報をより分かりやすく伝えるために、慎重に言葉を選んでいく。こうした作業の中で翻訳者自身も難民問題に対する意識が変わったという。
「テレビのCMなどで流れる寄付を募る映像を見ていると、どうしても『かわいそうな子供たち』という印象がぬぐえず、困難を前に途方に暮れるしかない(のようにしか見えてなかった)人々に対して、同情や憐憫の感情からしか寄付をできていませんでした。しかし、昨年の難民映画祭のシリアのサッカー選手を題材にした作品からは『欲しいのは同情ではなく機会だ』、今回の作品からは『状況を変えるために、自分たちは動いていることを知ってもらいたい』というメッセージに接する機会をいただき、困難に負けずに進もうとしている人々の存在を改めて知り、そのための支援と応援が必要だということを実感しました。字幕翻訳者としての経験のみならず、一個人としても知らなかったことを深く知る機会を与えていただき、感謝しています。」(翻訳者 茂貫牧子さん)
「交流会では、上映会の司会進行をされた国連難民サポーターの武村貴世子さんとお話しすることができました。『映画を通して、気候変動や紛争、難民、すべて繋がっている問題だということが分かった』と仰っていたのですが、私も今回の作品を訳しながら同じことを感じていました。作品のメッセージが見る人にも伝わったのだなと実感できたのと同時に、この作品を通じて、より多くの人に『気候変動は自分たちにも繋がっている問題だ』と気づいてもらいたいと思いました。」(石川 萌さん)
◆12月10日(土)にオンライン上映、来年(2023年)は劇場公開へ
今年7月、バングラデシュでは、豪雨により国土の3分の1が浸水したほか、アフガニスタンでは、気温上昇と干ばつが40年にわたる紛争の影響をさらに深刻なものとし、国内で350万を超える人々が避難を余儀なくされている。気候変動がさらに深刻化する今、『グレート・グリーン・ウォール~アフリカの未来をつなぐ緑の長城』は、私たちに新たな脅威と共に、その解決に挑む希望を見せてくれる作品だ。今後、難民映画祭の世界人権デー・オンライン特別先行試写会として12月10日(土)にオンライン上映されるほか、来年2023年には劇場公開も決定している。ぜひ、字幕にも注目しながらご覧いただきたい。
【世界人権デー・オンライン特別先行試写会】
2022年12月10日(土)
『グレート・グリーン・ウォール~アフリカの未来をつなぐ緑の長城』特別先行上映会
詳細はこちら
https://unhcr.will2live.jp/news/10/21/rff2022-ggw1210/
◆第17回難民映画祭 公式サイト
https://unhcr.will2live.jp/cinema/
※オンライン配信 ※12月01日(木)~12月14日(水)
視聴を受付中
【関連記事】
◆【国連UNHCR協会 中村恵さんに聞く】 緒方貞子さんのバトンを引き継ぐ 今私たちにできる難民支援とは?
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◆JVTA代表 新楽直樹 連載コラム
Tipping Point Returns Vol.10 追悼 緒方貞子さん ~難民支援と映像翻訳~
※緒方貞子さんからJVTAに頂いたメッセージを収録
https://www.jvta.net/blog/tipping-point/returns10/
◆日本のアニメのウクライナ語字幕をつけて世界に上映するイベント「J-Anime Stream for Ukraine」を2022年11月に開催
http://stream.jvtacademy.com/
◆【字幕・吹き替えでサポート】UNHCRのアニメーション動画で難民問題を学ぶ
https://www.jvta.net/tyo/unhcr-animation-movie/
◆国連UNHCR協会×JVTA 翻訳者だからできる難民支援のカタチ「UNHCR WILL2LIVE Cinema 2021 募金つきオンラインシアター
https://www.jvta.net/tyo/unhcr-will2live-2021/
◆【『戦火のランナー』が劇場公開】翻訳者だからできる社会貢献のカタチ
https://www.jvta.net/tyo/runner/
◆故郷を追われた人を守り続けて70年 UNHCRの活動をJVTAはサポートしています
https://www.jvta.net/mtc/who-we-are-unhcr70/
◆アフガニスタンから逃れた家族の旅路『ミッドナイト・トラベラー』が劇場公開
https://www.jvta.net/tyo/%EF%BD%8Didnight-traveler/
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