言葉遣いと言葉遊びへのこだわり SSFF&ASIA 2024字幕翻訳者にインタビュー!
6月4日(火)より、世界最大級の短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2024(SSFF & ASIA 2024)」が開催。一部作品についてはオンラインでの上映が始まっている。JVTAは毎年、本映画祭を字幕でサポート。今年も上映される約200作品について、ほとんどの字幕を修了生が担当している。今回は『アデル、ブルーは熱い色』のレア・セドゥさん出演作『家から逃れて』(Malo Welfling監督、2023)の日本語字幕を担当した本庄由香里さんと、柄本時生さん主演の結婚とAIをめぐる近未来SFコメディ『AIしてる』(籔下雷太監督、2023)の英語字幕を担当したBrad Plumbさんに、字幕制作の舞台裏を聞いた。
■『家から逃れて』
監督:Malo Welfling/フランス/15:01/ドラマ/2023
ぐうたらな青年、ニーノは言いつけを破って外出し、虐待的な父親と激しい口論となる。彼はそんな有害な環境から抜け出したいという一心で家出をするが、ある出会いを通じて別の手段を見つけ出す。(SSFF&ASIA 2024上映作品紹介より)
本庄由香里さんは本作の字幕翻訳にあたり、「シーンごとに変化する空気感が伝わるよう、主人公の口調に差をつけて日本語字幕を制作した」という。字幕翻訳はただ原語を翻訳するだけでは成立しない。物語はどのような内容で、登場人物はどのようなキャラクター性なのか。そして発せられるセリフは物語上でどのような役割を持っているのか。JVTAの映像翻訳コースで「作品を理解してから翻訳に取り掛からなくてはならない」と常に講師が口にするほど、作品理解は重要だ。本庄さんはその教えの通り、登場人物のキャラクター性や各シーンの移り変わりを分析してから適切な字幕表現を探った。
「主人公のニーノが友人のボリスと会話するときの口調はライトに、母親との会話では気遣うように、虐待的な父親との会話では相手の機嫌をうかがうようにと、その時々の主人公の心情を表現し、作品の空気感や俳優さんの演技を邪魔しないように注意して言葉を選びました」(本庄さん)
日本語は特に、相手との関係性によって言葉遣いに変化が出る言語だ。複数人の会話を字幕にする際には、その関係性を理解して適切な言葉遣いにする必要がある。選択肢が多い日本語だからこそ、字幕に工夫のし甲斐があると言えるだろう。例えばニーノがボリスと出かけるシーンでは、ニーノのつかの間の解放感と投げやりな反抗心のようなものを伝えられるよう、少年らしい軽薄さのある言葉遣いを意識したそうだ。ちなみに本庄さん自身のお気に入りの登場人物はボリスとのこと。「ボリスの無邪気さとニーノを案じる優しさが字幕からも伝わったら嬉しい」と語った。
■『AIしてる』
監督:籔下雷太/日本/6:55/ドラマ/2023
AIの発達により高確率で人間の相性を判定できるようになった近未来、ひと組のカップルが両親の元へ結婚の挨拶に向かう。二人は効率重視の世の中に反発するように、AIの相性判定を受けないまま交際していた。その事を知った両親は…。(SSFF&ASIA2024 上映作品紹介より)
字幕翻訳で難しいけれどやりがいがある点のひとつは、言葉遊びの翻訳だ。その言葉遊びがタイトルにも現れている作品が、本作『AIしてる』である。「AIによる相性判定」がキーとなっている作品のため、英語字幕制作を担当したBrad Plumbさんは「AI」と「愛」の言葉遊びに頭を悩ませたという。
「『AI』と『愛』をかける言葉遊びはただのダジャレではなく、ストーリーやセリフにおいても不可欠な要素でした。そのため英語でどう表現すべきか悩みました。特に、『私達はAIしていない』というセリフには強烈なインパクトがあり、その面白さを保ちながらもストーリー展開が分かりやすく成立するよう、自分なりに工夫しました」(Plumbさん)
その他にも「タイパ」「効率」「自然」など、普通とは少し異なるニュアンスで使われている単語がたくさん出てきたという。SSFF&ASIAでは会場、オンライン共に上映時に英語字幕が表示されるので、こだわりの英語表現はぜひ本編を見て確認してもらいたい。また本作は柄本時生さんが主演だが、Plumbさんは柄本ファミリー全員が俳優として好きだったとのこと。そのため、柄本時生さん出演作を翻訳するということに喜びを感じたそうだ。SSFF&ASIAは国内外の人気俳優が出演している作品も多数あるので、映画祭の翻訳に関わることが好きな俳優の作品を手掛ける貴重な機会にも繋がる。
『AIしてる』は6月6日(木)に東京・表参道ヒルズ スペースオーで、『家から逃れて』は6月14日(金)に二子玉川ライズ スタジオ&ホールで上映される。上映会では映画関係者によるQ&Aセッションも予定されているそうだ。また両作品とも6月1日(土)からオンラインでも上映される。上映会のゲストに関する最新情報やオンライン配信の詳細は、公式サイトでぜひチェックを。
■ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2024 公式サイト
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