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最新作『初級演技レッスン』が劇場公開 世界で注目される串田壮史監督インタビュー

最新作『初級演技レッスン』が劇場公開 世界で注目される串田壮史監督インタビュー

串田壮史監督の最新作『初級演技レッスン』が2月22日から劇場公開される。同作は2024年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭のオープニング作品として制作され、英語字幕をJVTAが担当。修了生の染野日名子さんと谷山優果さん、ファン・サンディさんが手がけた。串田監督は初の長編映画『写真の女』が2020年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭でSKIP シティアワードを受賞、さらに国内外の映画祭で40冠を達成し、10カ国でのリリースが決定。続く長編第2作目の『マイマザーズアイズ』も、2023年の劇場公開に加え、プエルトリコのルスカ・ファンタスティック映画祭で「最優秀作品賞」を受賞するなど世界で高い評価を受けている。

海外を見据えた制作活動をする上で必須となる英語字幕や『初級演技レッスン』の見どころについて串田監督にインタビューを敢行。翻訳担当者と共にお話を伺った。

『初級演技レッスン』予告編

◆映像制作の原点はイギリスでの経験

串田監督の映像制作は、イギリスの芸術大学の実験映像学科から始まった。ストーリーがなく、人間の肉体や身体の動きを捉えたものやダンスに関する映像を主に手がけていたという。その影響もあってか、串田監督の作品の主人公は無口な人物が多く、全体的にセリフが少ないのが特徴と言える。

串田壮史監督

「私の作品で言葉やセリフが少ないのは、イギリスでの経験の影響が大きいですね。当時、英語がそれほど得意ではなかったことに加え、スコットランドなど地方出身の人の英語は特に聞き取れなかった。でも、彼が今何を考えているのかは表情とかでなんとなく分かるんですね。面白い話や真剣な話をしている時の言葉の間(ま)とかはきっと世界共通の何かがあるのではないかと感じました。私が映像を作る時は、英語の会話劇を作るとつたない部分が出てしまうと思うので、言葉がなくても人間の感情が伝わるようビジュアルの部分を深く掘り下げているところがあります。また、私の作品では音にこだわりがあり、セリフや効果音をすべて別録りとして収録しています。言葉ではなく、ビジュアルや音で伝わることに重きを置いているのも海外で評価される理由かもしれません。」(串田壮史監督)

◆シンプルなセリフは極力シンプルに 難解なセリフはニュアンスを丁寧に読み解く

『初級演技レッスン』の主人公は、廃工場で演技指導を行うミステリアスな男、蝶野。この場所に父を亡くした子役俳優の一晟と、一晟の学校の担任教師・千歌子が訪れ、即興演技の指導が始まるが、どの人物もセリフは多くはない。脚本も串田監督が自ら手がけている。

© 2024 埼玉県/SKIP シティ彩の国ビジュアルプラザ

「蝶野のセリフは『石を拾ってください』『もっとゆっくり息をしてください』などシンプルなものと、『時間なんて人間が作った嘘だ』のようなすごく難解な言葉の両極端なものです。彼は無言で演技をしている場面が多い。シンプルなセリフは他の場面でも繰り返し出てくるものもあります。それを視聴者にも気づいてもらうために、分かりやすい表現でなくてはいけない。ですから英語字幕もシンプルなセリフは極力シンプルに、哲学的なところはその深いニュアンスを字幕にもしっかり盛り込んでいただくようにお願いしました。」(串田壮史監督)

◆時計の針は「止めた」のか「止まっていた」のか

串田監督は、スタジオで行う英語字幕の収録現場にも自ら立ち合い、細かいニュアンスについてディレクターと話し合った。監督の意図をより英語字幕で表現するためにブラッシュアップしたのは、廃工場にかけてある時計に関する蝶野の下記のセリフだと言う。

時計は、止まったままにしてあります 

時間を気にすると演技に集中できないので

© 2024 埼玉県/SKIP シティ彩の国ビジュアルプラザ

「はじめは“I’ve stopped the clock”となっていたのですが、私の意図としては彼が時計を止めたのではなく、始めから止まっていたというニュアンスでした。それがこの廃工場のキャラクターでもあり、彼がこの場所を選んだ理由でもあります。そこで、最終的には“I’ve left the clock stopped”にしていただきました。ちなみにこの針が刺している時刻にも意味が込められています。今回、翻訳者の皆さんとお話しして、その意図は伝わっていたことが分かりました。実は過去の長編2作品の英語字幕は私自身が制作し、弊社の国際部が監修をしていました。今回は初めから国際映画祭での上映を見越して英語字幕が付くということで、クレジットにも翻訳者の皆さんのお名前を入れています。英語字幕を作られる方もこの作品の主要なメンバーだと思いましたので。」(串田壮史監督)

実はこの箇所は翻訳チームでも話し合った箇所だ。当初は“I’ve left the clock stopped”で納品したが、英語として少し不自然ということで収録時には“I’ve stopped the clock”と直しが入っていたという経緯がある。今回は、収録現場に串田監督が立ち会って頂いたことで監督の意図と当初の翻訳者の意図が合っていたことを確認することができ、英語で制作側の想いを伝えることの奥深さを実感する貴重な体験となった。

