日本のコンテンツを海外へ展開するなら 世界水準の知財管理と法務の知識が不可欠
ライセンスビジネスは、アニメ、絵本、小説、映画などのコンテンツや、ブランド、キャラクター、ファッション、スポーツ、アートなど、幅広いIP(知的財産)が対象となる。IPの所有者が他の企業にその使用を許諾し、商品化やプロモーションに活用される。許諾先の業界も多岐にわたり、うまく動かしていくには、専門的な知識やスキルが必要となるビジネスだ。
日本におけるライセンスビジネスは、以前は海外のブランドや有名キャラクターを国内で展開するのが主流だった。しかし、近年では世界中に日本のコンテンツのファンが増え、補助金の制度が確立されてきたことも後押しとなり、海外展開に挑戦する企業が増えている。
「海外の企業と取引をする際、知財管理や法務の知識がないと、知らない間に不利な立場に追いやられ、トラブルが訴訟に発展し、ビジネスの撤退を余儀なくされたり、高額の損害賠償金を請求されるリスクがあります」と語るのは、米ハリウッド系企業における社内弁護士・弁理士として、著作権を中心とするエンタメ法域・企業内法務を専門とする柴田純一郎氏だ。2022年1月15日(土)から開講する「世界を市場にするための知財(IP)戦略セミナー 最低限知っておくべき4つのファクター」で第2回の講師として登壇する。米ハリウッド系企業の社内弁護士の立場で、著作物などの知財を商材とする取引について.10年以上にわたり法務を統括してきた柴田氏に、海外に向けたIPビジネスを始める前に知っておくべきポイントを伺った。
◆これからは日本から海外への進出が鍵
私はこれまで米ハリウッド系企業の社内弁護士の立場で、著作物などの知財を商材とする取引について.法的サポートをしてきました。その過程で、特に日米の文化、発想、慣行、法制度の違いを研究し知識と経験を蓄積するとともに、ハリウッドにとっての最善の利益を迫求して、時にはハードな交渉にも臨んできました。しかしながら、ふと振り返ると海外からの日本進出を支援しても、その逆の貢献は行えていないことに気がついたのです。今回のセミナーでは、私の見聞きしたことを少しでも共有することで日本の方が世界進出することの一助になればと思います。
◆国境を越えた法務交渉・知財管理でハリウッド系日本支社をサポート
学校を卒業後、日系大手電機メーカーに就職し、国際取引契約に携わる仕事をしていました。その後、苦手意識のあった知的財産を強みにしたいとの思いから、知的財産事務所に転身、外国での知的財産権利化業務や外国知財法制の調査研究業務に従事しました。知的財産との最初の出会いはここで、特許、商標、意匠、不正競争と著作権以外の知的財産に深く関わりました。その後、当時ほとんど取り扱いのなかった著作権をやってみたいとの思いが強くなり、ハリウッド系企業日本支社法務部とご縁をいただいて以降、10年以上もの月日をハリウッドエンタメ法の世界で過ごしてきました。プロデューサーの苦労を共に分かち合い、素晴らしいコンテンツを世の中に送り出せた時、この仕事をしていて良かったと思います。プロダクション業務全体からすると私の協力した範囲というのはほんの一部ですが、一緒に何かを作ったという感覚がとても嬉しいのです。
◆弁護士を起用しても決断するのは自分
著作権を含む知財問題や契約条項などの法律問題は、専門性が高く一朝一夕で対処ができるようなものではありません。よって経験豊かな弁護士を起用して並走してもらうことが不可欠です。一方で、弁護士はあなたが決断をするのに必要な重要情報をアドバイスするまでで、あなたに代わって重要な決断をしてあげられるわけではありません。法律の話題について、多くのプロデューサーがあまり得意ではない感覚を持っているような所感を受けていますが、法律問題が生じると、コンテンツがお蔵入りになることもあり、人生を左右するかもしれない問題です。弁護士任せにするのではなく、オーナーシップを自分がしっかり握って、弁護士と密に連携しながら知財問題・法律問題の仕組み、落とし穴の所在を把握して、からくりを理解した上で決断をしていくことが重要です。
◆訴訟リスクに備えることが不可欠
海外でビジネスをする際、まず念頭に置きたいのが、訴訟リスクです。ある日突然訴状が送られてきて高額な金額の損害賠償金を請求されたり、このビジネスの停止を要求されてしまったりということが考えられます。しかし本当に「ある日突然」なのかは極めて疑問です。取引先とのトラブルが訴訟に発展する場合には必ず予兆があるでしょうし、知財の侵害であれば事前に調査をしておけば分かることも多い。別の視点で言うと、自分のコンテンツだと思っていたものが、蓋を開けると第三者に権利を取られていたというリスクも考えられます。日本的感覚だとビジネスの実態は関係者との関係値で、書面で物事を細かく決めるのはナンセンス(ビジネスを動かしながら臨機応変に関係者と決めていけば良い)と考えられている節がありますが、それは相手方の発想や文化がある程度予想できる(共通基盤がある)から通るロジックです。海外でのビジネスでももちろん関係値は非常に重要ですが、そもそも共通基盤がないので、相手方の発想や行動が予想外になりがちです。よって、事が起きてから動くのではなく、相手がどういう発想をするか分からないという不確定要素を事前に確定させておくことが肝になってきます。
◆自分が常識と思っているものが常識とは限らない
重要なのは、自分が常識と思っているものが常識とは限らないという意識。そういう意識を醸成するには、普段から「なぜ自分はこの決断をしたのだろう?そのロジックは何なのか?」と自身を振り返り、論理的に思考を組み立てていくことが大切です。海外とのビジネスにおいて共通基盤があることはほとんど期待できませんが、そんな中でもロジックというのは唯一相手にも通じる共通基盤といえます。共通語がロジックであれば、普段からロジックを鍛錬することが一つのキーだと思います。国は違えど法律としてのロジックや論点は共通することも多い。しかし、それを扱う人及びその文化によって発想やアプローチが異なることを知ることがポイントです。今回のセミナーでは、その違いをご紹介できればと思っています。
柴田純一郎さんが講師を務める講座
Day2:2022年1月22日(土)10:30~12:00
「世界水準の知財管理と法務」
講師:柴田純一郎氏 米国弁護士(カリフォルニア州)・日本弁理士(特定侵害訴訟代理業務付記)
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《海外コンテンツビジネス・講師インタビューシリーズ》
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