【ダマー国際映画祭が開幕】作品のトーンや主人公の気持ちに寄り添った字幕作りとは

4月12日(土)、13日(日)、日比谷コンベンションホールで「ダマー国際映画祭」が開催される。JVTAはこの映画祭に字幕制作で協力しており、今年は10作品の上映作品の字幕を修了生が手がけている。
「ダマー国際映画祭」は、2001年にワシントン州シアトルでスタートした国際短編映画祭。2024年、デニス・クエイドが第40代アメリカ合衆国大統領のロナルド・レーガンを演じ話題となった『レーガン』のほか『パッション』や『ナルニア国物語』、『Ray / レイ』などの企画やマーケティングを手掛けたマーク・ジョセフ氏が代表を務めている。「ダマー」とはヘブル語(ヘブライ語)で「隠喩」や「たとえ話」を意味する言葉だ。この映画祭の特徴は、露骨な暴力描写や過激な映像に頼らず、人間の多様な感情や体験を芸術的に表現することを評価すること。バイオレンスシーンが苦手という人も安心して観られ、視聴者の心に深く響く作品が集められている。また、30分未満であることが応募の条件とされており、国内外から選出された28本の短編映画が上映される。
今回は『Artist Uncredited』と『Real Fantasy』2作品の字幕を担当した岡本真理子さんと、『Breath』を手がけた大嶋要さんに話を聞いた。
◆『Artist Uncredited』
Directors Sven Fuhrken, Chris Hirschhaeuser (Germany)
「本作は、きれいなスーツに身を包んだ一人の男性が、美術館を訪れるシーンから始まります。彼はある絵画の前に腰を下ろし、訪れる来館者に解説を行いながら、静かに一日を過ごしていきます。彼はいったい何者なのか。鑑賞後、ふと心が揺さぶられるような余韻がきっと胸に残るはずです。」(岡本真理子さん)
岡本さんはこれまで、スポーツや医療、歴史、自然などさまざまなジャンルの字幕を手がけてきた。また、インタビュー動画や映画祭の上映作品など多岐にわたる。なかには初めて携わる分野もあり、翻訳には徹底したリサーチが必須だ。岡本さんは日ごろから幅広い分野の映像や文章に触れるように心がけているという。『Artist Uncredited』で流れるように絵画の解説をする男性のセリフには、アートならではのトーンや言葉選びが施されている。
「まずはその分野の言葉遣いやトーンを動画や記事(特にその分野のファンの方による映像や文章はとても参考にしている)を通して何となくニュアンスを掴んでから翻訳にとりかかるようにしています。」(岡本真理子さん)
岡本さんは、今回はセリフが非常に少ない作品だからこそ、登場人物が一つひとつの言葉に込めた感情や背景を丁寧に汲み取り、言葉を選び字幕に反映した。
◆『Real Fantasy』
Director King Man Fung (South Korea)
舞台は新人監督が奮闘する映画の撮影現場。さまざまなトラブルに翻弄される主人公の苦悩が描かれている。メインのテーマに盛り込まれているのはAIとの共存だ。
「本作の主人公は、映画監督を目指すも、まだ芽が出ない韓国の青年。そんな彼に舞い込んだのは、大手プロダクションからの映画監督オファー。ただし、“AI俳優”を起用するという条件つきでした。」(岡本真理子さん)
一見すると荒唐無稽の話のようだが、岡本さんはAI技術が身近なこの時代、この物語は決して遠い世界の話ではないと話す。
「翻訳では、そんな現代の空気感が伝わるよう、親しみやすく、日常的な表現を心がけました。AIと人間の境界があいまいになりつつある今だからこそ、ぜひ多くの方に観ていただきたい作品です。」(岡本真理子さん)
AI俳優を起用した映画制作の行方は? 実はそれほど遠くない未来の話なのかもしれない。
◆“Breath”
Directors Edward Young Lee, Jan Lin Lee
遺伝性の病気を患いながら、夢に向かって努力する青年クレイと父親の複雑な親子関係を描いた物語。字幕を担当した大嶋要さんは自身も子育て中であり、翻訳中は作中の父親に今の自分の想いを重ねながら言葉を選んだと話す。
「自分を顧みずに、息子に無条件の愛を与える父の優しさには心を打たれると思います。
特に印象深かったのは、夢への挫折を味わうクレイが父に向って病気のことを責め、ひどい言葉をぶつけていくシーンです。青年の悲しみからくる短いセリフを単調にせず、なおかつ苦しみを表現できるように言葉選びには気を配りました。親のあり方を考えさせられる、そんな素晴らしい作品なので、ぜひ多くの方に観ていただきたいと思います。」(大嶋要さん)
大嶋さんはこれまで、音楽イベント系やSF、サスペンスなどのTVシリーズ、スポーツものなどさまざまなジャンルの作品の字幕を手がけてきた。映画祭の短編作品の翻訳は今回が2回目。短編は短い中に監督の伝えたい内容が凝縮されていて、全体のセリフ数も減るので、一つひとつのセリフにさらに重みがあると大嶋さんは話す。
「字面だけを見て翻訳しては、登場人物の気持ちが反映されない訳文になるので、各セリフの中にあるニュアンスを取りこぼさない様に細心の注意を払いました。何度も何度も訳文を見返しては微調整を加えました。はじめは単純なセリフだと思っていても、全体を確認する過程で違う意味があることに気づくことも多く、気を引き締めて取り組みました。」(大嶋要さん)
クレイを優しく見守ってきた父親が抱えてきた秘密とは…。大嶋さんの字幕には交錯する親子のそれぞれの想いが丁寧に込められている。
ぜひ、会場でご覧ください。
◆ダマー国際映画祭
2025年4月12日(土)~13日(日)
日比谷コンベンションホール
公式サイト:https://damahfilm.com/ja/
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