【『citylights』上映会レポート】大事なことは、まず自分が音声ガイド作りを楽しむこと
11月15日(金)、JVTA東京校にて音声ガイドの歴史をひも解く映画『citylights』の上映会を開催し、約30名が参加しました。ゲストは、2001年に設立のバリアフリー映画鑑賞推進団体 City Lightsの代表で、音声ガイド作りのパイオニアの平塚千穂子さん。City Lightsは、視覚障害者の皆さんが映画館で映画を楽しむための同行鑑賞会などを実施する中で、見えている情報を言葉で説明する「音声ガイド」という手法を確立しました。2016年にはすべての作品に音声ガイドとバリアフリー字幕を付けて上映し、目の不自由な人も、耳の不自由な人も、どんな人も一緒に映画を楽しめるユニバーサルシアター「CINEMA Chupki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)」を開館しました。
※『citylights』より
『citylights』は、その初期の活動を追ったドキュメンタリーです。先天盲をはじめ、病気や事故による中途失明などさまざまな理由で見えにくい人たちをモニターに迎え、見える人たちと意見を出し合いながら、音声ガイド作りを行うモニター検討会の様子が映しだされています。「見えなくても“間”を楽しんでいるので言葉を入れすぎないでほしい」「“ボランティアだからあれもこれもやってあげます”という姿勢は嫌」など、当事者のリアルな声も収録されていて、音声ガイドとは何か、どんなガイドが必要とされるのかを改めて考えさせられる内容でした。
上映後は平塚さんが登壇し、JVTAのバリアフリー事業部の村西亜矢子ディレクターとトークを行いました。
◆初めて音声ガイドを付けた映画は『ライフ・イズ・ビューティフル』
初めて音声ガイドを作った映画は、『ライフ・イズ・ビューティフル』。右も左も分からないまま、4カ月かけて制作したそうです。
「先天盲のモニターさんに意見を聞いてみると、生まれつき見えないことが当たり前で自分の想像を楽しんでいる人たちは、そんなに細かい情報は求めていないことが分かりました。『この説明はいらない』と言われ、多くのガイドをカットした結果、かなりざっくりとした仕上がりになりました。完成後、東京視覚障害者生活支援センターで上映会を行ったところ、『全然分からない。なぜもっと説明してくれないのか?』『あまりにも情報が少なくて、同席した家族に“何が映っているの?”と聞いてしまった』と不評でした。この日の参加者は視力を失って間もない、生活訓練を受けている方たちだったため、先天盲のモニターさんとは求めるものが違ったのです。それに気づかされました」(平塚さん)
その日、会場で出会ったのが、現在JVTAの音声ガイド講座で指導する河野雅昭講師。当時は映像翻訳者で過去に映画製作の経験もある河野氏から「製作者の目線が入っていない。これからはカメラアングルなども意識して製作者の視点で作っていきましょう」と指摘され、その後、一緒に音声ガイド作りに加わってもらったそうです。
◆約4時間の大作『風と共に去りぬ』の音声ガイドに挑戦
次の上映は、2002年3月の調布映画祭。調布市民の推薦を受けて平塚さんが実行委員会に参加し、バリアフリー上映会を開催します。希望する上映作品について、視覚障害者の皆さんにアンケートを取ったところ、日本映画は寅さんの『男はつらいよ』、外国映画は『ローマの休日』が1位。ところが『ローマの休日』は上映権が切れていて上映できなかったため、第2位だった『風と共に去りぬ』という約4時間の超大作に決まりました。
「この映画のガイド作りのプロセスを作文に書いたものが、NHK障害福祉賞を頂きました。音声ガイドを作る際、最初は皆、見えている人と同じくらいのものを見せたいと思って失敗するんですね。だから、いろいろ書いて“見えている人と同じ感動を”というところに持っていこうとします。視覚障害者のモニターが『ここはガイドはいらない』といっても『いや、ここで晴眼者は感動しているのに視覚障害者は感動できないのではないか。晴眼者が分かっていることがあまり分かっていないのではないか』と。どうしても晴眼者に近づける考えをしてしまうのです。確かに視覚障害者にもいろいろな人がいます。映画を観慣れていない人や見えなくなって間もない人は不安だから、沢山の情報が欲しいと思っています。一方で映画を観慣れていて自分で想像する余地を楽しむ余裕が出てくると『そんなに説明いらないなとか、もっと自由でいいんじゃない』と思うようになります。見えない人は見えない人なりの感じ方があり、映画の見方があります。だから必ずしも言葉で伝えることで晴眼者が見えていることを伝えるということではない。それがだんだん分かってきました」(平塚さん)
◆ガイドを作ったら読むだけでなく吹き込んで聴き、音で確認してみるのがおすすめ
音声ガイド作りも映画館づくりも、よく分からないけど、まずやっちゃえから始まった。いろいろな人に教えてもらって失敗しながらより良いスタイルを探してきたと話す平塚さん。最近は大切なのは原稿だけじゃないと感じるといいます。
※原稿(イメージ)
「ガイドを作ったらすぐ音にして吹き込んで聴いて検証したほうがいい。リズム感や“間”などを意識し音楽的に音声ガイドを考えるようになってきました。最終的に聴く人は音で聴いているわけですから、そうやって作るとよりシーンにフィットしたガイドが作っていけると思います。先日、小学校で音声ガイドを作る授業があったのですが、今の小学生はiPadを使いこなしてその場でiMovieに吹き込む作業までやってしまうんですよね。こうした技術も利用し、原稿を作って黙読するだけでなく、吹き込んで聴いてみることをぜひやってみてください」(平塚さん)
※映画館などで音声ガイドを聴くレシーバー
◆まずは自分が楽しんで音声ガイドを作ることが鍵
大事なことは、まず自分が音声ガイド作りを楽しむこと。そして、視覚障害者の方と対等な関係で好きなことをやっていけばいいと話す平塚さん。ガイド作りをする中で、自分一人で見ているだけでは気づかないことにも気づき、やはり映画ってよくできているなと、ますます映画が好きになったそうです。
「日本語って本当に素敵な言語だと思います。あるモニターさんはその一音一音にイメージがあると話していました。とても音を大切にする方で『このシーンにカキクケコというカタイ音は合わない』というアドバイスをくれます。音声ガイドを作るということは、映画というさまざまな要素がある総合芸術を多くの人に繋いでいくという、すごく面白いことをさせてもらっている。皆さんもそれを楽しみながらやっていただけたらいいなと思っています」(平塚さん)。
イベント終了後は、平塚さんが執筆した書籍『夢のユニバーサルシアター』の特別販売会とサイン会が行われ、多くの参加者が列を作って歓談していました。
JVTAはこれからも平塚さんの活動を応援し、映像のバリアフリー化に取り組んでいきます。
★JVTAでは音声ガイドのスキルを教える講座を開講中。無料説明会も開催しています。音声ガイドづくりに触れてみたい方はぜひご参加ください。
http://www.jvtacademy.com/chair/lesson3.php
◆書籍「夢のユニバーサルシアター」、平塚さんのメッセージはこちら
夢のユニバーサルシアター 著者・平塚千穂子 発行・有限会社 読書工房
https://www.d-kobo.jp/news/universal_theater/
◆CINEMA Chupki TABATA 公式サイトhttp://chupki.jpn.org/