『こころの通訳者たち What a Wonderful World』が劇場公開 3人の舞台手話通訳者たちの動きを音声ガイドで伝える挑戦とは?
ドキュメンタリー映画『こころの通訳者たち What a Wonderful World』が10月22日(土)から全国で劇場公開される。JVTAはこの作品を応援し、代表の新楽直樹が公式パンフレットに寄稿している。
※予告編(音声ガイド入り)
耳の聴こえない人にも演劇を楽しんでもらうために挑んだ、
3人の舞台手話通訳者たちの記録。
その映像を目の見えない人にも伝えられないか?
見えない人に「手話」を伝えるには。
※『こころの通訳者たち What a Wonderful World』より
この作品が制作された背景には、手話付きの舞台公演「凛然グッドバイ」の舞台手話通訳者 3 人を追った記録映画『ようこそ 舞台手話通訳の世界へ』がある。手話通訳者が舞台の袖や端にいるのではなく、衣装を着て同じ舞台に立つ。そして単に言葉を置き換えるということではなく、それ以上の表現をしている。どこまでが役者なのか、どこまでが手話通訳者なのか分からない…。山田礼於(れお)監督は、そんな姿に感動したという。舞台手話通訳者という存在に興味を持ち、映画を撮りたいと考えた時、ユニバーサルシアター「シネマ・チュプキ・タバタ」の代表、平塚千穂子さんに企画を持ち込んだ。この作品の魅力を見えない人にも伝えるために音声ガイドを付けたい… 。『こころの通訳者たち What a Wonderful World』には、手話付きの舞台を音声ガイドで伝えるという新たな試みに挑む制作現場の奮闘が描かれている。
※『こころの通訳者たち What a Wonderful World』より
「シネマ・チュプキ・タバタ」では、すべての作品にバリアフリー字幕と音声ガイドを付けて上映している。平塚さんは視覚障害者の方との“同行鑑賞会”からスタートし、言葉で人物の動きや表情、情景などを伝える「映画の音声ガイド」というツールを作り上げたパイオニアだ。しかし、20年以上のキャリアの中でも手話通訳者の活躍を伝えるのは初の試みであり、全く白紙の状態からスタート。見えない人、聞こえない人、手話通訳者、音声ガイド制作者、舞台演出者らが一堂に会し、話し合いを重ねた。
※『こころの通訳者たち What a Wonderful World』より
『ようこそ 舞台手話通訳の世界へ』には、公演終了後に3人の手話通訳者が抱擁しあう場面がある。平塚さんは、この時の彼女たちの“万感の想い”が見えない人に伝わらなければ成功したとは言えないと感じたという。見えない人と聴こえない人はコミュニケーション手段が真逆であり、お互いに知らないことが多い。分からないことを率直に質問しあい、理解を深めていく。その過程を楽しみながら新たな表現を共に探求していくという貴重な体験となった。
※『こころの通訳者たち What a Wonderful World』より
平塚さんから、映像のバリアフリー化に取り組むぶ受講生・修了生の皆さんにメッセージを頂いた。
「この映画は、作品の作り手と多様な観客をつなぐ通訳の本質を描いています。
戯曲作家であり演出家の想いを汲み取って演じる舞台役者たち。その役者たちの表現を、聴こえない観客に伝えるため、忠実に訳そうと取り組む舞台手話通訳者たち。その通訳者たちの姿をありのまま、見えない人に伝えるにはどうしたら良いのか?この難題に挑戦する音声ガイドプロジェクトチームのドキュメンタリーです。作者から演者、そして通訳者へ。それぞれが大事にした言葉になる前の〈こころ〉を、橋渡しとなる私たちが、バトンのようにちゃんとつないでいくことができたら。それは、人への思いやりと信頼を回復するチャレンジでもあります。
※『こころの通訳者たち What a Wonderful World』より
『人を介するとろくなことがない』という“神話”の方が、はびこってしまっているようなこの世界で、コミュニケーション手段となる『言語』の異なる人と人との間をつなぐのは、本当に難しいチャレンジです。しかし、私たち通訳者の取り組みが、ほんの少しの希望になれたらと願っています。そして、この映画を観てくださったJVTAの受講生・修了生の皆様が、この仕事に、ほんの少しでも、やる気と誇りを感じてくれたら、なおのこと嬉しいです。是非、何度でも観にきてください。そして、感想を聞かせてください。」
(シネマ・チュプキ・タバタ代表 平塚千穂子さん)
※『こころの通訳者たち What a Wonderful World』より
「シネマ・チュプキ・タバタ」で行われた試写会(2022年9月)にはJVTAのバリアフリー講座の修了生も訪れた。動画配信サービス用の映画やドラマの音声ガイドを手がける植田啓太さんに作品の感想を聞いた。
「この映画を見て一番驚いたのは、舞台手話翻訳という手法でした。オプション的に作品をバリアフリー化させるのではなく、作品そのものをバリアフリー化しているという、今までよりも一歩踏み込んだ形であり、ここまで来ているのかと驚かされました。
聴覚障害者のための技術はテレビの字幕CMや上野駅でやっているエキマトペ(※)などいろいろ目にします。一方、視覚障害者に対するものがあまり多くないように感じています。それだけ視覚から得る情報は大きく、技術化することも難しいものだと痛感させられました。と同時に、見えづらい人は、それを補うために温度などいろいろな情報を読み取っていることをこの映画で知ることができました。知らず知らずのうちに、視覚障害者の方は音の情報だけを頼りにしていると思い込んでいたことにも気付かされました。今後改めて、自分の作るガイドの在り方などを考えるきっかけになりました。」
※エキマトペ:耳が不自由な乗客向けに、駅ホームのアナウンスや電車の発着音を文字や手話に変換してディスプレーに表示する新サービス
(植田啓太さん JVTA修了生 音声ガイドディスクライバー)
この映画に音声ガイドの制作とナレーションで参加している彩木香里さんもJVTAの修了生だ。彩木さんは劇団を主宰し、手話と字幕、音声ガイドを融合した舞台公演など新たな取り組みを続けている。
※『こころの通訳者たち What a Wonderful World』より
試写会で山田監督は、「制作者としてはできるだけ手を加えないかたちで鑑賞してほしいが、それでは伝わらないこともあると分かりました。作品の内容や、制作者の意図を正しく理解できずに作った音声ガイドは、ある意味でぶち壊しにもなりかねない。正しく伝えるためには映画や出演者に対する深い理解や愛情があることが重要です。さらに、見えない人のためだけでなく見える人が聴いても、もう一歩踏み込めるような情報ツールになれば、それは素晴らしいことです」と話した。
皆さんもぜひこの映画を観て、真のバリアフリーとは何かを改めて考えてほしい。
※『こころの通訳者たち What a Wonderful World』より
『こころの通訳者たち What a Wonderful World』
製作・配給 Chupki
2021年/日本/ドキュメンタリー/94分 (C)Chupki
https://cocorono-movie.com
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