◆世界の映画祭での上映で感じた英語字幕の役割

これまで、『写真の女』『マイマザーズアイズ』が英語字幕付きで世界の映画祭で上映された際、串田監督も複数の会場で観客と共に鑑賞してきたが、各国での反響はさまざまだという。

『写真の女』
『マイマザーズアイズ』

「映画館というのは4つの壁で仕切られていて、映画館に100人いたら100人だけの王国があるんですね。そこにどんな人が集まるかで、会場の雰囲気は全く変わってしまうと感じています。アジアとアメリカ、ヨーロッパなどでも伝わり方が違うでしょうし。不思議なのは、日本語でみたら別に面白いシーンではないところで笑いがおこることがある。日本語は少し長めですが、英語では短く3ワードくらいだとそれが面白かったり、これは字幕の妙だと思いますね。一方で英語字幕は各国の言葉に翻訳されるときのベースになるので、どんな国の人が見ても理解できるシンプルなものが望ましいと考えています。ここで、英語字幕が作者の意図からずれてしまったり、ネイティブ以外には分からない表現になったりすると、その先でさらに他の言語に翻訳される際にも真意が伝わらなくなってしまいます。今回『初級演技レッスン』の英語字幕はいい塩梅で作って頂いたと感じています。」(串田壮史監督)

◆「問題は出すが、答えは出さない」

『初級演技レッスン』について串田監督は、「問題は出すが、答えは出さない作品」と語る。翻訳者は映像に映る様々なアイテムに込められた監督の意図を読み解こうと何度も話しあった。「パイナップル缶の穴」「止まった時計の針がさす時刻」ダンスシーンの意味は何か?どこまでが現実でどこからが演技やフィクションなのか?空き缶が転がっているシーンは西部劇?その空き缶から蝶野がのぞく意味は…。

「穴の開いた空き缶は蝶野の象徴であり、冒頭で空き缶が転がるシーンは西部劇で出てくる枯れ草(回転草)のイメージで、蝶野が登場するシーンへの伏線でもあります。その缶を蝶野自身が拾って覗き込むとその先で男女が抱擁する演技の撮影をしている…。この場面は視聴者に対して、『どこまでがフィクションでどこまでリアルなのかわからない映画がこれから始まりますよ』ということを暗にほのめかしているわけです。ダンスは私の作品にはよく出てくるのですが、『ダンスの意味は』とつい考えてしまうことがダンスの良さだと思っています。動きの意味がなくても原始的なコミュニケーションとして人は何かを感じ取ってしまう。それ自体が私の意図でもあります。この作品の撮影はSKIPシティがある川口市で行いましたが、敢えてランドマークは極力映さずに匿名性のある感じにしています。川沿いで登場人物たちが迷っている街という表情を見せてくれるにはとても良かったと思いますね。」(串田壮史監督)

◆「水」というモチーフに込められた想い

翻訳者はさまざまなシーンから時系列を整理し、人物の関係性や各シーンに映りこむアイテムやダンスシーンについても細かく精査して、その謎かけの答えを探しながら翻訳を進めた。コップの水、川の水など随所に現れる「水」というモチーフの意味もその一つ。翻訳者が水について調べるうちに「水には記憶がある」という記述を見つけたと監督に話したのが印象的だった。

© 2024 埼玉県/SKIP シティ彩の国ビジュアルプラザ

「水というのは無意識の象徴とされています。水に記憶があるという話は私も聞いたことがあります。水は空から降ってきてそれが湖や海に溜まり、人の口に入って体を通過してまた大地にもどり、蒸発してまた空に戻る。今自分の身体にあるものはかつて誰かの身体や意識にあったものかもしれません。水には、誰かの魂とか通過した人たちの記憶が宿っている。そういういろいろなものが循環して1カ所に集まる、この映画の登場人物にもそんな想いを重ねています。」(串田監督)

翻訳者が監督の意図や特にこだわりのあるシーン、撮影秘話などを監督に直接伺う機会はなかなかない。謎かけの多い作品だからこそ、この取材では翻訳者がその答え合わせを監督と直接できる、さらに英語字幕の役割を再認識できるという貴重な機会となった。幻想的な作品の全貌をさまざまなヒントを読み解きながら、ぜひスクリーンでご鑑賞ください。

『初級演技レッスン』

2.22㊏ ユーロスペース、MOVIX川口ほか全国順次ロードショー

監督・脚本・編集:串田壮史

出演:毎熊克哉、大西礼芳、岩田奏、鯉沼トキ、森啓一朗、柾賢志、永井秀樹、石井そら、中村天音、大滝樹、村田凪、高見澤咲

2024年/カラー/5.1ch/ビスタサイズ/90分 配給:インターフィルム

公式X:https://x.com/act_for_begi

公式HP:https://act-for-begi.com/

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