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カンヌ国際映画祭で注目の監督が自ら脚本・主演を務めた話題作の字幕を修了生が制作

<strong>カンヌ国際映画祭で注目の監督が自ら脚本・主演を務めた話題作の字幕を修了生が制作</strong>

ヒューマントラストシネマ渋谷で「カンヌ監督週間 in Tokio」が開催中だ。このイベントは、特定非営利活動法人映像産業振興機構(略称:VIPO[ヴィーポ])が主催となり、「カンヌ国際映画祭」の独立部門である「監督週間(Quinzaine des Cinéastes/ Directors’ Fortnight)」とのコラボレーションの一環として行われるもので、今回が日本初上陸となる。2023年のカンヌで上映された世界の長編・短編に加え、VIPOセレクトの日本映画など、全17作品が一挙上映。JVTAはこのイベントに協力し、4作品の日本語字幕を5人の修了生が手がけた。

「カンヌ監督週間」はこれまで、ソフィア・コッポラやスパイク・リー、ジム・ジャームッシュ、グザヴィエ・ドラン、大島渚、北野武、黒沢清、三池崇史、西川美和(敬称略)などの名監督をいち早く見出したことで知られる。今回、JVTAが字幕を手がけた4作品の中でもひときわ異彩を放つのが、『フィーリング・ザット・ザ・タイム・フォー・ドゥーイング・サムシング・ハズ・パスト』だ。特筆すべきは、本作が長編デビューとなったジョアンナ・アーナウ監督が、脚本と主演も自ら務めているということ。日本語字幕を手がけた修了生、森藤真代さんは、まず、監督のインタビュー記事や動画を見て監督の意図を理解することから始めたという。

『フィーリング・ザット・ザ・タイム・フォー・ドゥーイング・サムシング・ハズ・パスト』

「インタビューの中で監督はこの作品を、『長年続くカジュアルなBDSM (※)の関係、パッとしない会社の仕事、ユダヤ人の家族との口論の多い関係の中で過ごす1人の女性の生活を、時間の経過とともに描いたモザイクスタイルのコメディ』と紹介しています。

※複数の対になった言葉、Bondage and Discipline(ボンデージと調教)、Dominance and Submission(支配者と服従者)、Sadism and Masochism(サディズムとマゾヒズム)を組み合わせた言葉

コメディといっても爆笑するようなものではなく、気まずい状況やかみ合わない会話などの場面を、皮肉っぽくドライなユーモアで表現し、物語を淡々としたショートスケッチの連続で見せていく作風です。性表現を含む大胆なシーンもあり個性的ですが、作品の温度感がホットでもクールでもなく、とてもリアリティが感じられます。」(森藤真代さん)

ジョアンナ・アーナウ監督

主人公はNYで暮らす34歳のアン。彼女の日常の風景が断片的に映し出されていく。セリフは多くはないが、こうした作風は、起承転結がはっきりした作品に比べ、字幕作りは難しいと言える。

「本作の舞台はニューヨークですが、主人公の生活はおしゃれでもないしキラキラしてもいません。レトルト食品をチンして食べたり、地下鉄のホームで1人電車を待ったり、時々会う両親との会話でイラッとしたりする場面など、都会に住んでいる人のありふれた日常が描かれていることもリアリティを高めており、個性と親しみやすさのバランスが監督の持ち味の1つだと思います。本作はいろいろな意味で個性的でありながらも、センセーショナルやエキセントリックというよりも淡々とした雰囲気を持っていて、気負わずに見られる作品です。」(森藤真代さん)

森藤さんはこれまで、ドキュメンタリー作品をいくつも手がけており、2020年には映画『グリーン・ライ ~エコの嘘~』の日本語字幕制作に参加(参考記事 https://www.jvta.net/tyo/greenlie/)した。この作品は環境問題に警笛を鳴らす意欲作で、劇場公開となった。今回の作品『フィーリング・ザット・ザ・タイム・フォー・ドゥーイング・サムシング・ハズ・パスト』は監督自身がアンを演じており、一見ドキュメンタリーのようにも見えるがそうではない。翻訳をする上で頭を切り替える必要があったと話す。

『グリーン・ライ ~エコの嘘~』(c)e&a film

「翻訳作業では余計な解釈や説明を付け加えないことを特に意識しました。ドキュメンタリー作品の翻訳がいくつか続いたあとに本作を担当することになったので、頭をリセットして取り組む必要がありました。ドキュメンタリーの翻訳では分かりやすさを重視して、言葉を少し補ったり、あいまいさを避けて一義的に解釈できるような表現を心がけたりしています。一方、本作では見た人が自分の感じたいように感じ、思い思いに解釈する余地を残さないといけないと思ったので、あいまいなところはあいまいなままにして、意味が限定される表現は使わないように気をつけました。また説明を省いたシンプルなセリフが多いので、日本語訳も同じ程度のシンプルさになるように心がけました。頭を切り替えるために、世界観や雰囲気を感じ取ろうとして作品をじっくりと見たり、監督のインタビューや作品のレビューなどを読んだりしたことが役立ちました。しかし、それぞれのレビュアーが異なる感想を持っており、やはり何を感じるかが分かれる作品なのだと思いました。」(森藤真代さん)

観る人によってさまざまな受け取り方ができる実験的な作品だが、翻訳に取り組む中で、森藤さん自身が感じたこの作品の魅力について聞いてみた。

『フィーリング・ザット・ザ・タイム・フォー・ドゥーイング・サムシング・ハズ・パスト』

「監督はインタビューの中で、その時に何が起きているかによって時には速く時にはゆっくりと過ぎるように感じる時間の流れを描きたかった、そしてストーリーの流れが順を追ってきちんと描かれる映画の常識をあえて崩し、1日の終わりに雑多な出来事を振り返るような感覚を表現したかったと話していました。そういう描き方が、いろんな要素がモザイクのように合わさってできている私たちの生活や、代わり映えしない日々に思えても振り返ってみれば確実に変化しているという、誰もが感じるような時の流れに重なりリアリティを生んでいると思います。刺激的に描かれることが多いと思われるBDSMのシーンも、淡々とどこかコミカルに描かれており、性的シーンの描写についての先入観も覆してくれました。

またドライなユーモアと言われるわりには、ほんのりとポジティブな余韻を残し、地に足のついた気分にさせてくれる作品でもあります。主人公のアンは30代の独身女性で、仕事でも私生活でも行き詰まりを感じる日常を送っていますが、ままならない状況の中でも自分の気持ちや感覚に正直な態度が、彼女にふさわしい変化を徐々に引き寄せているように思えることが、その理由かなと思います。興味が湧いたらぜひ『カンヌ 監督週間 in Tokio』に足を運んでください。」(森藤真代さん)

「カンヌ監督週間 in Tokio」では、ベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭と共に世界三大映画祭と言われるカンヌ国際映画祭が今注目する監督の最新作が一挙上映中。映画ファンなら見逃せないイベント、今すぐ公式サイトをチェックしてほしい。

◆カンヌ 監督週間 in Tokio

2023年12月8日(金)〜21日(木) 〈2週間限定〉

ヒューマントラストシネマ渋谷

公式サイト:https://www.cannes-df-in-tokio.com/

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